ドルビーシネマ、2D で観るか、3D で観るか?

HDR シネマの先駆けとして、全世界で攻勢をかけているドルビーシネマですが、2D 上映と 3D 上映ではどのような優劣があるのでしょうか?

これまでデモ映像で Dolby Cinema 3D を体験する機会はあったものの、映画本編の体験を比較する機会にはなかなか恵まれませんでした。

というのも、そもそも 3D 上映全般の品質に対して自分自身が価値を認めていないことが大きな理由ですが、単なる食わず嫌いではないかと疑われないように、実際に本編上映で体験しましたので、これまでの体験も踏まえながら、Dolby Cinema 2D/3D の比較をしてみます。

これまで多くの作品を Dolby Cinema 2D で観てきましたが、2D/3D の比較を論じるからには同じ作品を両方の方式で観るべきだと思っていたところ、ちょうどタイミングよく、2019年2月末に訪米した際に『アリータ バトル・エンジェル』 “Alita: Battle Angel” を2日続けて Dolby Cinema 2D/3D の両方で体験することができましたので、ここでの体験に基づきながら、両者の違いを記してみたいと思います。

Dolby Cinema 2D と Dolby Cinema 3D、システム構成とその仕組み

2台のプロジェクターの投射 “Dual Projection” による効果

既によく知られているように Dolby Cinema は 2D 上映でも 3D 上映でも、基本は同じシステム(2台の Christie 製 RGB レーザープロジェクター)を使用します。

2台のプロジェクターは水平横置きまたは垂直積み重ねの状態に設置され、2D 上映では基本は同じ映像を同じスクリーンに重ねて上映するように位置調整されています。

二つの映像は可能な限りピッタリ重なるように調整されますが、原理的にスクリーン周辺部ではズレが生じてしまうことになります。しかもこのズレ具合は、設置条件や調整状況によってもバラツキが生じてしまうようで、ひどい場合には肉眼でもはっきり分かるほどずれている場合もあります。

この問題は横置きまたは積み重ね設置の複数投射型の上映システムでは共通して起きる問題であることを認識しておくべきでしょう。

Dolby 3D の仕組み

現在、デジタルシネマの 3D 上映の方式として、大きく分けて、円偏光方式、垂直偏光方式、液晶シャッター方式、波長フィルター方式がありますが、Dolby 3D で採用されているのが波長フィルター方式です。

Dolby 3D とランプ光源プロジェクター:暗かった 3D

シネマ用 Dolby 3D 方式は10年程前に登場し、当初はランプ光源のプロジェクターと組み合わせて使用されましたが、白色光源と波長フィルターの組み合わせでは原理上半分以上の光源光量を捨てることになり、光量を得る上で極めて非効率でした。

しかし、全て発振波長が異なる 6P-RGB レーザープロジェクターの登場によりこの状況は一転しました。

Dolby 3D と 6P-RGB レーザー光源プロジェクター:明るくなった 3D

2台のプロジェクターの映像は人間の目には同じ色を再現しているように見えますが、2台のプロジェクターの光源である RGB レーザーの発振波長はすべて異なっており、合計 6 種類の波長のレーザー光がスクリーン上で重ね合わされることになります。これが 6P(Primary)-RGB レーザーと呼ばれる所以です。

6種類のレーザー光は透過波長が適切に設計された薄膜フィルターを使用することで、右目用のRGB3波長、左目用のRGB3波長それぞれをほぼ完全に分離することができるので、全く同じ映像を重ねて投射しても、一方の映像ともう一方の映像を視覚上ほぼ完全に分離することができる訳です。

この2種類の薄膜フィルターを 3D メガネの左右それぞれのレンズにコーティングすることで、2台のプロジェクターからの光を分離して、左右個別に透過させることができることになります。

プロジェクターから発せられるレーザー光はそのままスクリーンに投射できるようになり、3D メガネでは左右それぞれに固有の透過波長が設計された薄膜フィルターが使用されるため、フィルターによる光量の損失を大幅に低減することが可能になりました。

これにより 3D 上映でも、通常の 2D 上映と同等の明るさの映像を楽しむできるようになった訳です。

余談になりますが、従来垂直偏光方式を採用してきた IMAX でしたが、RGB レーザー光源を導入した “IMAX with Laser” ではこの Dolby 3D 方式が採用されています。

実体験に基づく比較:高輝度化により様々な問題が顕在化

3D 作品の高輝度上映が可能になったのは喜ばしいことですが、その結果、これまではあまり気にされなかった問題が顕在化するようになりました。品質の向上に伴い、原理的なアラが目立つ様になってしまったという訳です。

今回、1日目に 3D 上映を観賞し、翌2日目に 2D 上映を観賞しました。(公開直後の 3D 上映期間が終わり、2D 上映に切り替わるタイミングでした。)

全く同じ作品を2日続けて比較観賞できたことで、これまで薄々感じていた問題を明確に確認することができました。

3D メガネによる弊害

3D メガネと顔面の間の散乱光

3D メガネを掛けてスクリーンの映像を見る際、左目用のレンズは左目用の光、右目用のレンズは右目用の光だけが透過するように設計されており、そのお陰で擬似的に立体視をしているような感覚を楽しむことができています。

しかし、実際には 3D メガネを透過した光は目の周りの皮膚など眼球以外の顔の組織も明るく照らしつけ、そこからの散乱光が再度メガネで反射して目に飛び込むことになります。

