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コラム レポート 初級

CinemaCon 2018 (4/23-26)

恒例のシネマ業界最大のトレードショーがラスベガスで開催されました。
世界各地から業界関係者が集うイベントですが、NATO(米国劇場オーナー協会)主催ということもあり、シネマ業界を支える劇場オーナーさんに対する感謝と激励を主旨とする様々な催しが目白押しのイベントとなっています。

イベントの構成は大きく分けて、スタジオ各社の新作映画紹介、シネマビジネスに関する各種セミナー、劇場運営に関連する各種製品紹介、上映機器メーカー各社の製品紹介、そしてここに集まる各社の個別の商談や打ち合わせが行われます。
(一番書きたいのはスタジオ各社の新作映画の話題ですが、このページの主旨にはそぐわないので別の機会にすることにして、)ここでは主に上映機器メーカー各社の動向を中心に、気になった話題を列挙してみます。

 

BarcoからCinionicへ

デジタルシネマの普及の波が概ね落ち着いた数年前から、スタジオ、劇場だけでなく、機器メーカー各社の間でも業界再編の動きが活発に続いており、今回はBarcoがシネマ関連の総合的なシステム、サービスの提供を目指したCinionicというブランドをアピールしていました。ただ内容自体は前年からの流れに沿ったもので、特に驚くようなものもありませんでしたが、プロジェクター各社の中では最大の展示エリアを展開する力の入れようでした。目立った点としては、プロジェクター光源のレーザー化の準備を推進、ロビーサイネージやモバイルアプリを含む各種アプリケーションビジネスの推進、辺りでしょうか。

 

シネマLEDディスプレイ

本格的なシネマ(劇場上映)用の直視型ディスプレイとしてSamsungとSonyがそれぞれ開発フェーズが異なるものの、着実に努力を続けているようです。Samsungは既に4K上映システムとしてDCIコンプライアンスも取得し、世界各地で実際の映画館への導入を試みている段階であるのに対して、Sonyは解決しなければならない課題にじっくり取り組んで、足元をしっかり固めてから実際の製品化にこぎ着けたい様子が見受けられます。両者の比較は別途まとめたいと思いますが、今後数年はシネマ技術の話題の中心となることは間違いないでしょう。

 

手話上映機器(ブラジル向け聴覚障害者支援)

日本では障害を持った方を支援するための上映がなかなか普及しませんが、クローズドキャプションや音声ガイドは従来の上映方式で既にサポートされており、北米ではほぼ全ての劇場でクローズドキャプションや音声ガイドの対応機器を誰でも無料で借りることができるようになっています。一方、ここで紹介する手話上映は、昨年ブラジル政府が義務付けたもので、これに伴って急遽開発された製品が(気が付いた限り)2社2様の方式で展示されていました。ひとつめはDolbyの製品で、上映時に現行標準のクローズドキャプションの文字データから手話アニメーションの映像を生成して客席の表示端末で受信再生するというものです。もう一つの方式は、新たな方式として業界内の技術コミュニティーで議論してきた方式で、音声の空きチャンネルに低解像度の手話の実写映像をエンコードしておき、上映時にこれをデコードして客席の表示端末で受信再生するというものです。後者の方式を開発するに至った背景には、アニメーションよりも実写による手話映像が強く望まれたという事情がありました。後者の方が制作の手間が掛かる一方で、前者の方はクローズドキャプションのデータさえあれば実現可能という利便性も見逃せないでしょう。

 

HDR

ここ数年、次なる制作技術、上映技術として注目を集めながらも、この技術に対する業界内での共通理解も形成されないまま、各社ともそれぞれの考えで技術アピールを積み重ねるというキーワード先行の状況が続いています。ユーザーとしては、HDRというキーワードを背景説明もなく軽々しく使うようなセールストークには十分注意したいところです。このような状況にありながら、現時点で立ち位置をそれなりに明確にしながらHDRを指向する方式として、DolbyVisionとEclairColorの2方式が運用されていますが、残念ながら日本国内ではいずれも劇場鑑賞することができません。ところが、今回Dolbyからの発表によると松竹マルチプレックスシアターズに導入されることが決まったそうで、日本固有の問題にどのように対処するのかも含めて、1日も早く実際に体験してみたいところです。

 

レーザー化

プロジェクターの光源としてランプからレーザーに切り替えようという流れは最早誰も疑う余地のないところですが、蛍光型とRGB型に関しては各社各様の立場の違いが鮮明になっています。
Barco – SmartLaser(蛍光型)とFlagshipLaser(RGB型)の2段構えで顧客の要望に応じてどちらにも対応。両者の差別化に付いては説明不足?
Christie – レーザーの優位性を活かすことができるのはRGB型のみという立場と取りつつも、独自方式の蛍光型もラインナップに加えて対応。
NEC – とりあえず蛍光型でコストメリットを訴求?
Sony – とりあえず蛍光型でコストメリットを訴求しながら、RGBに付いてはまだしばらくは様子見?

 

モバイルアプリ

劇場チェーン毎のモバイルアプリは観客の囲い込みのためには有効な手段かも知れませんが、これは観客に多くのアプリの使い分けを強いるもので、観客の利便性を損なうことも指摘されます。劇場への観客動員が伸び悩む状況においては、劇場チェーンをまたがって統合された一つのアプリ、一つのサービスを提供し、観客の利便性を高めることで観客の足を劇場に呼び戻そうという考え方も広がりつつあります。今回紹介されたAtomもそんなサービスの一つですが、既存の劇場チェーンのアカウントとそのまま連携して使用することができ、加えて売店での注文も事前にアプリから出しておけば、劇場では行列なしに受け取るだけというサービスも提供するようです。

 

スタジオ動向

スタジオ関連で特筆すべき点として挙げるとすると、Amazon Studiosの存在感でしょうか。スタジオからのプレゼンテーションとしてはハリウッドメジャー6社に加えて、Lionsgate、Focusなど、旧来の映画会社がそれぞれに発表を行いましたが、これに加えて今回で3度目となるAmazon Studiosが着実に映画会社としてのステータスを高めていました。ネットストリーミング系ではNetflixも自社オリジナルの作品を積極的に手掛けていますが、シネマ(=劇場上映)を軽視するNetflixの立場とは好対照で、今後の両者の動向は引き続き注視していきたいところです。

 

作成者: Yoshihisa Gonno

デジタルシネマ黎明期の2005年から国内メーカーで初のデジタルシネマ上映システムの開発をリード。その当初からハリウッド周辺の技術関係者との交流を深め、今日のシネマ技術の枠組みづくりに唯一の日本人技術者として参画。
2007年から5年間、後発メーカーのハンディキャップを覆すべく米国に赴任。シネマ運用に関わるあらゆる技術課題について、関係各社と議論、調整を重ねながら、自社システムの完成度を高め、業界内での確固たる地位を確立。
2015年からは技術コンサルタントとして独立。ハリウッドシネマ業界との交流を続けながら国内のシネマ技術の向上に向けた活動を続けている。
2018年から日本人唯一の ICTA(国際シネマ技術協会)会員。
プライベートでも「シネマ」をこよなく愛し、これまでのシネマ観賞(劇場での映画観賞)回数は1500回を優に超える。

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