ドルビーシネマ、MOVIXさいたまにオープン、国内首都圏初

当初、2018年中に日本初導入を目指していた松竹マルチプレックスシアターズでしたが、T-JOY博多に遅れること5ヶ月、首都圏初となるドルビーシネマがついにMOVIXさいたまにオープンしました。

早速体験してきましたので、先行する劇場との比較も交えながらレポートします。

当初、2018年中に日本初導入を目指していた松竹マルチプレックスシアターズでしたが、T-JOY博多に遅れること5ヶ月、首都圏初となるドルビーシネマがついにMOVIXさいたまにオープンしました。

早速体験してきましたので、先行する劇場との比較も交えながらレポートします。

劇場の仕上がり

ドルビーシネマが設置されたのはMOVIXさいたまの元々は11番スクリーンだった場所のようですが、劇場に入る際にまず最初に気付くことがあります。

入り口通路壁面のプロジェクションがない!?

通常ドルビーシネマへの入り口から客席に向かう通路に設けられている壁面へのプロジェクションが、手前の共用通路に設けられており、ドルビーシネマに入る際のワクワク感が殺がれてしまっているのが少し残念です。(非常に細かい点ですが、ドルビーシネマの設計上、極めて珍しい作りです。)

心配しながらも一旦劇場内に入ると、内部は概ね一般的なドルビーシネマの作りになっているようです。

必要十分にゆったりした座席

座席の配置は一階席のみのスタジアム形式で、IMAX よりも緩やかな傾斜に配置されています。

場内に特別席はありませんが、全席簡易リクライニングながら、人工皮革のような素材で、個別に左右の肘掛けが付いているので、隣の人の肘を気にすることなく、程々にゆったりと映画に集中することができるシートだと感じました。

スクリーン、スピーカー、その他、概ね標準的なドルビーシネマの仕様通りか

スクリーンは樹脂コーティングをしたシートを湾曲に設置するドルビーシネマ共通の仕様のようです。

スクリーン横の非常口灯は上映が始まると消灯するので気になりません。国、地域によっては、消防法上、上映中も非常口灯を消せないドルビーシネマもありますので、この点においては、日本では映像に集中することができそうです。

Dolby Atmos 用のスピーカーは特に照明で浮かび上がらせるような細工はなく、目立たないように設置されていました。(照明を点灯していなかっただけなのかも知れません。)

本編上映体験

今回体験したのは正式オープン前日のお披露目上映で、昨年公開された “Avengers: Infinity War” (2D字幕版) を特別料金 1,000 円で観賞しました。

おそらく自分を含めて観客の殆どはこの作品自体は既に観賞済みで、ドルビーシネマで違いを体験しようとしていたようです。

客層としては、20~30代の映画マニア風の姿が多かったのですが、加えて40~50代の業界関係者風の姿も相当数見受けられたように感じました。(あくまでも印象です。)

映像の印象

作品自体の映像の特徴として、夜間や宇宙にきらめく閃光や色とりどりの鮮やかな発色など、Dolby Vision 本来の実力を効果的に駆使した画作りが行われた作品で、ほぼ制作時に意図された通りの映像が再現できていたのだと思います。

一部のドルビーシネマでは感じられる、レーザー光によるスペックル(ギラギラした光のノイズ)は全く感じられませんでした。

また、ラストクレジットなどでは顕著に現れる RGB 映像の色ずれもまったく感じられませんでした。

米国に多数稼働中のドルビーシネマの中には、機材調整や設置状況が悪く、色ずれやレーザースペックルを呈する場所も散見されますが、今回設置直後ということもあり、本来のドルビーシネマの品質が実現されていたと感じました。

今後も定期的なメンテナンスを怠らず、最高の上映品質を提供してもらえることを願っています。

音響の印象

Dolby Atmos の実力はよく承知しており、その効果は発揮されていたのだと思いますが、作品自体のシーンの展開が極めて忙しく、Dolby Atmos 独特の音源の移動を手に取るように感じるようなシーンは殆ど記憶に残りませんでした。