さらに 3D メガネはゴーグルのように顔に密着している訳ではないので、3D メガネの縁の外から入り込む光も無視できるものではありません。

その結果、観客はスクリーンの映像を見ると同時に、自分の顔や周囲からの散乱光によるモヤのような光も見ることになります。

その量は皮膚の色や骨格、メガネとの位置関係により個人差はあるでしょうが、原理的になくすことのできない影響といえます。

従来の 3D デジタルシネマでは輝度が 2D 上映の 1/3 程度しかなく、不要な散乱光が入っても、絶対光量として気付き難いレベルでした。

しかし、Dolby Cinema 3D では通常上映と同等の明るさが得られるため、特に明暗差の著しいシーンでは決して無視できないレベルのモヤが掛かり、折角の高コントラスト映像が台無しになってしまうとこが多々ありました。

視力補正メガネとのフィッティング

コンタクトレンズを使いなさいと言われそうですが、上記の問題に輪を掛けて、不必要な光の散乱を招くことになります。

しかも、視力補正メガネの上に 3D メガネを掛けると、皮膚とメガネの間の隙間がさらに大きくなり、外部からの散乱光の入射もより多くなり、正直映像として評価に値するものではありませんでした。

3D メガネの汚れ、劣化

Dolby 3D のメガネのレンズには特定の波長の光だけを透過するように設計された多層薄膜でコーティングされています。

偏光方式のメガネより精密で高価なため、特殊洗浄を繰り返して再利用されています。

その結果、繰り返しの使用に対して洗浄が不十分であったり、薄膜の劣化が疑われるようなメガネも見受けられるようです。

3D メガネの品質管理は劇場毎にばらつきがあったり、観客の取り扱いによってもばらつきがあると考えられるので、定量的な評価はできませんが、実際品質の悪いメガネに当たってしまうことがあります。

これは先の2点に比べると運に左右される些細なことにも思えますが、やはり気になるところです。

2K で見るか 4K で観るか?

Dolby Cinema の 2D 版は 4K 版も多く作られていますが、3D 版は 2K 版のみとなります。

高品質映像を楽しむのであれば、4K 版を選ぶべきなのは疑うべくもありません。

3D で観ることの唯一の利点があるとすれば、2 台のプロジェクターの映像にズレがある場合でも、3D 上映であれば原理的にズレは見えなくなる(詳しい原理の説明は省きます)ということ位かも知れません。但し、2K 解像度となります。これは本来意図されていた利点とは考えられず、本末転倒のような話です。

ドルビーシネマ、2D / 3D の選び方

ドルビーシネマに期待するものは人によって様々だと思いますので、ここで絶対的な優劣を付けることは避けますが、何を求めるかによって、選択基準は明確になったでしょう。

ドルビーシネマ 2D をお勧めする人

通常の映像品質とは一線を画す、高画質のハイコントラスト映像を細部に至るまでじっくり味わいたい人。

ドルビーシネマ 3D をお勧めする人

映像品質は全く気にしないが、暗い 3D 上映が不満で、とにかく明るい 3D 上映を見たい人。

家庭用テレビの映像品質についての議論 – 2019 HPA Tech Retreat

家庭で映像コンテンツを楽しむ環境は年々高品質化していますが、どのようなスペックをどこまで高品質化すべきなのか、業界内でも議論が絶えず、まだまだ収束する気配がないようです。シネマにも共通する課題はある一方で、やはり家庭でシネマを超える体験を実現するのは難しいことを再認識できる議論となっていたようです。

この記事では HPA Tech Retreat から気になる議論を取り上げて紹介します。今年は参加できなかったのですが、メデイア記事から予想通りとも言える現状を垣間見ることができるようです。

議論に参加したのは、国際映画撮影監督協会、UHDアライアンス、ネットフリックス、ソニーの面々で、映像を作る立場、記録する立場、配信する立場、表示する立場の各組織、各会社の考えが述べられたようです。

昨今の製作環境の技術の進歩により、リーズナブルなコストや時間で製作者の意図を反映できるレベルに到達しましたが、家庭に配信する際にはどのようなスペックを実現すべきなのか、まだまだ迷いがあるようです。

画の再現性 〜 色合い、コントラスト、輝度

課題のひとつは画の再現性をどのように実現できるのか。家庭用のテレビではメーカー毎に色合い、コントラスト、輝度設定がバラバラで、画を『作る側のこだわり』と『観る側の好みと環境』をどのようにマッチさせることができるのか、現実的な解決策はまだなさそうです。

フレームレートの不整合

もう一つの課題はフレームレート不整合の問題。一般的に映画は毎秒24フレームで製作されます。文字通り1フレーム毎にこだわりを持って作られています。

しかし、家庭用のテレビでは多くの場合、何らかの形でフレームレートの変換が行われ、実際には存在しない製作者が意図しない画像が表示され、多くの場合、製作者には受け入れ難い違和感のある映像が表示されてしまいます。

家庭とシネマ

家庭での再生機器と視聴環境を揃えることは現実的に非常に困難なので、これらの課題はまだまだ先に持ち越されることになるでしょう。

シネマでは DCI の規定に従うすべての映画館で、一定品質の映像が再現できることになっています。

その一方で、昨今の PLF ブームにより特殊な上映方式が広まることにより、『一定品質』の考え方が成り立たなくなり、再び市場に混乱を呼び込む危険性もはらんでいることを警戒すべきかも知れません。

ソニーデジタルシネマ・プレミアムラージフォーマット、発表

ここ数年、シネマ事業のビジネス展開については息を潜めていたソニーから、ついに独自ブランドとしてのプレミアムラージフォーマット (PLF) を今春投入するという発表がありました。技術内容についてはこれまでの製品で明らかにされている以上のものはなさそうですが、今週公開された情報をもとに既存の PLF と比較してみましょう。

参考情報
『プレミアムラージフォーマット』/ Premium Large-format (PLF)、とは?

