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ドルビーシネマの上映品質

全米各地のドルビーシネマの鑑賞体験を重ねる中、ドルビーシネマの上映品質について懸念していたことが顕在化してきました。

全米各地のドルビーシネマの鑑賞体験を重ねる中、ドルビーシネマの上映品質について懸念していたことが顕在化してきました。

日本では国内4スクリーン目となるドルビーシネマが都内にオープンしましたが、今後さらに増える中で注意して見ておきたい点を列挙してみます。

※国内のドルビーシネマの名誉のために注記しておきますが、私が体験した3つのドルビーシネマでは以下に列挙する問題はどれも確認されませんでした。これまでのところは。今後もしっかりとメンテナンスをお願いしたいところです。

ドルビーシネマの上映品質

ドルビーシネマを体験される方は本編上映開始前に流れるドルビーシネマのプロモーション映像に圧倒されることでしょう。

言うまでもなくあの映像はドルビーシネマの能力を最大限にアピールするように構成されたものなので、実際の映画の中でどのように活かされているかは少し冷静な目でみる必要があるでしょう。

それ以上に注意すべきなのは、上映機材毎の品質管理です。

最高の状態に調整された上映機材でのみ、ドルビーシネマ本来の品質の映像を体験できる訳ですが、上映設備が増加する中、管理が行き届かない設備も散見されるようになってきたようです。

散見される品質課題

レーザースペックル

レーザー光の干渉性により発生する画像のノイズで、すべてのレーザープロジェクター、特にRGBプロジェクターにおいて対策が必要となる問題です。

レーザー光がスクリーン上でフォーカスした際、スクリーン表面のミクロな凹凸に対する干渉パターンを描き出してしまい、本来の映像にはないギラギラした感触の画像ノイズとして現れるのが特徴です。

このノイズは見る場所によって、現れる場所やパターンも異なります。頭をグラリと動かしただけでも変わるので、結果ギラギラという感触で見えることになります。

基本的にDolby Cinemaではレーザースペックルが現れないように工夫されていますが、そうではない劇場も散見されます。

2台のプロジェクターの画合わせ

光軸の異なる2台のプロジェクターから同じスクリーン面に同じ映像を投影すると、光学的な調整だけで画素単位で完全一致させるのは不可能なので、電気的な補正と合わせて画として完全一致させます。

光学的な調整だけでもかなりの合わせ込みが可能な場合もあるのですが、劇場によっては、明らかに初歩的な調整で間違いを侵したまま、放置、運用されている劇場もあるようです。

このようなDolby Cinemaで高画質4K作品を観ても、4K映像がダブってズレた映像を見ることになってしまいます。

このような状態、うっかりしていると見逃してしまいがちですが、ラストクレジットのようなコントラストがハッキリした映像を見ると、容易に確認できます。

RGBのレジずれ

信じられないことにDolby Cinemaでもズレたまま使われている機材があるんです。

通常シネマ用プロジェクターではRGBそれぞれの色成分の映像をプロジェクター内で重ね合わせた上でスクリーンに投影します。

通常これらの映像は厳密に重なるように調整(registration)されていなければなりませんが、Dolby Cinemaでもズレたまま使われている機材が存在します。

RGBレジずれもうっかりしていると気が付きません。特に天然色の自然映像ではズレが映像自体に混じり込んで殆ど気付くことはないでしょう。

しかし、この場合もラストクレジットのような輪郭のハッキリした白黒映像を見ると一目瞭然です。

すべての文字の同じ端面(上、下、左、または右)に同じ色のにじみが現れていたら、これがレジずれです。

現れる色と方向は、RGBどの映像がどの方向にずれているかによってそれぞれ異なります。

では、白黒の自然映像ではどうなるのでしょう?

なだらかな白黒のグラデーションは、ほのかに色付いたカラーグラデーションで色付けされます。

高精細の白黒の造形には、ほのかな彩りの縁取りが現れます。

これらは一見アーティスティックな演出にもみえてしまうこともあるのが曲者です。

こんな話があります。

ドルビーシネマで『ローマ』を観ると色が見えるという都市伝説

“アルフォンソ・キュアロン監督の白黒作品『ローマ』をドルビーシネマで観ると、圧倒的な高画質と高コントラストのお陰で色を感じることがある。”

さてどうでしょう?

色の感じ方は主観によるところも確かにあるので、絶対的な否定はしませんが、この方は“レジずれ”ドルビーシネマで観てしまったのではないかという疑いを拭えません。

国内のドルビーシネマ導入計画も目白押しですが、日本ではこのような懸念が現実のものにならないようにしっかりとした上映機材の維持管理を期待しています。

作成者: Yoshihisa Gonno

デジタルシネマ黎明期の2005年から国内メーカーで初のデジタルシネマ上映システムの開発をリード。その当初からハリウッド周辺の技術関係者との交流を深め、今日のシネマ技術の枠組みづくりに唯一の日本人技術者として参画。
2007年から5年間、後発メーカーのハンディキャップを覆すべく米国に赴任。シネマ運用に関わるあらゆる技術課題について、関係各社と議論、調整を重ねながら、自社システムの完成度を高め、業界内での確固たる地位を確立。
2015年からは技術コンサルタントとして独立。ハリウッドシネマ業界との交流を続けながら国内のシネマ技術の向上に向けた活動を続けている。
2018年から日本人唯一の ICTA(国際シネマ技術協会)会員。
プライベートでも「シネマ」をこよなく愛し、これまでのシネマ観賞(劇場での映画観賞)回数は1500回を優に超える。

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