これは良くも悪くも作品と一体化した立体音響が実現されていたのだと解釈したいと思います。

少なくとも上映前の Dolby Atmos デモクリップでは、一般的な Dolby Atmos の効果は再現されていたようです。

字幕の印象

さて、日本でドルビーシネマを楽しむ際に最も気になる点が字幕です。

字幕というのは本来の映像に重ねて表示されるので、使い方を誤ると本来の映像の品質を台無しにすることがあります。

映像の基本品質が高い Dolby Vision を楽しむ際には字幕はないに越したことはありません。

それでも止むを得ず字幕を入れる際には、文字の可読性を確保しながらも、可能な限り本来の映像を損なうことのないように、文字の明るさ、色、大きさなどを適切に調整することが要求されます。

以前に『ファンタスティック・ビースト』 “Fantastic Beasts and Where to Find Them”[IMDb] の日本語字幕版をドルビーシネマで観た際には、暗いシーンでの字幕の所為で本来の美しい映像がぶち壊されていましたが、今回はどうだったのでしょうか。

– 字幕の明るさ

今回の字幕は、ドルビーシネマの最高輝度ではなく、通常の上映と同等レベルの輝度に抑えられているようで、字幕がまぶしいと感じるシーンはさほど多くはありませんでした。

しかし、いくつかのシーンでは、ほぼ真っ暗または完全に真っ暗なシーンでも、他のシーンでの字幕と同じ明るさの字幕がデカデカと表示され、スクリーンからの反射光により館内照明を付けてしまったかと思うほど客席が明るく照らされることもありました。本来真っ暗なシーンであったにも関わらず、です。

– 字幕の大きさ

さらに気になったのが、字幕の不必要なまでの大きさです。

一般に日本語字幕は他言語の字幕と比べて倍程度の大きさの文字が使われますが、文字が大きいということは、その分、光の量も多くなり、本来の映像の品質を更に損なう要因になります。

果たして、現状のような巨大な文字が必要なのか、改めて考え直してもらいたいところです。

– 字幕のギザギザ

一方で、映像の画素サイズによるギザギザが字幕の縁に見られることが多く、マスタリング方法の改善が必要なところです。

まだまだ改善の余地はありそうですが、本来のドルビーシネマの品質を安心して楽しめるように、制作関係者の関心と努力を期待します。

横浜みなとみらい地区にミニシアターオープン

3Dだの、4Dだの、プレミアムスクリーンだの、大掛かりで高価な上映システムが注目されることが多い中、落ち着いて良質な映画を楽しむことができそうな劇場が、4月12日、横浜みなとみらいにオープンしました。

関連情報

キノシネマ/横浜みなとみらい

新しく映画館ができたのは、横浜みなとみらいの居住地区と商業地区が混ざり合うみなとみらい大通りに面した高層マンションの2階です。

1階にはスターバックスとTSUTAYAが入るすぐ上のフロアーです。

このフロアー、以前はTSUTAYAのレンタルショップが入っていましたが、ここを丸ごと改装して、3スクリーンからなる映画館に生まれ変わりました。

客席数

劇場の客席数は111席が2館と55席が1館(いずれも車椅子2席分のスペースあり)からなります。

布製のスクリーン

スクリーン幅は5〜6mとこぢんまりとしていますが、適度に視野をカバーできる大きさなので、ドラマのような落ち着いた作品を観るには十分な没入感が得られるでしょう。

何よりも嬉しいのはスクリーンの素材です。昨今の樹脂製の高輝度のスクリーンとは異なり、繊維製(布地)のスクリーンをフレームに張り付けて固定しているので、柔らかい乱反射による目に優しい自然な映像を楽しむことができます。