数年前からよく耳にする呼び方ですが、技術的に明確な定義がある訳ではありません。馴染みのない方のために、簡単に説明します。

その名前から、一般的な上映と比べて大きなスクリーンで上映されることは容易に想像できると思いますが、単に大人数を収容できる劇場を指すだけではなく、通常の上映システムよりも高水準(広視野、高解像度、高コントラストなど)の映像体験を可能にすることを目指した上映方式、スクリーンを指します。

このように説明すると、まず最初に IMAX を思い浮かべるかも知れません。実際、数年前までは IMAX が PLF の代名詞でしたが、Dolby Cinema の登場や、それ以外にも各種競合する方式が登場したため、これらを総称して『プレミアムラージフォーマット』 “Premium Large-format (PLF)” と呼ばれるようになりました。

以下では、IMAX (with laser)と Dolby Cinema を比較の対象として念頭に置きながら、Sony Digital Cinema の Premium Large-format の特徴をまとめてみたいと思います。

『ソニーデジタルシネマ』の『プレミアムラージフォーマット』とは?

当初、IMAX with laser(レーザーIMAX)や Dolby Cinema に対抗すべく、新たな上映システムが秘密裏に開発されてきたのかと思ったのですが、ちょっと違ったようです。

ソニーから発表されたセールス記事を読む限りは、あくまでもこれまでに発表された製品とそこに導入されてきた機能、特徴を組み合わせて、 “Sony Digital Cinema Premium Large-format” というブランド(最終的な正式ブランド名は不明)にまとめ上げて、改めてマーケティングの俎上に載せるべく再定義した、というのが実際のところのようです。(繰り返しますが、少なくとも現時点のセールス発表を読む限りでは “秘密兵器のサプライズ” はないようです。)

では、その理解の基に、この春どんな劇場がオープンするのか、IMAX with laser、Dolby Cinema との比較表の形でまとめてみます。(以下、Sony Digital Cinema に関するデータは現時点の発表、報道から判断したものなので、最終的に大幅に異なる結果になり得ることをご了承ください。)

IMAX with laserDolby CinemaSony Digital Cinema
解像度拡張 4K(2台の4K投影の独自処理により擬似的に高解像化)4K (DCP次第)4K (DCP次第)
画角
4096 x 2180 の映像領域を製作者の意図によりシーン毎に自由に使い分けて作成される
主にシネスコサイズ(4Kの場合4096 x 1716, 2Kの場合2048 x 858, DCP次第)—(DCP次第)
最高輝度 (2D上映時)
データ非公開。(IMAX Digitalと同等(22 FtL)以上と思われる)
31 FtL(通常上映の約2.2倍)データ非公開。(通常上映の2倍は目指している筈)
コントラスト(参考値)
データ非公開。(2500:1以上)公称 1000000:1 データ非公開。(公称8000:1のシステムと思われる)
光源6 波長 RGB レーザー6 波長 RGB レーザー青色レーザー+蛍光励起
色域DCI P3 / WCG(Rec.2020) にも対応DCI P3 / WCG(Rec.2020) にも対応DCI P3
プロジェクター数
2台2台おそらく2台
音響IMAX 12chDolby Atmos
Dolby Atmos
DCP独自拡張版 Interop DCP(IMAX 独自規格に基づく高輝度/高解像度マスタリング)

SMPTE DCP(Dolby Vision 独自規格に基づくHDRマスタリング)

通常 DCP(将来的にHDR DCPへの対応も模索中)
劇場デザインIMAX ブランド独自の基準でスクリーンだけでなく、壁/床/天井などの色、材質の基準に従って施工しなければならない。(例外あり)Dolby Cinemaブランド独自の基準でスクリーンだけでなく、壁/床/天井などの色、材質の基準に従って施工しなければならない。(例外あり)Sony Digital Cinema ブランドとしての規定が定められると予想される。(詳細不明)

ソニーからの発表記事メディア報道を併せて読み解くと、概ねソニーの現行最新のプロジェクションシステム SRX-R815-DS をベースに、音響方式としては既に対応済みの Dolby Atmos を組み合わせた上映システムとなる模様です。

これにより、Dolby Cinema に迫る高品質な上映体験を、おそらく Dolby Cinema よりもかなりリーズナブルな予算で実現できるようになるものと思われます。

この構成であれば昨年の時点で既に製品として完成されていたことになりますが、PLF の新ブランドとして打ち出すことで、販売の活性化を狙ったということなのかも知れません。

とはいえ、現時点ではまだ不明確な点も多いので、引き続き注視し、追加情報、修正情報があれば、随時更新していきたいと思います。

いつどこで?

