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ChatGPT に DCP の説明を頼んでみたら

既に試された方もいるかも知れませんが、現状の ChatGPT の性能を確かめるべく、シネマテクノロジーの基本用語のひとつである “DCP” について説明してもらいました。得られた回答を見ながら ChatGPT を使う際の注意点を考えてみます。

ChatGPT への質問:『DCPについて説明してください』

ChatGPT の回答回答に対する評価
DCPは、Digital Cinema Packageの略で、デジタルシネマプレゼンテーションを作成するために必要なすべてのコンポーネントが含まれたデジタルファイルの集合です。第1文の回答としては十分な説明のようです。
DCPは、長編映画、予告編、その他の映画コンテンツをデジタル形式で配信および上映するために使用されます。高品質の映像および音声ファイル、およびフレームレート、アスペクト比、カラースペースなど、再生方法を記述するメタデータも含まれています。どのような用途、目的に使用されるのか、そして技術的な特徴が簡潔に説明されています。
DCPは、必要なすべてのファイルとメタデータをパッケージ化できる専用ソフトウェアを使用して作成され、DCPと互換性のあるデジタルシネマプロジェクターで再生できます。DCPは通常、ハードドライブやその他のデジタルストレージメディアに配信され、不正なアクセスやコピーを防止するために暗号化される場合があります。作成方法と使用方法について述べられており、配信方法とセキュリティにも触れられています。
DCPは、主要なスタジオや独立系映画製作者など、あらゆる市場で使用されており、デジタルシネマ配信の標準フォーマットとなっています。DCPは、映画のコンテンツを高品質で一貫した再生を提供し、多くの市場で従来のフィルムプリントに取って代わる存在となっています。主な使用者についても述べられ、その信頼性の高さについて触れられています。

何のコンテキストも与えずに用語に関する質問を投げただけでしたが、4つの段落構成で、予想以上に長文の回答が帰ってきました。回答に要した時間は十数秒といったところでした。

