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CinemaCon 2022 (4/25-28)

コロナ禍による行動規制が緩和される中、4月25〜28日、米国ラスベガスで シネマ業界最大のイベントである CinemaCon 2022 が開催されました。

2019年以来の通常開催が実現した本会合の状況を総括します。

CinemaCon

米国劇場主協会 (NATO: National Association of Theatre Owners) が主催する映画興行業界最大のコンベンションです。映画の興行収入を稼ぎ出す映画館を応援することで、シネマ業界の活性化に寄与することを目的としてこれまで毎年4月頃に開催されてきました。(注:もう一つの NATO: North Atlantic Treaty Organization 北大西洋条約機構と混同されることがありますが、両者の間に何の関係もありません。)

コロナ禍の影響

新型コロナの直撃を受けて直前の中止決定となった2020年の後、昨年2021年はコロナ禍の鎮静化を期待して8月に遅らせて強行開催されましたが、出展企業、参加者とも出足が伸び悩み、コロナ禍前の例年の1/3程度の規模となってしまいました。

米国では日本の約10倍の映画館(スクリーン数)が運営される中、その大半が一年以上に渡って休館もしくは大幅な営業制限を余儀なくされ、閉館や倒産に追い込まれた映画館もあり、業界全体が大きな打撃を受けてきました。

収益の大きな割合を映画館の興行収入に依存している映画会社としても、今年こそは何とか映画館に活気を取り戻して欲しいという期待感が伝わってきました。

会場の賑わい

あくまでも筆者自身が現地で得た主観と業界各所の知人の参加状況に基づく推測ですが、コロナ禍前の例年と比べて来場者数は6〜7割程度に戻ったと感じられた一方で、米国外からの来場者数は例年の2割以下に留まるという印象でした。

映画会社からのメッセージ

映画会社各社からは映画館に対する激励のメッセージに加えて、新作の紹介や本編の上映が行われます。

ハリウッド5大メジャー(Disney、Paramount、Sony、Universal、Warner)に加えて、Lionsgate、NEON、Focus から、数多くのハリウッドセレブを招いて新作紹介があり、各社からの映画館に対するメッセージはいずれも例年にも増して力強いものばかりでした。

“Top Gun: Maverick”[IMDb] の先行上映も大反響でした。

一方、ここ数年参加を続けてきた Amazon の姿はなく、今後のネット配信との棲み分け姿勢について懸念材料といえるかも知れません。

映画館の価値の再確認

コロナ禍が始まった2020年は殆どの大型作品の劇場公開は延期され、一部の作品はネット配信での公開に切り替えられたことから、これからはネット配信が主流になるという噂も流れました。

劇場公開が再開され始めた2021年には、一部の作品で従来の劇場公開を独占先行させるという慣習を見直し、ネット配信等他メディアとの同時公開に切り替える動きも見られました。

それでも劇場公開の独占先行を堅持した “Spider-Man: No Way Home”[IMDb] が記録的な興行成績を叩き出したことで、劇場独占先行公開の重要性を再確認することになったようです。

海賊版による収益損失の懸念

映画会社各社が最も懸念しているのは海賊版による収益の喪失です。

劇場公開とネット配信等各種家庭用デジタルメディアでの公開との決定的な違いとして海賊版の品質の高さと流出の早さが挙げられます。

今日、劇場公開版のデジタルコピーが出回ることはありません。高品質の劇場公開作品は適切に管理された映画館でしか楽しむことができないという大前提が保たれています。

しかし、ネット配信等が行われると公開翌日には高品質のデジタルコピーが流出するという事態が常態化しており、その後継続的に得られるはずの多額の収益が失われていると指摘されています。

今回の Spider-Man の結果を受けて、コロナ禍が収束しない現状にありながらも、劇場独占先行公開が商業的に極めて重要であることが映画会社関係者の間で再確認されたようです。

劇場上映機材会社の展示

映画館の各種上映設備の機材メーカー、販売会社が各社の新製品、新技術を展示、紹介します。

コロナ禍前と同じホテルの大会議場と多数の会議室を使用しましたが、残念ながらコロナ禍前の展示規模と出店数を総合的に比較して、半分以下に留まっていたという印象です。

原因として考えられるのはコロナ禍だけでなく、シネマ業界全体として目新しい製品や技術の開発が滞っているという事実を無視することはできません。

上映設備のデジタル化が一巡し、映画館としては新製品、新技術に対する関心も低く、機材メーカーとしても売れる見通しの立たない製品開発を続けにくいという事情もうかがえます。

特にコロナ禍前に大きな話題となった所謂『シネマ用ビデオウォール(LEDディスプレイ)』を開発していた各社はすべて姿を消してしまいました。また、レーザー光源を採用したプロジェクターや高性能のシネマサーバーも目新しさを欠く寂しい内容の展示となっていました。

物品販売会社の展示

映画館で販売される飲食物の販売業者、映画上映以外の各種劇場設備(シート、建築部材、照明機器など)の販売業者が各社の製品の展示、紹介を行います。

コロナ禍前と同じホテルの大会議場を埋め尽くす出展があり、コロナ禍前と比べて8割程度には回復していた印象です。

飲食物としては日本では販売されていない興味深い菓子、スナック類が多数展示され、あれこれ試食したりサンプルの持ち帰りができるのも毎度のお楽しみです。

感染対策とその結果

当初の案内では来場者全員にワクチン証明もしくは陰性証明の提示を必須とするのに加えて、会場ではマスク着用の励行を求めていましたが、1ヶ月前になって米国内関係各所からマスク着用の緩和が通知されたことを受けて、会場でのマスク着用義務は解除されました。

実際、会場となったホテルではマスクを着用するのは10人中ひとり以下、劇場等の入退場の際の大混雑の場でも10人中2〜3人程度といった印象でした。

CinemaCon 参加者にはワクチン証明または陰性証明の確認が徹底されていたとはいえ、ホテル内の一般宿泊客やカジノ客に特に制約はなく、かなり密になるような場面も散見されました。

これらの要因との因果関係は全く不明ですが、結果として、非公式な後日談によると陽性反応がでた参加者も相当数出てしまったようです。

こうした結果になることも織り込み済みで、マスク解除を含む行動規制の緩和に踏み切ったのかも知れません。

作成者: Yoshihisa Gonno

デジタルシネマ黎明期の2005年から国内メーカーで初のデジタルシネマ上映システムの開発をリード。その当初からハリウッド周辺の技術関係者との交流を深め、今日のシネマ技術の枠組みづくりに唯一の日本人技術者として参画。
2007年から5年間、後発メーカーのハンディキャップを覆すべく米国に赴任。シネマ運用に関わるあらゆる技術課題について、関係各社と議論、調整を重ねながら、自社システムの完成度を高め、業界内での確固たる地位を確立。
2015年からは技術コンサルタントとして独立。ハリウッドシネマ業界との交流を続けながら国内のシネマ技術の向上に向けた活動を続けている。
2018年から日本人唯一の ICTA(国際シネマ技術協会)会員。
プライベートでも「シネマ」をこよなく愛し、これまでのシネマ観賞(劇場での映画観賞)回数は1500回を優に超える。

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