世界初の “Sony Digital Cinema Premium Large-format” の劇場は、この春、ラスベガスのブルバードモール[GoogleMaps]にオープンする予定です。

導入先のギャラクシーシアターズ “Galaxy Theatres” は米国西部5州に展開する中小規模の劇場チェーンのようです。

4月1日からシネマ業界最大のトレードショーであるシネマコン (CinemaCon) がラスベガスで開催されますが、このタイミングに合わせてこけら落としができるように鋭意準備を進めているようで、非常に楽しみですね。

アクシデントに見舞われなければ、実際に体験して来ることができる筈なので、改めてレポートできればと思います。

ただ、当面は米国を中心に展開するようで、日本で楽しめるようになるにはまだしばらくかかりそうです。

シネマテクノロジー、ゆく年くる年 (2018)

2018年に起きたシネマ技術を取り巻く記憶に残る出来事を振り返りながら、2019年に予想される出来事を占ってみたいと思います。思い付くまま順不同で列挙してみましょう。

LED シネマディスプレイの登場

2017年から予告されていた Samsung の LED シネマディスプレイがついに今年正式な製品として登場しました。

大型の LED ディスプレイといえば、かねてから街頭ディスプレイで目にするような製品は出回っていましたが、劇場での映画上映の使用に耐えるような品質、機能、性能を備えたものはありませんでした。

Samsung Onyx Cinema LED は現時点で映画館で一般興行を行うために必要な品質、機能、性能を規定する DCI 認証 (CTP1.2) を取得し、まだ試験的ではあるものの、世界各地の映画館で一般興行を行いながら、上映機器として必要な実績を積み重ねてきました。

併せて、画面サイズの異なる二つのモデル(幅約10mと14m)を発売することで、対応可能な劇場サイズも広げました。

さらに昨今話題の音響方式 Immersive Audio の一方式である DTS-X にも対応したことで、来年は劇場上映システムとして、映像、音声を含めた総合的な市場評価が進むことになるでしょう。

一方で LED ディスプレイの本来の特性である HDR 性能を活かした映像制作とブランディングについては、業界内での働き掛けはみられるものの、更なる努力と工夫が必要な段階といえるでしょう。2019年中には、現状唯一の HDR シネマとして先行する Dolby Cinema に対抗できるような、具体的な展開がみられることを期待したいところです。

Samsung に遅れを取っている Sony も、今年後半に入って Samsung と同じ DCI 認証の取得を達成しましたが、まだ市場の動向を探っているのか、一般興行に使用される段階には至っていないようです。

Sony 製 LED シネマディスプレイ (Crystal LED) は Samsung Onyx と比べて画素間隔が狭いのが特徴で、4K 解像度でも幅約 5m で、より小さな画面に高精細の映像を表示したいという劇場に対象が絞られるので、同じ程度の大きさの劇場においては Samsung 製品との競合は避けられるでしょう。

Sony Crystal LED も製品性能としては現状の上映規格をはるかに上回るものを持っているのは事実なので、後はこの性能を活かした映像制作のプロセスを確立し、高品位上映方式のブランドとして、どのように業界内に浸透させられるかに掛かってくるでしょう。

ドルビーシネマ日本上陸

11月に待望の日本(九州)上陸を果たしてくれたドルビーシネマですが、2019年のゴールデンウィーク頃には当初の計画から遅れながらも首都圏(埼玉)への進出が予定されており、その後年内には都心でのオープンも実現する見通しです。

現時点で唯一世界規模で HDR 上映による映画興行が行われているドルビーシネマですが、 これまで随所で指摘してきたように、残念ながら字幕を必要とする日本での上映においては、本来の高品位な HDR の映像体験を楽しむことができるとはいえない状況です。

その要因として、1.ドルビーシネマ対応作品の製作者に日本での上映品質があまり注視されていない、2.日本国内でドルビーシネマの上映品質を管理する体制が整っていない、3.日本国内の観客にとって本来のドルビーシネマの品質がよく理解されていない、などが考えられます。

2019年、首都圏に登場する頃にはこれらの状況が改善されることを願うばかりです。

プレミアムスクリーンの乱立

今年に始まったことではありませんが、所謂プレミアムスクリーンが乱立される状況に、一映画ファンとして懸念を持ち続けています。

臨場感あふれる立体音響を楽しみたい、視界を覆い尽くす大画面の映像を観たい、より高品位な映像音声を楽しみたい、映像音声に合わせて振動や風や水飛沫も体験したい、後ろから蹴られる心配のない大きい座席に座りたい、映画を観ながらゆったり食事を楽しみたい、なんとなくプレミアムな優越感を味わいたい、などなど、プレミアム上映として追加料金のもとに提供される内容には様々なものがあります。

映画館でどのような体験を期待するのか、観客一人ひとりによって様々なので、一概にどの方式、どのブランドが良いか悪いかをランク付けする意図はありませんが、通常スクリーンと比べてどのような付加価値を提供してくれるのか、もう少しわかり易い表示、説明をお願いしたいと感じています。

個々の方式が実際の映画製作者の制作意図 (Artistic Intent) に沿ったものなのかという点についても気になるところでもあり、この辺り機会を改めて解説できればと思います。

Netflixの台頭

日本ではあまり大きく報じられることはありませんが、映画製作会社としての Netflix の躍進はここ数年めざましいものがあります。独自スタジオの設立や業界各社からの人材獲得なども凄まじい勢いで行われてきたようです。

