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シネマテクノロジー、ゆく年くる年 (2024)

劇場上映による興行成績では明暗が分かれる結果が多かった一年ですが、2024年のシネマ技術を振り返ってみたいと思います。

『HDR』各種

HDR といえば “High Dynamic Range”(『ハイ・ダイナミック・レンジ』)の略称ですが、昨今規格も定義も異なる様々な方式が HDR と呼ばれています。

上映素材、上映機材、上映環境、すべてが異なるテレビとシネマの HDR の規格が異なるのはいうまでもありませんが、シネマの世界に限定しても複数の異なる方式が HDR と呼ばれているようです。

Dolby Cinema (Dolby Vision + Dolby Atmos)

今日一般に HDR シネマとして認識されているのが10年ほど前に登場した Dolby Cinema でしょう。

Dolby Cinema は Dolby 独自の高輝度高コントラスト映像を実現する Dolby Vision と没入型音響を実現する Dolby Atmos の組み合わせで構成されます。

家庭用テレビにも Dolby Vision と Dolby Atmos に対応するモデルもありますが、劇場用と家庭用で同じ素材が使用できる訳ではなく、それぞれに特化した素材と上映環境を用意する必要があり、両者(劇場用と家庭用)は全く別の上映技術と考えるべきでしょう。

2015年に公開された “Tomorrowland (2015)” が最初の Dolby Cinema での公開作品となり、その後多くの作品が Dolby Cinema の規格で公開され、今日シネマ HDR のデファクトスタンダード(事実上の標準)として認知されるようになりました。

しかし、この方式は DCI が規定する HDR の要件を達成しておらず、Dolby 自身も Dolby Cinema が HDR だとは謳っていません。

関連情報:https://www.dolby.com/movies-tv/cinema/

DCI HDR

シネマ用の HDR の規格を定義しているのは DCI のデジタルシネマシステム規格 DCSS の追加規格である “High Dynamic Range D-Cinema Addendum” であり、正式にはこの規格に合致するものが唯一のシネマ用の HDR 方式ということになります。

この規格の最新版に基づく認証試験の規定書は今年改訂されましたが、現時点でこの規格で認証を受けた上映機材は存在しません。

関連情報:https://documents.dcimovies.com/HDR-Addendum/release/1.2.1/

HDR by Barco

数年前から CinemaCon などのトレードショーで基盤となる技術紹介が行われてきました。そして、今年の CinemaCon2024 では “HDR by Barco” として紹介されました。最初の劇場公開作品となったのは “Transformers One (2024)” でした。

この上映システムが DCI の認証試験を受け始めたのは DCI の HDR 規格が発布される前で、Dolby Cinema 同様、通常の上映システムとして認証を受けています。

将来的に DCI HDR に対応する可能性もあるかも知れませんが、現状 DCI HDR 準拠を謳うことはできませんので、当面は “HDR by Barco” という独自のブランディングで普及を進めようとしているようです。

関連情報:https://hdrbybarco.com/

今後、これら三種類の規格がどのように市場で受け入れられるのか注視して行きたいと思います。

技術規格・登録情報の更新

DCPの名前付け規則

劇場に配信される DCP の名前(ファイル名/フォルダ名)の運用規則に関するアップデートです。

〜没入型音響の音声トラックの略号 IAB の命運は?〜

従来の AtmosDTSXAuro から SMPTE 規格に基づく略称 IAB での運用が始まった筈でしたが、市場の一部から強い反発があり、従来の略称のままで運用を続けることになるかも知れません。
日本国内では AtmosIAB の二種類が出回る覚悟をしておく必要がありそうです。

関連情報:デジタルシネマ 名前付け規則 /
付録4: 音声チャンネル形式と音声ガイドの言語 (日本語訳)

〜注意事項:事業者の名前登録について〜

年に数件ずつではありますが、日本国内の事業者からスタジオコードとDCP制作設備の登録申請を受け付けてきました。

殆どの場合、問題なく登録させて頂いていますが、稀に連絡先の確認ができずに放置せざるを得ないケースがあります。

登録の際には、連絡先のメールアドレスに間違いがないことをご確認いただき、cinematechnology.jp ドメインからの確認メールにご注意ください。

関連情報:デジタルシネマ 名前付け規則 /
付録5: スタジオコード付録6: DCP 制作設備 (日本語訳)

作成者: Yoshihisa Gonno

デジタルシネマ黎明期の2005年から国内メーカーで初のデジタルシネマ上映システムの開発をリード。その当初からハリウッド周辺の技術関係者との交流を深め、今日のシネマ技術の枠組みづくりに唯一の日本人技術者として参画。
2007年から5年間、後発メーカーのハンディキャップを覆すべく米国に赴任。シネマ運用に関わるあらゆる技術課題について、関係各社と議論、調整を重ねながら、自社システムの完成度を高め、業界内での確固たる地位を確立。
2015年からは技術コンサルタントとして独立。ハリウッドシネマ業界との交流を続けながら国内のシネマ技術の向上に向けた活動を続けている。
2018年から日本人唯一の ICTA(国際シネマ技術協会)会員。
プライベートでも「シネマ」をこよなく愛し、これまでのシネマ観賞(劇場での映画観賞)回数は1500回を優に超える。

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