この点も落ち着いた没入感を与えるのに一役を買っていると言えるでしょう。

天井設置のプロジェクター

既設の建物の1フロアーの空間を有効利用するための工夫といえると思いますが、上映機材(プロジェクター等)は映写室ではなく天井にスッキリと収納されています。

冷却ファンの音も上映を妨げることのない殆ど気にならないレベルに抑えられています。

必要十分な音響

小さな劇場でありながら、7.1chの音響に対応しているようで、落ち着いて良質な作品を楽しむには十分な音響でしょう。

一応 3D 対応も

果たしてこの劇場に必要なのかは疑問ですが、万が一 3D 作品を上映したい場合にも対応できるように、一応上映システムの対応はできているようです。

ただし、通常の 2D 上映の画質を損なう偏光方式ではなく、液晶シャッター方式のXpanD(エクスパンド)社製のシステムが導入されているようです。

上映作品

一番気になる上映作品のラインナップですが、所謂アートシアター系の作品を多数取り揃えているようです。

巷には、大スクリーン、高コントラスト映像、立体音響で楽しみたい作品もありますが、このような場所の方が落ち着いて観賞できる良質な作品も沢山あります。

今後の上映予定をみても、大手シネコンではあまり観る機会のない作品を続々と準備してくれているようなので、個人的にも観客として応援していきたい映画館になりそうです。

CinemaCon 2019 (4/1-4)

今年も恒例のシネマ業界最大のトレードショー CinemaCon に参加してきました。昨年の報告に続いて、今年も気になった話題を並べてみます。

先行き不透明な各種プレミアム上映方式

多種多様な特殊上映方式が乱立する状況は依然として混迷を深めており、導入を検討する劇場主 “theatre-owners” にとっても、一般の映画愛好家 “moviegoers” にとっても、分かりにくい状況が続きそうです。

画面の大きさだけが重要なのか、解像度は要らないのか、明るければ良いのか、暗さは重要ではないのか、画面が三面あると嬉しいのか、本当に 3D が必要なのか、座席が揺れて映像を楽しめるのか、どんな音響が欲しいのか、上映中にどんなものを食べたいのか、映画館なのかアミューズメントパークなのか、そもそも『普通の上映』と比べてどのように価値が高い(或いは低い)のか、改めて問い質したくなることが沢山あります。

新規導入や設備更新を検討中の劇場様には、是非とも上質な映画体験を提供するにはどの方式が適しているのか、慎重に検討して頂けることを願うばかりです。

レーザー化:RGB、蛍光励起、レトロフィット

業界全体としてプロジェクター光源のレーザー化の流れに変わりはありませんが、RGB方式、蛍光励起方式、そしてランププロジェクターの光源変更(レトロフィット)という選択肢が横並びとなっています。

各方式とも一長一短があり、唯一ベストという方式はなく、劇場毎の置かれた状況に応じて適切な選択が求められる状況といえます。

シネマ LED ディスプレイ:Samsung vs. Sony

昨年はメインブースでミニシアターを作ってお披露目をした Samsung Onyx でしたが、既に世界各地で商業上映に使用されていることもあり、今年はメインブースでは専ら個別商談に勤しんでいるようでした。

一方の Sony Crystal LED は昨年 DCI 認証を取得したものの、特に展示も説明もなく、今後の展開について不安を感じさせました。

両者ともそれぞれに技術課題が山積している状況は共通していますが、その取り組み方には大きな隔たりがあることも感じることができました。

スタジオ動向:消えた Fox

一昨年に Disney による映画テレビ部門買収の話が公になって以来、いつかこの日が来ることは予想していましたが、ついにこの3月手続きが完了し、CinemaCon のスポンサーからも名前が消えてしまいました。ハリウッド6大メジャーの一角として長らくその名を連ねてきた Fox でしたが、デジタルシネマの技術要求を取りまとめる DCI (Digital Cinema Initiative) からもその名が消えてしまいました。

例年お楽しみのスタジオ各社の新作紹介のイベントですが、ハリウッドメジャー『5社』の中では唯一 Sony Pictures のイベントが無かった一方で、Lionsgate、NEON、Amazon Studios がそれぞれ新作本編の上映会を催し、意気込みの強さを感じさせてくれました。

劇場向けにも一部作品の提供を始めた Netflix ですが、まだ CinemaCon とは微妙な距離を保ちながら気配をうかがっているようにも見えます。

おまけ:Dolby Cinema による新作上映

今回、ホテル内の劇場に設置した仮設の上映設備であったにも関わらず、Dolby Cinema 相当の上映環境が作り込まれ、実際に数作品の新作本編は贅沢にも Dolby Atmos+Vision でマスターされた DCP で上映されました。