これまで Netflix は自社のネット配信に特化した映画製作を行い、公式には劇場への映画配給に関心を示してきませんでしたが、そんな中でも昨年は中堅劇場チェーンの取得に興味を示すなど、業界内であらゆる可能性を模索しながら動き続けているようです。

ネット配信で競合する Amazon は既にネット配信と劇場配信の両方にまたがってビジネスを展開していますが、両者の力関係や旧来の映画会社との関係も目が離せない状況が続きそうです。

DCP 配信の電子化

デジタルシネマの時代に入り、上映作品の劇場への配送はフィルム缶からハードディスク (HDD) の形に変わりました。日本ではまだこの時代が続いていますが、世界では既に次の段階に進んでいる地域もあります。

最も進んでいるのは北米地域で、既に2010年頃から衛星データ配信のテストが始まり、現在主流は HDD 配送から衛星によるデータ配信に切り替わっており、HDD を配送するのは衛星受信設備のない小規模の劇場や非常時のみという運用になっています。

一方、一部の新興地域では、宅配事情よりも高速インターネットの普及の方が進んでいる地域もあり、そのような地域ではデジタルシネマ化と同時に劇場へのネット配信が導入されるケースも増えているようです。

日本では高速インターネットが先進国の中でも普及している筈ですが、同時に安全安価な宅配環境も整っているため、旧来の HDD 配送のまま変化が進まない様子です。

地球環境への負荷の側面から考えても、物理配送よりも電子配送の方が地球に優しい方法であることは疑う余地はありませんので、是非ともこの方向への動きが進むことを期待しています。

SMPTE DCP への移行

現在日本国内で流通している DCP は一部の特殊上映を除き、Interop DCP というフォーマットでパッケージされています。このフォーマットはデジタルシネマ黎明期の 2005年頃に業界有志によって作られ、3D 対応など機能拡張が行われながら今日まで使われています。

一方、2007年には標準規格である SMPTE DCP というフォーマットが規格化され、米国において直ちに市場導入の検討が始まりましたが、劇場機材の対応など現実とのギャップを埋めるのに年月を要し、実際に商業上映で導入されたのは 2015年のことでした。

その後、北米地域では着実に実績と改良を重ねながら導入作品を増やしており、2017年頃からは欧州一部地域でも導入が進んでいます。

日本市場に対しても導入の検討が行われましたが、日本独自の特殊事情(日本語字幕対応)により、現在のところ導入計画は未定となっています。

上映機材の新規導入や更新を検討する劇場様は、将来の SMPTE DCP への対応保証など、機材メーカーとの十分な確認をとっておくのが安心でしょう。

SMPTE DCP と Interop DCP にまつわる背景については、2019年に改めて記事をまとめたいと思います。

番外:アバター続編

2009年の『アバター』 “Avatar” 公開の後、毎年話題の陰に出ては消える『続編』ですが、残念ながら(?) 2019年も観れないようです。

主な原因は、制作技術にあるのではなく、現状の上映技術が製作者の要求に満たないというところにあるようです。

前作では初の本格的 3D 超大作として話題になりましたが、新技術にこだわりを持つジェームズ・キャメロンの要望により、続編では 3D に加えて『ある技術』を掛け合わせて上映したいということです。しかし残念ながら現状の上映機材ではその要望を満たすことができないので、その上映が可能になるまで公開しないという方針のようです。

現在のところ公開予定は2020年となっています。

幸いその要素技術はあるメーカーによって開発され、製品化は進んでいるようですが、実際に2020年にその機材を導入できる映画館は何スクリーンできるでしょうか?

大半の劇場では、特殊上映対応ではなく、通常の 2D または 3D 上映として上映されることになりそうです。

以上、年の瀬、思いつくままに記しましたが、2019年がより良い『シネマ』体験をできる年になることを願いながら、まとめとさせて頂きます。

IMAX vs. ドルビーシネマ

日本でもプレミアムスクリーンの選択肢が出てきましたので、その両雄として挙げられる IMAX とドルビーシネマを比較してみましょう。

IMAX

IMAX について語る際には少しその歴史を振り返る必要があるでしょう。

フィルム IMAX

『IMAX』 というブランドの歴史はフィルム上映時代にさかのぼります。35mm フィルム(画像領域 21.95mm×18.6mm)による映画上映が一般的だった 1970 年代に、画像領域 70mm×48.5mm という大判フィルムを使用して、視野を殆ど覆いつくす程の巨大スクリーンに、圧倒的な臨場感の映像を一台のプロジェクターで映し出すことに成功し、博物館などに大自然パノラマ映像を提供し話題になりました。

巨大スクリーンの上映方式としては、複数のプロジェクターで映像を映し出す『シネラマ方式』が当時既に商業映画の興行に使用されており、日本にも数カ所導入されていました。この方式は今から振り返っても、現在のデジタルシネマとは比べ物にならないくらい圧倒的な映像体験を与えてくれるものでした。しかし、制作、上映ともに大掛かりなシステムと作業が必要だったため、商業映画の興行を継続することが難しく、上映館が爆発的に増えることなく消え去ってしまいました。

このような背景の中で、シネラマ方式と比べると幾分洗練された上映システムであった IMAX も、商業映画の上映館に広く普及することはありませんでしたが、フィルム IMAX の誕生から時を隔てること30年以上、デジタルシネマの登場でこのような状況が一転することになりました。

