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ドルビーシネマ、MOVIXさいたまにオープン、国内首都圏初

当初、2018年中に日本初導入を目指していた松竹マルチプレックスシアターズでしたが、T-JOY博多に遅れること5ヶ月、首都圏初となるドルビーシネマがついにMOVIXさいたまにオープンしました。

早速体験してきましたので、先行する劇場との比較も交えながらレポートします。

当初、2018年中に日本初導入を目指していた松竹マルチプレックスシアターズでしたが、T-JOY博多に遅れること5ヶ月、首都圏初となるドルビーシネマがついにMOVIXさいたまにオープンしました。

早速体験してきましたので、先行する劇場との比較も交えながらレポートします。

劇場の仕上がり

ドルビーシネマが設置されたのはMOVIXさいたまの元々は11番スクリーンだった場所のようですが、劇場に入る際にまず最初に気付くことがあります。

入り口通路壁面のプロジェクションがない!?

通常ドルビーシネマへの入り口から客席に向かう通路に設けられている壁面へのプロジェクションが、手前の共用通路に設けられており、ドルビーシネマに入る際のワクワク感が殺がれてしまっているのが少し残念です。(非常に細かい点ですが、ドルビーシネマの設計上、極めて珍しい作りです。)

心配しながらも一旦劇場内に入ると、内部は概ね一般的なドルビーシネマの作りになっているようです。

必要十分にゆったりした座席

座席の配置は一階席のみのスタジアム形式で、IMAX よりも緩やかな傾斜に配置されています。

場内に特別席はありませんが、全席簡易リクライニングながら、人工皮革のような素材で、個別に左右の肘掛けが付いているので、隣の人の肘を気にすることなく、程々にゆったりと映画に集中することができるシートだと感じました。

スクリーン、スピーカー、その他、概ね標準的なドルビーシネマの仕様通りか

スクリーンは樹脂コーティングをしたシートを湾曲に設置するドルビーシネマ共通の仕様のようです。

スクリーン横の非常口灯は上映が始まると消灯するので気になりません。国、地域によっては、消防法上、上映中も非常口灯を消せないドルビーシネマもありますので、この点においては、日本では映像に集中することができそうです。

Dolby Atmos 用のスピーカーは特に照明で浮かび上がらせるような細工はなく、目立たないように設置されていました。(照明を点灯していなかっただけなのかも知れません。)

本編上映体験

今回体験したのは正式オープン前日のお披露目上映で、昨年公開された “Avengers: Infinity War” (2D字幕版) を特別料金 1,000 円で観賞しました。

おそらく自分を含めて観客の殆どはこの作品自体は既に観賞済みで、ドルビーシネマで違いを体験しようとしていたようです。

客層としては、20~30代の映画マニア風の姿が多かったのですが、加えて40~50代の業界関係者風の姿も相当数見受けられたように感じました。(あくまでも印象です。)

映像の印象

作品自体の映像の特徴として、夜間や宇宙にきらめく閃光や色とりどりの鮮やかな発色など、Dolby Vision 本来の実力を効果的に駆使した画作りが行われた作品で、ほぼ制作時に意図された通りの映像が再現できていたのだと思います。

一部のドルビーシネマでは感じられる、レーザー光によるスペックル(ギラギラした光のノイズ)は全く感じられませんでした。

また、ラストクレジットなどでは顕著に現れる RGB 映像の色ずれもまったく感じられませんでした。

米国に多数稼働中のドルビーシネマの中には、機材調整や設置状況が悪く、色ずれやレーザースペックルを呈する場所も散見されますが、今回設置直後ということもあり、本来のドルビーシネマの品質が実現されていたと感じました。

今後も定期的なメンテナンスを怠らず、最高の上映品質を提供してもらえることを願っています。

音響の印象

Dolby Atmos の実力はよく承知しており、その効果は発揮されていたのだと思いますが、作品自体のシーンの展開が極めて忙しく、Dolby Atmos 独特の音源の移動を手に取るように感じるようなシーンは殆ど記憶に残りませんでした。

これは良くも悪くも作品と一体化した立体音響が実現されていたのだと解釈したいと思います。

少なくとも上映前の Dolby Atmos デモクリップでは、一般的な Dolby Atmos の効果は再現されていたようです。

字幕の印象

さて、日本でドルビーシネマを楽しむ際に最も気になる点が字幕です。

字幕というのは本来の映像に重ねて表示されるので、使い方を誤ると本来の映像の品質を台無しにすることがあります。

映像の基本品質が高い Dolby Vision を楽しむ際には字幕はないに越したことはありません。

それでも止むを得ず字幕を入れる際には、文字の可読性を確保しながらも、可能な限り本来の映像を損なうことのないように、文字の明るさ、色、大きさなどを適切に調整することが要求されます。

以前に『ファンタスティック・ビースト』 “Fantastic Beasts and Where to Find Them”[IMDb] の日本語字幕版をドルビーシネマで観た際には、暗いシーンでの字幕の所為で本来の美しい映像がぶち壊されていましたが、今回はどうだったのでしょうか。

– 字幕の明るさ

今回の字幕は、ドルビーシネマの最高輝度ではなく、通常の上映と同等レベルの輝度に抑えられているようで、字幕がまぶしいと感じるシーンはさほど多くはありませんでした。

しかし、いくつかのシーンでは、ほぼ真っ暗または完全に真っ暗なシーンでも、他のシーンでの字幕と同じ明るさの字幕がデカデカと表示され、スクリーンからの反射光により館内照明を付けてしまったかと思うほど客席が明るく照らされることもありました。本来真っ暗なシーンであったにも関わらず、です。

– 字幕の大きさ

さらに気になったのが、字幕の不必要なまでの大きさです。

一般に日本語字幕は他言語の字幕と比べて倍程度の大きさの文字が使われますが、文字が大きいということは、その分、光の量も多くなり、本来の映像の品質を更に損なう要因になります。

果たして、現状のような巨大な文字が必要なのか、改めて考え直してもらいたいところです。

– 字幕のギザギザ

一方で、映像の画素サイズによるギザギザが字幕の縁に見られることが多く、マスタリング方法の改善が必要なところです。

まだまだ改善の余地はありそうですが、本来のドルビーシネマの品質を安心して楽しめるように、制作関係者の関心と努力を期待します。

作成者: Yoshihisa Gonno

デジタルシネマ黎明期の2005年から国内メーカーで初のデジタルシネマ上映システムの開発をリード。その当初からハリウッド周辺の技術関係者との交流を深め、今日のシネマ技術の枠組みづくりに唯一の日本人技術者として参画。
2007年から5年間、後発メーカーのハンディキャップを覆すべく米国に赴任。シネマ運用に関わるあらゆる技術課題について、関係各社と議論、調整を重ねながら、自社システムの完成度を高め、業界内での確固たる地位を確立。
2015年からは技術コンサルタントとして独立。ハリウッドシネマ業界との交流を続けながら国内のシネマ技術の向上に向けた活動を続けている。
2018年から日本人唯一の ICTA(国際シネマ技術協会)会員。
プライベートでも「シネマ」をこよなく愛し、これまでのシネマ観賞(劇場での映画観賞)回数は1500回を優に超える。

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