こちらには記載できなかった話題もありますので、ご興味のある方はこちらより個別にお問い合わせください。

ソニーデジタルシネマ・プレミアムラージフォーマット、続報:一号館、ラスベガスにオープン

さて、2月にご報告したように、ソニーデジタルシネマ・プレミアムラージフォーマット “Sony Digital Cinema Premium Large-format” の一号館が4月5日、ラスベガス市内のショッピングモール Boulevard Mall [GoogleMaps] にオープンしました。

劇場オープン初日(CinemaCon 2019 最終日の翌日)、商業上映第一回目の上映(”Shazam!”[IMDb] )を体験することができました。

Galaxy Theatres at Las Vegas Boulevard Mall, Nevada

今回導入先となったのは、米国西部5州に展開する中小規模の劇場チェーン “Galaxy Theatres” がラスベガス市内のショッピングモールに新規にオープンした9スクリーンのシネマコンプレックスです。

以下、写真のスライドショーでご覧ください。

以上の通り、上映システムの構成は概ね前回の分析通りだったので、あまり付け加えることはありません。

様々な可能性を秘めた上映システムであると同時に、多くの課題を抱えた上映システムでもあるので、ソニーが今後シネマ業界に対してどのような動きをみせてくれるのか、大いに気になるところでもあります。

IMAX や Dolby Cinema の対抗馬になる?

残念ながら、現時点では IMAX や Dolby Cinema のように上映システムの特性を引き出すための DCP が提供される訳ではないということです。

すなわち、音響に関しては Dolby Atmos の立体音響を楽しむことができますが、映像に関しては一般上映と同じ DCP が使用されるので、リクライニングシートで大画面を楽しむ。現時点でそれ以上の期待はしない方が良いかも知れません。

そもそもブランド名は?

事前の発表では “Sony Digital Cinema Premium Large-format” という長い呼び名が使われていましたが、結局劇場には “Sony Digital Cinema” というサインしか見当たりませんでした。

これならこれでシンプルで良いと思いますが、そうすると従来のソニー製の上映システムとはどのように区別して呼ぶのか、判然としません。

(”IMAX” がその名のもとに優劣品質の異なる様々な上映システムを展開しているのにも似ています。)

この辺り曖昧にせずに是非とも明確な定義とわかりやすいブランディングを期待したいところです。

上映システムに関するコメントはこのくらいにして、実際の上映を体験した感想を綴ってみます。

Shazam! / 3D の観賞体験

期待のこけら落としの上映品目は “Shazam!”[IMDb] だったのですが、上映スケジュールの関係で、残念なことに 3D 上映を観ることになってしまいました。

折角なので 3D 方式に関して注記しておきましょう。この上映システムでは波長フィルターを使用する Dolby 3D 方式ではなく、円偏光フィルターを使用する RealD 方式が採用されています。

Dolby 方式よりもメガネが軽く、自分のメガネの上にも掛けやすいのは良いですが、それでもやはりレンズと顔の間の散乱光による不快感は禁じ得ないものでした。

折角の 4K 解像度で高コントラストの上映システムですが、2K/3D の品質しか楽しむことができなかったのはとても残念でした。

この上映システムの真価を発揮するには多くの課題が山積していることを実感して劇場を後にすることになってしまいました。

家庭用テレビの映像品質についての議論 – 2019 HPA Tech Retreat

家庭で映像コンテンツを楽しむ環境は年々高品質化していますが、どのようなスペックをどこまで高品質化すべきなのか、業界内でも議論が絶えず、まだまだ収束する気配がないようです。シネマにも共通する課題はある一方で、やはり家庭でシネマを超える体験を実現するのは難しいことを再認識できる議論となっていたようです。

この記事では HPA Tech Retreat から気になる議論を取り上げて紹介します。今年は参加できなかったのですが、メデイア記事から予想通りとも言える現状を垣間見ることができるようです。

議論に参加したのは、国際映画撮影監督協会、UHDアライアンス、ネットフリックス、ソニーの面々で、映像を作る立場、記録する立場、配信する立場、表示する立場の各組織、各会社の考えが述べられたようです。

昨今の製作環境の技術の進歩により、リーズナブルなコストや時間で製作者の意図を反映できるレベルに到達しましたが、家庭に配信する際にはどのようなスペックを実現すべきなのか、まだまだ迷いがあるようです。

