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映画館休業中の今できること、今だからこそやっておきたいこと

映画館の休業を余儀なくされる中、家庭でのネットストリーミングに流れる動きもあるようですが、今だからこそ映画館の価値を高めるためにできること、やっておきたいことを考えてみます。

ネットストリーミングで良いの?

ここ数年、ネットストリーミングによる新作公開も増え、映画館を不要視するような声を聞くことが増えてきました。

確かに家庭で好きな時に気軽に観たい作品を楽しめるというというという点では映画館に勝りますが、上映品質の点では映画館には遠く及ばないことは記憶しておくべきでしょう。

残念ながら、今日のネットストリーミングのコンテンツ制作基準、家庭での上映(再生)環境では映画館向けに作られたコンテンツと映画館での上映環境には敵わないのです。

但しこう言えるのも、映画館の上映システムが最適な状態に管理維持されている場合と比較した場合です。

上映システムの調整は万全ですか?

言い換えると、適切な状態にメンテナンスされていない上映システムでは必ずしもネットストリーミングよりも高品質な上映を楽しむことができないことになります。

上映システムを導入した時にはしっかり調整されていたとしても、長期に渡って使用するにつれて、システム本来の品質で上映できなくなってしまいます。

フィルム映写機と比べて可動部分も少なくなり、IT機器の仲間のように思われがちなデジタルシネマシステムですが、経年変化は必ず起きます。

特に光学系の変化と映像の劣化は顕著で、輝度の低下、輝度ムラ、色ムラ、フォーカスのズレ、二連プロジェクターのズレ、RGBパネルのズレ、スクリーンの汚れなど、これらが組み合わさるとストリーミングの映像にも簡単に負けてしまいます。

これらは一見システムとして正常に動作しているように見えても、映像そのものの品質に顕著な劣化を招くので、これを放置して上映を続けるのは映画館としての風評にも影響を及ぼしかねません。

この機会に上映システムの再調整を!

日々の上映が立て込む日常においては、中々システムの点検調整に時間を割くことは難しいものですが、お客様がいない今こそじっくり時間をかけて調整し、システム本来の性能を取り戻した上で、自信を持ってネットストリーミングから観客を取り戻せるように備えておきたいものです。

調整内容によってはメーカーのサービスを呼ばなければ手が出せないこともありますが、先ず自分一人でもできることとして、システムの状態の確認はしておきたいものです。

取り掛かりとしてシステム内蔵の各種テストパターンで基本的なチェックをすることができますが、より複雑なテストクリップ DCP を入手して入念に異常、違和感がないかを調べます。

テストクリップの入手や評価手順に付いては Cinema Test Tools が役に立ちます。(機械翻訳による日本語ページも一応はあります。)

新技術の導入

映画館に新しい技術を導入する際には通常の上映の妨げにならないように最終上映終了後の深夜から翌朝初回上映開始までの作業が勝負です。

しかし、全館休館の今なら日中の時間を使って存分にテストできるでしょう。今このタイミングを逃す手はありません。

視聴覚に障害のある方への上映補助システムなど、日本の劇場では殆ど導入されていないシステムの導入を試みるなど、できることは色々ありそうです。

SMPTE DCP への準備確認

新技術への対応として誰もが避けて通れないのがデジタルシネマパッケージの標準フォーマットである SMPTE DCP への準備です。

現在日本の映画館では没入型音響システムを採用した一部の上映を除き、デジタルシネマの初期から使われている暫定フォーマット Interop DCP が使用され続けています。

北米では10年ほど前から SMPTE DCP の市場導入テストが始まり、5年ほど前には9割程度の映画館が SMPTE DCP への対応を完了しました。

世界的にも SMPTE DCP への移行が着実に進む中、日本では未だ本格的な移行に向けた筋道が見えない状況にあります。

DCI 準拠の上映システムであれば基本的には SMPTE DCP への対応は可能な筈ですが、システム上の設定変更が必要な場合もあり、最悪の場合、機材の変更が必要になることもあり得るため、可能な限り早期の対応確認をしておきたいところです。

一言で SMPTE DCP と言っても様々な設定やオプションなど自由度が高いため、すべての規格に対応できている上映システムはありません。

市場に導入されているのは特定のプロファイルに則ったパッケージですが、これは DCI の基準と同等ではないため、DCI 準拠の上映システムというだけでは安心することはできないのです。

市場導入されている SMPTE DCP のプロファイルは ISDCF において管理されており、https://www.isdcf.com/site/test-content/ からテストクリップを入手することができます。

こちらは英語版しかありませんが、この休館中の時間を将来への備えとして有効活用して頂ければ幸いです。

ご質問などありましたら、ご遠慮なくお問い合わせください。

作成者: Yoshihisa Gonno

デジタルシネマ黎明期の2005年から国内メーカーで初のデジタルシネマ上映システムの開発をリード。その当初からハリウッド周辺の技術関係者との交流を深め、今日のシネマ技術の枠組みづくりに唯一の日本人技術者として参画。
2007年から5年間、後発メーカーのハンディキャップを覆すべく米国に赴任。シネマ運用に関わるあらゆる技術課題について、関係各社と議論、調整を重ねながら、自社システムの完成度を高め、業界内での確固たる地位を確立。
2015年からは技術コンサルタントとして独立。ハリウッドシネマ業界との交流を続けながら国内のシネマ技術の向上に向けた活動を続けている。
2018年から日本人唯一の ICTA(国際シネマ技術協会)会員。
プライベートでも「シネマ」をこよなく愛し、これまでのシネマ観賞(劇場での映画観賞)回数は1500回を優に超える。

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