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LED シネマディスプレイ続報

今月の訪米の機会を利用して、再び Samsung Onyx による映画上映を体験してきました。5月のレポートに続いて、LEDシネマディスプレイを取り巻くその後の状況をまとめてみます。

今月の訪米の機会を利用して、再び Samsung Onyx による映画上映を体験してきました。5月のレポートに続いて、LEDシネマディスプレイを取り巻くその後の状況をまとめてみます。

Pacific Theatres Winnetka / 20番スクリーン LEDシネマ

今回訪れたのも前回と同じ Pacific Theatres Winnetka で、今回は「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」の上映を観ることができました。(因みに本作品は既に通常のプロジェクション方式(DLP/2K/2D)にて鑑賞済みだったので、今回はより冷静に両者の比較ができたと思います。)

前回から4ヶ月経ちましたが、依然として劇場としては通常上映の扱いのままで、表向きには新技術を採用したスクリーンであることもアピールせず、鑑賞料金も通常上映と同じ料金での興行を続けているようです。なお、劇場のホームページでも Samsung Onyx が何番スクリーンに設置されているのか掲載されていないので、確実にLEDシネマで観たければ、直接劇場に電話を掛けて確認する必要があります。

今回の上映で使用された DCP も前回同様 2D/2K の通常配給の標準的なもので、残念ながら今回も 4K 解像度を活かした上映を観ることはできませんでした。とはいえ、通常の 2D/2K DCP に記録された映像が一般的なプロジェクション方式のスクリーンよりもより忠実に再現されるので、同じ料金でより良い映像が楽しめるという点においてそれなりのお得感はありました。

因みにこの劇場では Dolby CaptiView によるバリアフリー上映に対応しており、このスクリーンでも通常のスクリーンと同様にクローズドキャプションを楽しむことができました。もちろん追加料金は不要です。

さて、肝心の映像の品質ですが、基本的に前回感じたのと同じく、引き締まった黒、にじみやボケのない解像度に忠実な画、黒から最高輝度に至る自然な階調など、再確認することができました。前回の繰り返しになりますが、映画完成直後のマスタリングルームで観るのと同等の品質で楽しむことができたという印象です。逆に言うと、一般的なプロジェクション方式による映像とは明らかに一線を画する品質であることを再確認することができました。

Samsung Onyx Cinema Display 製品化状況

一方、前回のレポート以降、製品としてのアップデートもありました。

現在劇場に導入されているのは画素と画素の間隔が 2.5mm のパネルで、縦 5.4m × 横 10.2m の 4K サイズの製品で、これが唯一 DCI 認証を受けた製品でしたが、先月にはこれに加えて画素と画素の間隔が 3.3mm のパネルを使用した製品も DCI 認証を受けることができたようです。これにより幅 14m の 4K スクリーンを作ることができるようになり、より大型の館に対応できるようになりそうです。

LEDシネマディスプレイの課題

既に世界各地にて現行製品のインストールを進め、LEDシネマディスプレイの領域で競合他社を大きくリードした感のある Samsung Onyx ですが、今後の更なる普及を見据える上で、不安材料もない訳ではありません。

新しい映像基準の定義とブランディング

現時点での劇場での上映は、あくまでも標準的な規格の下にマスタリングされた DCP を限りなく規格に忠実に上映するところに終始しており、昨今注目されている HDR のような所謂プレミアムフォーマットによる上映を提供するものではありません。確かに一般的なプロジェクション方式の上映と比べると明らかに忠実度の高い映像を楽しむことができますが、標準規格に基づく映像を超えるものではありません。

LEDシネマディスプレイの性能を最大限に活かした映像を提供するには、現在の標準規格を超える基準でマスタリングされた DCP をその基準に則した処理を施しながら上映しなければなりません。そうすることでようやく現在の標準規格を超える高輝度、高コントラストの HDR 上映も可能になる訳です。

このような試みとして Dolby Vision や EclairColor が独自の新基準(高輝度、高コントラスト)の定義とそのブランド化を進めており、両者とも既に多くの作品で採用されています。

このような新基準の定義とブランド化は、観客がその基準を採用した上映を積極的に選びたいと思わせられるか、そして、その技術の導入を検討する劇場にとって大きな設備投資の価値があると思わせられるか、というところに関わってくるでしょう。

これまでのところ Samsung Onyx が Dolby Vision か EclairColor のいずれかの基準に準拠したり、もしくは独自の新基準を打ち出すという動きはみられず、Samsung には明確なビジネスビジョンの説明を期待したいところです。

作成者: Yoshihisa Gonno

デジタルシネマ黎明期の2005年から国内メーカーで初のデジタルシネマ上映システムの開発をリード。その当初からハリウッド周辺の技術関係者との交流を深め、今日のシネマ技術の枠組みづくりに唯一の日本人技術者として参画。
2007年から5年間、後発メーカーのハンディキャップを覆すべく米国に赴任。シネマ運用に関わるあらゆる技術課題について、関係各社と議論、調整を重ねながら、自社システムの完成度を高め、業界内での確固たる地位を確立。
2015年からは技術コンサルタントとして独立。ハリウッドシネマ業界との交流を続けながら国内のシネマ技術の向上に向けた活動を続けている。
2018年から日本人唯一の ICTA(国際シネマ技術協会)会員。
プライベートでも「シネマ」をこよなく愛し、これまでのシネマ観賞(劇場での映画観賞)回数は1500回を優に超える。

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