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シネマテクノロジー、ゆく年くる年 (2020)

今なお世界を席巻するコロナ禍によりシネマ業界も未曾有の大打撃を受けた一年となりました。

ワクチン開発の知らせが流れ始めたとはいえ、新たな日常に落ち着くまでにはまだまだ時間が掛かりそうで、映画業界の回復にもかなりの長期戦を覚悟する必要がありそうです。

これからのシネマ業界の方向性を見定めるためにもシネマ業界の現状を振り返ってみたいと思います。

続く興行制限と新作公開の延期

日本国内で映画館が全面的に休館となったのは緊急事態宣言下の約1ヶ月でしたが、欧米はじめ多くの国々では未だに大規模な休館が続いており、この状況を持ち堪えられずに閉館に至る映画館も増えているようです。

興行収入を得る場が絶たれた映画会社の方は軒並み新作公開を延期し、その影響は映画館を営業している日本にも及んできました。

欧米作品の日本への配給は数ヶ月から数年遅れになるのが通例であったため、今年前半は日本市場への新作公開もありましたが、今年後半に至ってはメジャー作品の新作公開が殆どなくなってしまいました。

映画館の本格的な営業再開に見通しが立たない中、興行収入を絶たれた映画会社の中にはこれまでの映画館との関係を見直す動きも出てきてしまいました。

配給慣例の転換、劇場ビジネスの危機

ライブパフォーマンスを提供する劇場ビジネスが軒並み壊滅的な打撃を受ける中、映画業界では少し特異な動きが見られます。

歴史的に映画産業は映画館の興行収入により支えられて成長してきたこともあり、DVD、Blu-ray、ストリーミング、ペイチャンネルなど他メディアによる配給よりも様々な形で映画館は優遇されてきました。

すなわち、新作公開は映画館限定で行い、他メディアによる配給を一定期間行わないというやり方です。

これにより映画館は優先的に興行収入を得ることができていました。

しかし近年高画質ストリーミングサービスの台頭により、オリジナル作品を製作して劇場との同時配給を行ったり、ネットストリーミング限定の配給を行う『映画会社』も出てきていました。

それでも旧来の映画会社は辛うじて映画館との関係を保ってきましたが、コロナ禍の影響で映画館の休館が長期化する中、当座の収益を上げるために、ストリーミングサービスへの先行配給に踏み切る映画会社も出てきてしまいました。

今のところ映画会社によって対応にばらつきがありますが、こうした動きに対して戦々恐々としているのは大手劇場だけでなく、劇場での上映にこだわる映画製作者にも当てはまるようで、SNSを含む様々なメディアを通じて色々な懸念が表明されているようです。

ここで忘れてはならないのは、一般的な家庭用の『配給フォーマット』、『再生機材』、『再生環境』は、いずれも最適な状態に管理された映画館での上映品質には及ばないという点です。

上映品質にこだわりを持たない作品がたくさんある一方で、一部の作品は是非とも最高のシネマクオリティーで楽しみたいものがあるのも事実です。

劇場ビジネス存続の危機が懸念される中にありながらも、映画館の最大の価値はその『上映品質』にあることを忘れず、映画館の維持管理と品質向上に努めてもらいたいものです。

劇場上映環境の改善

上映品質に対するこだわりとは異なる視点で、少しでも安心安全な劇場上映環境を提供しようとする試みも見逃せません。

劇場設備の殺菌抗菌処理、日々の衛生管理など、劇場毎に様々な工夫を取り入れる努力には頭が下がりますが、対応方針にばらつきが感じられる点は気掛かりです。

一方では座席配列を見直して座席そのものを入れ替える劇場も出てきたようで、更なる上映環境改善と新たな工夫を期待したいところです。

ドライブインシアターの復活?

究極のソーシャルディスタンスを確保しながら劇場上映する手段としてドライブインシアターによる興行の試みが各地で見られました。

復古的な試みとして一部で話題にはなったものの、興行的に大きな支えになるとは考えにくそうです。

そもそも地価の高い日本で十分な駐車スペースを確保しながら上映環境を設営するのは難しかも知れません。

各種業界イベントのオンライン化

シネマ業界の4大コンベンション (CinemaCon / CineEurope / CineAsia / ShowEast) は CinemaCon の中止に始まり、続くイベントもすべてリアル開催は中止されてバーチャル開催となりました。

安価で気軽に参加できるようになったことはよかったですが、内容的に価格相応のものになってしまったことは否めず、関係者と対面でコミュニケーションを取れない上に、関係各社の展示物や勢いを直接感じられなかったのは残念な限りです。

来年度の CinemaCon が予定されている2021年後半頃には何とかリアルでの開催が可能になることを期待します。

進む業界再編

業界イベントのスポンサーを見ると各社の意気込みと勢いを俯瞰することができます。

中でも、これまで常連であった国内最大手の上映機器メーカーが消えてしまい、業界関係者内の噂話を裏付ける動きがあったのは残念でなりません。

かつて深くお付き合いさせて頂いた米国の二大劇場チェーンも苦境に立たされている状況にも心が痛みます。

また、劇場公開が低迷する中、スタジオの勢力図もジワジワと変わっている模様で、まだしばらく目が離せない状況が続きそうです。

停滞する新技術の導入

このような状況の中、本サイトのメインテーマであるシネマテクノロジーの観点から見ても、新技術、新製品の導入が停滞し、目新しい出来事が見当たらない一年になってしまいました。

この状況はまだしばらく続きそうですが、新しい日常の中で新しい技術、製品を目にすることができる日が一日も早く訪れることを願っています。

作成者: Yoshihisa Gonno

デジタルシネマ黎明期の2005年から国内メーカーで初のデジタルシネマ上映システムの開発をリード。その当初からハリウッド周辺の技術関係者との交流を深め、今日のシネマ技術の枠組みづくりに唯一の日本人技術者として参画。
2007年から5年間、後発メーカーのハンディキャップを覆すべく米国に赴任。シネマ運用に関わるあらゆる技術課題について、関係各社と議論、調整を重ねながら、自社システムの完成度を高め、業界内での確固たる地位を確立。
2015年からは技術コンサルタントとして独立。ハリウッドシネマ業界との交流を続けながら国内のシネマ技術の向上に向けた活動を続けている。
2018年から日本人唯一の ICTA(国際シネマ技術協会)会員。
プライベートでも「シネマ」をこよなく愛し、これまでのシネマ観賞(劇場での映画観賞)回数は1500回を優に超える。

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