デジタル IMAX – “Digital IMAX”

普及がはじまったばかりのデジタルシネマシステムに独自の改良を加えて、フィルムの IMAX とはまったく異なる品質の『デジタル IMAX』を作り出しました。一般的なデジタルシネマよりも高輝度、高解像度、大スクリーンの上映をアピールすることで、2008年頃から急速に人気を拡大することに成功しました。

フィルム IMAX と比べると制作、上映とも手軽にできるようになったのは良かったのですが、フィルム IMAX の圧倒的な体験を記憶している身としては、デジタル IMAX の映像はその品質において子供騙しの安っぽいものになってしまったことは決して無視できるものではなく、甚だ残念でなりません。

一般的にデジタル技術は生活のいろいろな場面を一変させてくれますが、必ずしも洗練されたアナログ技術の品質・性能を凌駕するとは限りません。デジタル IMAX もその一例だといって良いでしょう。

現在、日本で広く普及している IMAX はこの世代のシステムですが、レーザープロジェクターの登場により、また新たな展開がありました。

レーザー IMAX – “IMAX with Laser”

4K 解像度のレーザープロジェクターを使用して開発されたのが『レーザー IMAX』です。

4K 解像度の RGB レーザープロジェクター 2 台で構成されるレーザー IMAX による映像は、現行のデジタル IMAX と比べると繊細な映像表現か可能になっていますが、それでもかつてのフィルム IMAX を超える映像を実現しているとはいえません。

加えてこのシステムは日本にはまだ数館しか導入されておらず、この最新システムによる上映を体験する機会はなかなか得られない状況です。

独自規格に対する苦言

新技術の登場に伴い新しい製品を作ってくれること自体は利用者にとって大変嬉しいことですが、『IMAX』というブランド名の下にまったく異なる品質の製品が利用者に明快な説明もなく乱立するのはとても不親切という印象を受けます。利用者がどんな品質に対して追加料金を払っているのかがもう少し分かりやすくなるような宣伝、広告、説明を期待したいものです。

ここで紹介した3種類の IMAX の総合的な品質をランク付けすると、『フィルムIMAX』>>『レーザーIMAX』>『デジタルIMAX』ということになります。

ドルビーシネマ

Dolby Atmos

一方のドルビーは、デジタルシネマの時代に入ってもしばらくは映像による差別化には手を出さず、ドルビー本来のお家芸とも言える独自音響システムの構築を先行させました。これが Dolby Atmos ですが、2012年頃から特殊音響システムを取り入れたプレミアムスクリーンに導入がはじまり、日本でも既に全国各地で体験できるようになりました。

Dolby Vision

その後、RGB レーザープロジェクターの出現に合わせて、通常のデジタルシネマシステムやデジタル IMAX とは一線を画し、高輝度、高解像度、高コントラスト、広色域を有する新次元の映写システムを Dolby Vision として作り上げました。

これを Dolby Atmos と組み合わせて、Dolby Cinema という名の下に、新しいプレミアムスクリーンのブランドを作りました。現状唯一の本格的 HDR シネマシステムのブランドとして、2015年頃から米国を皮切りに少しずつ導入館を増やし、現在全世界で数百館、そして今月日本にも最初の一館に導入されました。

Ultra HD Blu-ray との違い

Dolby Vision といえば家庭用の Blu-ray にもこのフォーマットをサポートする作品が現れてきましたが、映画館用と家庭用では制作時の条件は共通化されていても、最終的なパッケージに記録されているフォーマットは異なっており、また家庭用では再生時の機器、環境もまったく異なるため、ドルビーシネマでの体験とはまったく別物と考えるべきです。

デジタル IMAX とドルビーシネマの比較表

以上を踏まえて両者の様子を比較表の形にまとめてみました。

レーザー IMAX とデジタル IMAX は一般の劇場利用者にとって区別しにくいので、上位方式のレーザー IMAX ではなく、普及タイプのデジタル IMAX との比較としました。

観客として利用する際、また劇場に導入を検討する際、ブランドロゴの格好良さだけでなく、上映体験にどんな違いがあるのかを理解し、追加料金を支払う際の参考になればと思います。