画の再現性 〜 色合い、コントラスト、輝度

課題のひとつは画の再現性をどのように実現できるのか。家庭用のテレビではメーカー毎に色合い、コントラスト、輝度設定がバラバラで、画を『作る側のこだわり』と『観る側の好みと環境』をどのようにマッチさせることができるのか、現実的な解決策はまだなさそうです。

フレームレートの不整合

もう一つの課題はフレームレート不整合の問題。一般的に映画は毎秒24フレームで製作されます。文字通り1フレーム毎にこだわりを持って作られています。

しかし、家庭用のテレビでは多くの場合、何らかの形でフレームレートの変換が行われ、実際には存在しない製作者が意図しない画像が表示され、多くの場合、製作者には受け入れ難い違和感のある映像が表示されてしまいます。

家庭とシネマ

家庭での再生機器と視聴環境を揃えることは現実的に非常に困難なので、これらの課題はまだまだ先に持ち越されることになるでしょう。

シネマでは DCI の規定に従うすべての映画館で、一定品質の映像が再現できることになっています。

その一方で、昨今の PLF ブームにより特殊な上映方式が広まることにより、『一定品質』の考え方が成り立たなくなり、再び市場に混乱を呼び込む危険性もはらんでいることを警戒すべきかも知れません。

ドルビーシネマ、国内先行初体験 – 後編

米国でのドルビーシネマ体験との本質的な違い:字幕問題

さて、ドルビーシネマを日本で導入するにあたって、以前から懸念していた課題というのは、字幕が本編映像に及ぼす悪影響のことです。

  • 日本語字幕の文字の大きさと明るさ:
    • 日本語の字幕はフィルム時代からの慣習なのか、他国の平均的な字幕と比べると必要以上に巨大な文字が使用されます。(英語字幕の標準的な文字と比べると倍の大きさの文字が使用されています。)
    • さらに悪いことに、本編映像の明るさとは無関係に白が使用されることが多く、最悪のケースでは最高輝度の白が使用されます。(英語字幕では適度に輝度を調整したオフホワイトが使用されるのが一般的です。)
    • ドルビーシネマは本編映像のダイナミックレンジ、明暗の微妙な描写が特徴で、上映中人間の目はこの映像を観るために暗順応しています。そのような状況で、本編映像の輝度とは無関係に重ねられた巨大で眩いばかりの字幕によって、本編映像の繊細な描写を判別することが極めて困難になります。
  • 字幕の品質
    • デジタルシネマにおける字幕はコンピューターで使用される文字と同様にデジタルデータを画面上に点描することで文字を形成します。
    • 文字を形作る繊細な線を有限画素の点で描画するので、たとえ 4K 解像度でも何も工夫をしなければ、文字を構成する線がギザギザに見えてしまうことがあります。
    • 高品質の映像に低品質の文字が重ねられることで、折角の映像の品質が損なわれることにもなります。

本件、米国のドルビーシネマ担当者にも忠告していたのですが、やはり日本の製作現場にはうまく伝わっていなかったようです。

本来、字幕の問題はユニバーサルなものの筈ですが、米国中心の映画業界では字幕そのものに関する関心が低く、字幕が本編映像に及ぼす悪影響も実感として関心が持たれていないというところに問題の根幹があるようです。

以下実際の体験と結び付けて、今回のドルビーシネマ体験の所感を記します。

国内でのドルビーシネマ体験の所感

まず音声に関してですが、両作品とも Dolby Atmos による上映は素晴らしい臨場感を与えてくれたように感じました。Dolby Atmos 単体での導入劇場も増え、安心して楽しむことができるようになったという印象です。

一方の映像ですが、作品のタイプも異なるのと、字幕の出来具合に大きな差が見られたので、個別に評することにします。

「レディ・プレイヤー1」[IMDb

一本目に観たのがこの作品です。刺激的な原色、強烈な明暗、人工的な特殊映像が多用された作品なので、まさに Dolby Vision のデモ映像としても使えそうな期待通り、予想通りの出来映えの本編映像でした。

巨大な字幕が折角の映像を遮るのは非常に興ざめですが、不幸中の幸いは字幕の色と輝度が純白の最高輝度ではなく、若干輝度が調整されていたようで、何とか映画本編に集中することができました。

