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『アバター:ジェームズ・キャメロン 3Dリマスター』公開と混乱

2009年に公開された『アバター』から延期に延期を重ねること13年、続編の公開を12月に控える中、最近の上映設備の能力に適応すべく修正された『アバター:ジェームズ・キャメロン 3Dリマスター』が期間限定で公開されています。

2009年当時はデジタルシネマの上映設備の普及が進む一方で、3D上映では2D上映の1/3程度の明るさでしか上映できず、製作者にとって十分満足できる環境が整っていませんでした。

現在は Dolby Cinema や IMAX with Laser のような高輝度上映が可能な上映設備が一部では利用できるようになってきたこともあり、これらの上映基準に適合するように画質と音質を改善しながら、リマスター、パッケージし直されたようです。

一方、高輝度上映に対応していない従来の上映設備では通常上映用のパッケージ(DCP)が使用されるので、オリジナル2009年版との品質上の違いを感じるのは難しそうです。それでも、若干の追加映像も含まれているようなので、二作目公開に先立って、一作目の復習という意味で観る価値はあるかも知れません。

ところが、国内外の様々なメディアに投稿されている内容を見ると、上映方式と品質について誤解や混乱もある様です。

上映方式に関する混乱

国内配給元のウェブサイトに「奇跡の4K HDR映像による、リアルを超え進化した3D映像を体験できる特別版」という表記がありました。

また、ある劇場チェーンのウェブサイトには対応した設備がないにも関わらず、すべての上映館で 4K HDR 3D 上映が楽しめるのかのような表記も見られました。

映画館での映画鑑賞を喚起するために注目を集めそうなキーワードを散りばめながら宣伝したくなる気持ちは分かるのですが、コロナ禍で業界が冷え込んだ状況だからこそ、正確な説明を期待したいものです。

個別の上映方式の技術内容についてご質問がある場合は、別途ご連絡ください。

字幕版と吹き替え版

今回の再公開で気になるのが、殆どの上映方式に対して字幕版と吹き替え版が用意されている点です。

高輝度上映における明る過ぎる字幕の問題は随所で指摘してきました。

これに加えて、3D 上映では字幕と映像の奥行き方向の表示位置を注意深く調整しながら制作する必要があります。

例えば、背景映像が遠方に表示されていても、対象物が前後に移動したり、複数の対象物が個別に移動する場合、字幕の表示位置の調整を誤ると、極めて観づらい、あるいは観るに堪えない映像になってしまいます。

13年前の公開時でも丁寧に作り込まれていたので、過度に心配する必要はないと思いますが、この問題を確実に避けるには吹き替え版を選ぶことになります。

作成者: Yoshihisa Gonno

デジタルシネマ黎明期の2005年から国内メーカーで初のデジタルシネマ上映システムの開発をリード。その当初からハリウッド周辺の技術関係者との交流を深め、今日のシネマ技術の枠組みづくりに唯一の日本人技術者として参画。
2007年から5年間、後発メーカーのハンディキャップを覆すべく米国に赴任。シネマ運用に関わるあらゆる技術課題について、関係各社と議論、調整を重ねながら、自社システムの完成度を高め、業界内での確固たる地位を確立。
2015年からは技術コンサルタントとして独立。ハリウッドシネマ業界との交流を続けながら国内のシネマ技術の向上に向けた活動を続けている。
2018年から日本人唯一の ICTA(国際シネマ技術協会)会員。
プライベートでも「シネマ」をこよなく愛し、これまでのシネマ観賞(劇場での映画観賞)回数は1500回を優に超える。

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