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デジタルシネマ15周年 / DCSS1.4 発行

2005年7月20日に DCI から『デジタルシネマシステム仕様1.0』(DCSS 1.0) が発行されてから15年が経過しました。そして15周年の記念日となる2020年7月20日、初版から数えて四つ目の改訂版 DCSS 1.4 が発行されました。

『デジタルシネマ』の誕生

『デジタルシネマ』が生まれた日については色々な見方があるかと思いますが、ハリウッドの映画会社主要6社で構成される DCI が『デジタルシネマ』とは如何なるものかという定義付けを行う文書『デジタルシネマシステム仕様1.0』を発行した日をその日とするのはひとつの合理的な見方といえるかも知れません。

それまでにもホームシアターの延長で、デジタルプロジェクターからDVDやBlu-rayの映像を映し出すような試みもありましたが、フィルム方式で積み上げられてきた映像と音響の水準には遠く及ばないものしかありませんでした。

そんな中で、フィルム方式のシネマ映像と音響をデジタル方式で置き換えるためにはどのような品質、機能、セキュリティが必要かを包括的に定義付けた最初の要求仕様書としてまとめられたのが『デジタルシネマシステム仕様1.0』(DCSS 1.0) でした。

DCSS1.0 が公開された2005年7月の時点ではこの要求をすべて満足するシステムは存在していなかった訳ですが、その後、技術詳細を規定したSMPTEの技術規格が策定され、細部にわたるテスト基準を規定したコンプライアンステストプラン (CTP) が公開され、最初に DCSS 1.0 完全準拠として公式に認められるシステムが登録されたのは2011年3月のことでした。(そしてその最初のデジタルシネマシステムとして認証されたのは他ならぬ国内メーカーでした。)

その一方で、市場では標準規格への適合や認証を待たずに、関係各社の合意に基づく『インターロプ(Interop)』という運用規格を積み重ねながら、着実にフィルムシネマからデジタルシネマへの移行が進み、2011年の時点では既に世界で何万ものスクリーンにおいて日常的にデジタルシネマによる上映が行われていた訳です。

DCSS1.4 発行

今回の改版は、15周年を記念した区切りとしての意味合いがあるようで、DCSS 1.3 以降に発行された訂正、追加をひとつの文書に統合したに過ぎず、内容的に新たな変更点はないようです。

一方で『オブジェクトベース音声(没入型音響)』と『立体視(3D)』に関する追補に関しては引き続き別文書として管理されるようです。

また『直視型スクリーン(シネマディスプレイ)』と『レーザープロジェクター』についてもそれぞれに固有の評価基準は未だ明確になっておらず、今後の発表に注意が必要です。

私事ですが、

縁あってデジタルシネマに直接関わるようになったのも DCSS 1.0 がまとまる直前の2005年の春のことでした。

この15年を振り返ると、既にフィルムシネマを体験したことのない世代も映画館に足を運ぶようになる中、デジタル化によって得られるようになったものがある一方で、失われてしまったものもあり、感慨深い想いと共に郷愁に満ちた想いがこみ上げます。

これからも、失われてしまったフィルムシネマの良さを思い出しながら、デジタルシネマの価値向上に努めていきたいと思います。

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作成者: Yoshihisa Gonno

デジタルシネマ黎明期の2005年から国内メーカーで初のデジタルシネマ上映システムの開発をリード。その当初からハリウッド周辺の技術関係者との交流を深め、今日のシネマ技術の枠組みづくりに唯一の日本人技術者として参画。
2007年から5年間、後発メーカーのハンディキャップを覆すべく米国に赴任。シネマ運用に関わるあらゆる技術課題について、関係各社と議論、調整を重ねながら、自社システムの完成度を高め、業界内での確固たる地位を確立。
2015年からは技術コンサルタントとして独立。ハリウッドシネマ業界との交流を続けながら国内のシネマ技術の向上に向けた活動を続けている。
2018年から日本人唯一の ICTA(国際シネマ技術協会)会員。
プライベートでも「シネマ」をこよなく愛し、これまでのシネマ観賞(劇場での映画観賞)回数は1500回を優に超える。

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