因みに、事前に英語でも同じ質問をしたところ、英語では数秒で、ほぼ同じ内容、文章立ての回答が帰ってきていました。

予想以上に良くできた回答だったので、少し期待を込めて、続いてちょっと意地の悪い質問をしてみました。

ChatGPT への質問:『DCPフォーマットの形式にはどのようなものがありますか?』

ChatGPT の回答回答に対する評価
DCPフォーマットには、いくつかの形式があります。以下に、DCPフォーマットの主な形式をいくつか挙げます。いくつかの形式があることを把握できているようです。
1. SMPTE-DCP: SMPTE (Society of Motion Picture and Television Engineers)が策定したDCPの標準形式で、DCPのデジタルメディアフォーマットとして広く使用されています。主に長編映画やイベントシネマなどの大規模な配信に使用されます策定者の定義について若干疑問が残るものの、SMPTEに登録、管理された技術規格書という意味で解釈すると正しい記述です。
しかし、用途として大規模な配信としている点について、そのような運用が推奨されている事実はありません。
2. Interop-DCP: DCI (Digital Cinema Initiatives)が策定したDCPフォーマットで、主にコンテンツの上映など小規模な配信に使用されますSMPTE-DCPと比べ、コンテンツの再生方式やセキュリティなどの仕様が異なります。SMPTE DCP に相対するフォーマットとして挙げてきたのは正しい分類といえるものの、その説明にはかなり事実誤認があるようです。
まず、策定者をDCIとしているのは誤りです。DCIは団体として Interop DCP の仕様策定には直接関与していません。
用途として SMPTE DCP と相対して小規模な配信としているのは誤りで、大規模な配信にも使用されてきました。
コンテンツの再生方式とセキュリティなどの仕様が異なるのは特筆すべき点であり、正しい記述です。
市場に流通するすべてのDCPは上記二つの何れかに該当します。
しかし、用途に関する強引な分類(大規模配信と小規模配信)は全くの誤りで、無理矢理比較軸を単純化して対比的な文章を作ろうとして得られたものではないかと推察します。
3. XYZ DCP: 色空間をXYZ色空間に変換したDCP形式です。主に3D映画の配信に使用されますこの項目が挙げられた理由は不明です。DCPの一形式として XYZ DCP という呼称は使用されません。基本的にDCPに含まれる画像データはすべてXYZ色空間で表現されています。XYZ色空間を使用したDCPを XYZ DCP と呼ぶのであれば、すべてのDCPがこれに該当することになります。
3D映画の配信に使われるという分類も全く不適切です。3D作品も SMPTE DCP か Interop DCP の何れかの形式で作成されます。
以下の二つは興味深い対比ですが、SMPTE DCP と Interop DCP の比較に並べて列挙するのは不適切で、内容的にも正確性に欠く記述となっています。
4. Dolby DCP: Dolby社が策定したDCPフォーマットで、音声の品質を向上させるための圧縮技術を使用しています。主にDolby Atmosサウンドを含む映画の配信に使用されます。Dolby DCP という呼称は一般的に使用されません。どうしても定義するとすれば、次のように書くことができるかも知れません。
SMPTE DCP に対する独自拡張フォーマットとしてDolby社が規定したDCPフォーマットで、Dolby社独自の Dolby Atmos と Dolby Vision に対応する DCP のパッケージに使用されます。上映にはそれぞれの方式に対応した上映システムが必要です。
5. IMAX DCP: IMAX社が策定したDCPフォーマットで、IMAXの大画面に最適化された画像解像度やフレームレート、音声品質などを提供しています。主にIMAX上映に使用されます。IMAX DCP という呼称も一般には使用されません。どうしても定義するとすれば、次のように書くことができるかも知れません。
Interop DCP をベースとしてIMAX社が規定する運用規則に則って作成されるDCPです。IMAXの各種上映方式毎に対応するDCPと上映システムが必要です。
DCPフォーマットは、コンテンツの性質や使用目的に応じて選択されます。各フォーマットは異なる仕様を持っており、機器の互換性やセキュリティなどにも影響を与えます。まとめとしては適切な表現となっているようです。

ChatGPT を使ってみて

単なる用語説明を頼んだ時点では、当たり障りのない一般的な説明文を作ってくれたのには少し感心しました。

しかし、半歩進んで技術的に体系的な理解を必要とする内容になると、一気に破綻してしまったようです。

数多あるウェブリソースから集めた情報を体系化しようとしているように見えなくもないですが、出来上がった文章は表面的には整然と書かれながらも、内容的には強引に辻褄を合わせただけのでっちあげと言わざるを得ない記述も含まれていました。

現時点では、知っている内容を文章化する際の下書き作成には使えるかも知れませんが、十分な知識に基づく内容の校正が必須です。

よく知らない内容を調べるために使用するのは極めて危険です。

尤もらしい整然とした文章にまとめてくれるので、間違いが書かれていても、どこがどう間違っているのかを判別するのは困難です。

今後、内容の正当性を判断する能力が向上し、何れは専門家の知識に匹敵する内容の出力もできるようになるのかも知れませんが、まだしばらくはこのサイトの存在価値もあるのかと感じています。

作成者: Yoshihisa Gonno

デジタルシネマ黎明期の2005年から国内メーカーで初のデジタルシネマ上映システムの開発をリード。その当初からハリウッド周辺の技術関係者との交流を深め、今日のシネマ技術の枠組みづくりに唯一の日本人技術者として参画。
2007年から5年間、後発メーカーのハンディキャップを覆すべく米国に赴任。シネマ運用に関わるあらゆる技術課題について、関係各社と議論、調整を重ねながら、自社システムの完成度を高め、業界内での確固たる地位を確立。
2015年からは技術コンサルタントとして独立。ハリウッドシネマ業界との交流を続けながら国内のシネマ技術の向上に向けた活動を続けている。
2018年から日本人唯一の ICTA(国際シネマ技術協会)会員。
プライベートでも「シネマ」をこよなく愛し、これまでのシネマ観賞(劇場での映画観賞)回数は1500回を優に超える。