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ソニーデジタルシネマ・プレミアムラージフォーマット、発表

ここ数年、シネマ事業のビジネス展開については息を潜めていたソニーから、ついに独自ブランドとしてのプレミアムラージフォーマット (PLF) を今春投入するという発表がありました。技術内容についてはこれまでの製品で明らかにされている以上のものはなさそうですが、今週公開された情報をもとに既存の PLF と比較してみましょう。

参考情報
『プレミアムラージフォーマット』/ Premium Large-format (PLF)、とは?

数年前からよく耳にする呼び方ですが、技術的に明確な定義がある訳ではありません。馴染みのない方のために、簡単に説明します。

その名前から、一般的な上映と比べて大きなスクリーンで上映されることは容易に想像できると思いますが、単に大人数を収容できる劇場を指すだけではなく、通常の上映システムよりも高水準(広視野、高解像度、高コントラストなど)の映像体験を可能にすることを目指した上映方式、スクリーンを指します。

このように説明すると、まず最初に IMAX を思い浮かべるかも知れません。実際、数年前までは IMAX が PLF の代名詞でしたが、Dolby Cinema の登場や、それ以外にも各種競合する方式が登場したため、これらを総称して『プレミアムラージフォーマット』 “Premium Large-format (PLF)” と呼ばれるようになりました。

以下では、IMAX (with laser)と Dolby Cinema を比較の対象として念頭に置きながら、Sony Digital Cinema の Premium Large-format の特徴をまとめてみたいと思います。

『ソニーデジタルシネマ』の『プレミアムラージフォーマット』とは?

当初、IMAX with laser(レーザーIMAX)や Dolby Cinema に対抗すべく、新たな上映システムが秘密裏に開発されてきたのかと思ったのですが、ちょっと違ったようです。

ソニーから発表されたセールス記事を読む限りは、あくまでもこれまでに発表された製品とそこに導入されてきた機能、特徴を組み合わせて、 “Sony Digital Cinema Premium Large-format” というブランド(最終的な正式ブランド名は不明)にまとめ上げて、改めてマーケティングの俎上に載せるべく再定義した、というのが実際のところのようです。(繰り返しますが、少なくとも現時点のセールス発表を読む限りでは “秘密兵器のサプライズ” はないようです。)

では、その理解の基に、この春どんな劇場がオープンするのか、IMAX with laser、Dolby Cinema との比較表の形でまとめてみます。(以下、Sony Digital Cinema に関するデータは現時点の発表、報道から判断したものなので、最終的に大幅に異なる結果になり得ることをご了承ください。)

IMAX with laserDolby CinemaSony Digital Cinema
解像度拡張 4K(2台の4K投影の独自処理により擬似的に高解像化)4K (DCP次第)4K (DCP次第)
画角
4096 x 2180 の映像領域を製作者の意図によりシーン毎に自由に使い分けて作成される
主にシネスコサイズ(4Kの場合4096 x 1716, 2Kの場合2048 x 858, DCP次第)—(DCP次第)
最高輝度 (2D上映時)
データ非公開。(IMAX Digitalと同等(22 FtL)以上と思われる)
31 FtL(通常上映の約2.2倍)データ非公開。(通常上映の2倍は目指している筈)
コントラスト(参考値)
データ非公開。(2500:1以上)公称 1000000:1 データ非公開。(公称8000:1のシステムと思われる)
光源6 波長 RGB レーザー6 波長 RGB レーザー青色レーザー+蛍光励起
色域DCI P3 / WCG(Rec.2020) にも対応DCI P3 / WCG(Rec.2020) にも対応DCI P3
プロジェクター数
2台2台おそらく2台
音響IMAX 12chDolby Atmos
Dolby Atmos
DCP独自拡張版 Interop DCP(IMAX 独自規格に基づく高輝度/高解像度マスタリング)

SMPTE DCP(Dolby Vision 独自規格に基づくHDRマスタリング)

通常 DCP(将来的にHDR DCPへの対応も模索中)
劇場デザインIMAX ブランド独自の基準でスクリーンだけでなく、壁/床/天井などの色、材質の基準に従って施工しなければならない。(例外あり)Dolby Cinemaブランド独自の基準でスクリーンだけでなく、壁/床/天井などの色、材質の基準に従って施工しなければならない。(例外あり)Sony Digital Cinema ブランドとしての規定が定められると予想される。(詳細不明)

ソニーからの発表記事メディア報道を併せて読み解くと、概ねソニーの現行最新のプロジェクションシステム SRX-R815-DS をベースに、音響方式としては既に対応済みの Dolby Atmos を組み合わせた上映システムとなる模様です。

これにより、Dolby Cinema に迫る高品質な上映体験を、おそらく Dolby Cinema よりもかなりリーズナブルな予算で実現できるようになるものと思われます。

この構成であれば昨年の時点で既に製品として完成されていたことになりますが、PLF の新ブランドとして打ち出すことで、販売の活性化を狙ったということなのかも知れません。

とはいえ、現時点ではまだ不明確な点も多いので、引き続き注視し、追加情報、修正情報があれば、随時更新していきたいと思います。

いつどこで?

世界初の “Sony Digital Cinema Premium Large-format” の劇場は、この春、ラスベガスのブルバードモール[GoogleMaps]にオープンする予定です。

導入先のギャラクシーシアターズ “Galaxy Theatres” は米国西部5州に展開する中小規模の劇場チェーンのようです。

4月1日からシネマ業界最大のトレードショーであるシネマコン (CinemaCon) がラスベガスで開催されますが、このタイミングに合わせてこけら落としができるように鋭意準備を進めているようで、非常に楽しみですね。

アクシデントに見舞われなければ、実際に体験して来ることができる筈なので、改めてレポートできればと思います。

ただ、当面は米国を中心に展開するようで、日本で楽しめるようになるにはまだしばらくかかりそうです。

作成者: Yoshihisa Gonno

デジタルシネマ黎明期の2005年から国内メーカーで初のデジタルシネマ上映システムの開発をリード。その当初からハリウッド周辺の技術関係者との交流を深め、今日のシネマ技術の枠組みづくりに唯一の日本人技術者として参画。
2007年から5年間、後発メーカーのハンディキャップを覆すべく米国に赴任。シネマ運用に関わるあらゆる技術課題について、関係各社と議論、調整を重ねながら、自社システムの完成度を高め、業界内での確固たる地位を確立。
2015年からは技術コンサルタントとして独立。ハリウッドシネマ業界との交流を続けながら国内のシネマ技術の向上に向けた活動を続けている。
2018年から日本人唯一の ICTA(国際シネマ技術協会)会員。
プライベートでも「シネマ」をこよなく愛し、これまでのシネマ観賞(劇場での映画観賞)回数は1500回を優に超える。

「ソニーデジタルシネマ・プレミアムラージフォーマット、発表」への2件の返信

4月5日のグランドオープンが目前に迫り、本件関心が高まっているようですが、最新情報は今しばらくお待ちください。
内容に関しては概ね上記の予想通りとなっていることが確認できていますので、ご安心ください。

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