デジタル IMAXドルビーシネマ通常(DCI 規格)のデジタルシネマ
解像度拡張 2K(2台の2K投影を独自処理でずらして重ねることで実効的な解像度を高めている)4K または 2K(作品の制作次第)2K (一部システム/作品では 4K)
視界カバー度◎(床から天井まで、左右の壁から壁まで)○(IMAX をひと回り小さくした程度)△(家庭でのテレビ程度)
単位視野角当たりの解像度
△(2K画像を視野一杯に拡大するので画素のギザギザが見えることもある)
○(4K画像の場合は◎)
○(4K画像の場合は◎)
最高輝度 (2D上映時)22 FtL(通常上映の約1.5倍)31 FtL(通常上映の約2.2倍)14 FtL
コントラスト2500:1 以下1000000:1 (最高輝度に対する黒の深さが特徴)通常作品の上映でも 7500:12000:1以下
光源キセノンランプ6 波長 RGB レーザー各種
色域DCI P3DCI P3 (システムとしては WCG(Rec.2020) にも対応)DCI P3
プロジェクター数2 台基本的に 2 台(2D専用であれば 1 台でも可)基本的に 1 台
3D 方式左右直角の直線偏光の左右分離(頭の角度次第でクロストーク発生)Dolby 3D 方式 (薄膜干渉フィルターによる左右 RGB 6 波長の分離:クロストーク殆どなし)各種
スクリーン表面加工偏光保存高輝度樹脂加工スクリーン(座席位置やスクリーン位置による輝度ムラあり)高輝度樹脂加工スクリーン(座席位置による違いが少ない)各種
音響IMAX 12ch 他各種Dolby Atmos5.1 / 7.1、他各種
DCP独自拡張版 Interop DCP(IMAX 独自規格に基づく高輝度/高解像度マスタリング)SMPTE DCP(Dolby Vision 独自規格に基づくHDRマスタリング)Interop DCP / SMPTE DCP(デジタルシネマ標準のマスタリング)
字幕方式CineCanvas 方式 または 焼き込み
焼き込み または SMPTE 方式各種
字幕の見え方×××(文字の輪郭がギザギザになって目立つことが頻繁にある / 明るく巨大な文字が映像の階調を損なう)××(文字の輪郭がギザギザに見えることがにある / 明るく大きな文字が高品位映像の階調を損なう)×(文字の輪郭がギザギザに見えることがにある / 明るく大きな文字が映像の階調を損なう)

実際の体験をどう感じるか、視覚と聴覚それぞれが上映体験に及ぼす影響には大きな個人差があり、また上映作品の仕上がり具合いによっても大きく異なりますので、ここでどちらが良いかを判定するのは避けますが、システム性能上明白な違い(優劣)があることは何となくはお分り頂けるでしょうか。

共通の課題:字幕

これまで各所で問題を指摘してきたように、プレミアムスクリーンほど高輝度で巨大な字幕が本編映像に及ぼす悪影響の程度が大きくなります。

IMAX とドルビーシネマに共通するのは、通常のデジタルシネマと比べて高輝度、高コントラスト、高解像度の映像体験を提供する点です。

それとも高輝度、巨大文字の字幕体験を期待して追加料金を支払うという観客がいるのでしょうか?

本来の映像に重ねて描画される字幕には、文字としての可読性を提供することと併せて、極力本来の映像品質を汚さない工夫と努力が期待されますが、今日の日本語字幕を見る限り、そのような工夫や努力は感じられず、折角の高品質な映像体験を台無しにする場面が多いのが残念でなりません。

米国の劇場で字幕のない上映を体験すると、確かにその追加料金に納得できるレベルの品質の高さを感じることができますが、日本国内のプレミアムスクリーンの多くはその価値を満足に提供できていないのが実情といえます。

これは上映システムや配給フォーマットの問題ではなく、字幕制作プロセスを改善することで明日にでも改善できる問題なので、是非とも期待したいところです。

ドルビーシネマ、国内先行初体験 – 前編

11月23日より本格営業を予定しているT-JOY博多のドルビーシネマを先行体験してきました。はたして以前から懸念していた課題は杞憂に終わったのでしょうか?米国でのドルビーシネマの体験と比べて、何処まで上映品質が完成されたものになっているのか、他ではあまり語られない技術的な視点を交えてまとめてみたいと思います。

11月23日より本格営業を予定しているT-JOY博多のドルビーシネマを先行体験してきました。はたして以前から懸念していた課題は杞憂に終わったのでしょうか?

米国でのドルビーシネマの体験と比べて、何処まで上映品質が完成されたものになっているのか、他ではあまり語られない技術的な視点を交えてまとめてみたいと思います。

先行オープン

ドルビーシネマスクリーンの本格営業に先立つ二日間(11/21-22)、関係各社への御披露目上映も兼ねて、以前公開された2作品(「レディ・プレイヤー1」と「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」)が1本1500円という特別価格で上映されました。どちらも標準上映で鑑賞済みだったので、標準上映との違いを感じることに集中して鑑賞してきました。

11月23日からは「ファンタスティックス・ビースト」の新作続編「ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生」がこのドルビーシネマで公開されるので、前作を観ていない観客を呼び込む上でもちょうど良いタイミングだったのかも知れません。

劇場の作り込み

劇場入り口のロゴ表示から、客席に向かう通路の壁画への作品イメージ映像の投影など、概ねドルビーシネマの標準的な作りでした。

スクリーンは湾曲タイプで、劇場前面の壁がほぼ覆われており、IMAX のスクリーンと比べるとスクリーンの周囲に少しマージンがありますが、左右の視野は十分にカバーされる印象です。

天井と側面には Dolby Atmos 用のスピーカーの配列が見られます。

振り返って投影窓には Dolby Cinema の二台のプロジェクターのレンズが見えますが、映写室からの光が漏れて入らないように配慮されていたようです。

座席は全席プレミアム仕様かと思いきや、全席(少しゆったり目ですが)通常シートとなっていたのは意外でした。その分、料金設定は通常上映の500円増しで、米国の Dolby Cinema の料金と比べてもやや抑え目で、敢えて観客に対する敷居を低く設定したようにも感じられます。

ドルビーシネマ用上映作品の準備

ドルビーシネマの特性をフルに引き出した高品質上映を行うためには、劇場のシステムだけでなく、上映する作品もドルビーシネマに対応したパッケージ (DCP) を製作する必要があります。

勿論通常の方法で製作された作品でも、ドルビーシネマで上映することは可能ですが、その場合通常の上映システムで上映するのと基本的に同じ水準の上映体験しか得られず、折角の高価なシステムの性能を十分に活かすことができません。

ドルビーシネマの性能をフルに体験するには、音声は Dolby Atmos、映像は4K HDR の Dolby Vision のフォーマットで作成されたパッケージ(DCP)が必須だと記憶しておくべきでしょう。

今回上映された「レディ・プレイヤー1」[IMDb] と「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」[IMDb] はいずれも公開時に Dolby Atmos+Visionで製作されており、米国他のドルビーシネマで上映されましたが、今回の上映ではそれらに日本語字幕を焼き込んで作り直されたようです。

映画本編の末尾、ラストクレジットの最後の方に、製作フォーマットに関するロゴが表示されることがあります。今回、「レディ・プレイヤー1」では Dolby Atmos+Vision のロゴが入っていたのに対し、「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」の方には入っていませんでした。しかし、実際の映像と音声を体験したところ、両者とも Dolby Atmos+Vision のフォーマットで上映されていたことは間違いなさそうです。

一点、今回の上映で使用された DCP が 4K 版なのか 2K 版なのか気になったのですが、劇場に来られていたドルビーの方によると、両方の作品とも 4K DCP で、字幕は映像への事前焼き込みで作られたものとのことでした。

作品の向き不向き

とはいえ、上述のような対応をすればどんな作品でも最大限にドルビーシネマの体験を得られるという訳でもありません。当然のことながら、作品自体がダイナミック、パノラミックな音声と奥行きや深みのある映像や超自然的な映像を持ち合わせていて初めてドルビーシネマの効果を活かした上映が可能となります。

その観点からいえば今回の御披露目上映では少しタイプの異なる映像を見比べる上でも良い作品が選ばれたと言えるでしょう。

しかしながら、これまでドルビーシネマ用のフォーマットで製作された作品はまだ大半がハリウッド系の娯楽大作に限られています。

導入を検討する劇場としては、常にドルビーシネマを活用できるような作品を上映し続けて、集客効果につなげることができるのかという点は、事前によく検討しておく必要があるでしょう。

米国でのドルビーシネマ体験との本質的な違い

さて、では単に米国のドルビーシネマで成功した作品に日本語字幕を付けるだけで、日本でも米国での上映と同じような体験が得られるかというと、そう単純なものではなさそうです。

結論を言ってしまうと、今回の上映体験で明らかになったのは、以前から懸念していた課題について、今後真剣に検討、解決しなければ、米国でのドルビーシネマ体験と同等の品質を提供することはできない状況だということです。

この点を含めて、今回の上映体験については後編(要会員登録)にて解説したいと思います。

ドルビーシネマ、日本上陸予定のアップデート

今年4月に松竹マルチプレックスシアターズMOVIXさいたまにドルビーシネマが年内に導入予定であるとの発表があり、正式日程の発表が心待ちにされていましたが、何とこの先を越して、ティ・ジョイ博多に今秋日本初上陸との発表(ティ・ジョイ:ニュースリリース)がありました。

ドルビーシネマ(Dolby Cinema)とは特殊映像表現方式であるドルビービジョン(Dolby Vision)と特殊音響表現方式であるドルビーアトモス(Dolby Atmos)により構成されるドルビーが推進するプレミアム上映方式です。(ドルビービジョンとドルビーアトモスという名称は家庭用の特殊映像/音響表現方式にも使用されていますが、技術的には全く別物と考えるべきです。)

ドルビーシネマの映像表現方式であるドルビービジョンは、通常のデジタルシネマの最高輝度とコントラストを大きく上回る上映を可能とする独自規格の上映方式で、米国では2015年に「トゥモローランド」(IMDb) で一般上映が始まり、既に100館を超えるプレミアムスクリーンで楽しまれています。

最高輝度だけで比較すると類似のプレミアムスクリーンを提供するIMAXもありますが、ドルビーシネマの大きな特徴は薄暗いシーンでも細部の映像表現を失わずにスクリーンに再現できるという点にあります。この点において、現時点で商業利用可能な上映方式として対抗できる技術はないでしょう。

唯一対抗できる可能性のある上映方式としてSamsung Onyxがありますが、現時点ではドルビーシネマに対抗する規格で商業上映は行われていません。

ドルビーシネマ日本上陸に関する懸念

さて、米国での導入から遅れること三年、念願のドルビーシネマが日本にも導入されることになったのは喜ばしい限りですが、表向きには語られない技術的な懸念もあります。

ドルビーシネマの大きな特徴として『薄暗いシーンでも細部の映像表現を失わずにスクリーンに再現できる』と書きましたが、日本で上映する際に懸念されるのは字幕との干渉です。

日本語の字幕は、多くの国の字幕と比べて、歴史的な習慣で極めて大きなフォント(字体)が使用されています。明るいシーンではそんなに気になりませんが、薄暗いシーンでは字幕の明るさが邪魔をしてドルビーシネマの最大の特徴である『薄暗いシーンでの細部の映像表現』が完全に失われてしまうことになります。

勿論、これを回避する方法もありますが、果たして日本で公開される際に、どのような形で公開されるのか、大変気になるところでもあります。

当然プレミアムスクリーンとしてプレミアム料金が課されることになると思いますが、観客としてはプレミアム料金に見合った体験が得られるように、注視しておきたいところです。