2K 相当で 72 ポイントのフォントが使用されていた印象ですが、半分のサイズでも十分と思われます。

フォントには黒のアウトラインが施されていましたが、輪郭の調整が十分ではなく、文字によってはギザギザが見えてしまうものもあり、目障りに感じることもありました。

「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」[IMDb

30分の休憩を挟んで二本目に観たのがこちらの作品です。

文字通り魔法の世界の超現実的な特殊映像が多用されている一方で、夜間に幻想的な街灯り、月明り、魔法の光も多用されており、こちらも Dolby Vision の実力を感じさせる本編映像でした。但し、台詞のないシーンに限ります。

本作も巨大な字幕が折角の映像を遮り、興醒め甚だしかったですが、耐え難いことにこちらの作品では純白で最高輝度の文字が使われていました。

薄暗い幻想的な映像が多用されている作品なので、本編映像の集中していると目は適度に暗順応し、細部にわたり微妙な陰影や光を効果的に感じることができたのですが、ひとつ台詞が発せられる度に眩いばかりの字幕の所為で、暗順応はりせっとされ、美しい映像が台無しにされてしまいました。

正直、返金騒ぎになっても不思議ではなかった状況だと感じています。

実際、この上映の終了後に周囲の観客の声に耳をすませていたところ、「字幕が眩しくなかった?」という声も聞こえてきました。

考えられる要因

このような状態であるにも関わらず、事前の試写で誰も問題を指摘しなかったのか、誰も気付かなかったのか、気付くことができなかったのか、疑わずにはいられませんでした。

このような状態のまま公開に至ってしまうことになった要因を列挙してみたいと思います。

  • 米国では通常字幕上映が行われていないため、製作関係者の中で字幕が本編に及ぼす悪影響が実感として認識されていない。
  • 特に日本語字幕の極端な状況は全く認識されていない。
  • 日本の字幕制作関係者の中で実際の上映時の状況が認識されていない。
  • 日本の興行関係者の中でドルビーシネマの本来の品質が理解されていない。
  • 日本の配給関係者が日本公開時の適切な品質管理をしていない。

実際にはこれらの要因の複数が絡み合いながら悲惨な状況を作り出しているのだと理解すべきでしょう。

これはドルビーシネマの技術的な問題ではなく、上映パッケージ(DCP)の製作、確認プロセスに問題があるということになります。

松竹マルチプレックスシアターズMOVIXさいたまでのオープンも迫っている筈ですが、今後の国内でのドルビーシネマの興行に大きな不安を残す状況だと言えるでしょう。

ドルビーシネマ、国内先行初体験 – 前編

11月23日より本格営業を予定しているT-JOY博多のドルビーシネマを先行体験してきました。はたして以前から懸念していた課題は杞憂に終わったのでしょうか?米国でのドルビーシネマの体験と比べて、何処まで上映品質が完成されたものになっているのか、他ではあまり語られない技術的な視点を交えてまとめてみたいと思います。

11月23日より本格営業を予定しているT-JOY博多のドルビーシネマを先行体験してきました。はたして以前から懸念していた課題は杞憂に終わったのでしょうか?

米国でのドルビーシネマの体験と比べて、何処まで上映品質が完成されたものになっているのか、他ではあまり語られない技術的な視点を交えてまとめてみたいと思います。

先行オープン

ドルビーシネマスクリーンの本格営業に先立つ二日間(11/21-22)、関係各社への御披露目上映も兼ねて、以前公開された2作品(「レディ・プレイヤー1」と「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」)が1本1500円という特別価格で上映されました。どちらも標準上映で鑑賞済みだったので、標準上映との違いを感じることに集中して鑑賞してきました。

11月23日からは「ファンタスティックス・ビースト」の新作続編「ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生」がこのドルビーシネマで公開されるので、前作を観ていない観客を呼び込む上でもちょうど良いタイミングだったのかも知れません。

劇場の作り込み

劇場入り口のロゴ表示から、客席に向かう通路の壁画への作品イメージ映像の投影など、概ねドルビーシネマの標準的な作りでした。

スクリーンは湾曲タイプで、劇場前面の壁がほぼ覆われており、IMAX のスクリーンと比べるとスクリーンの周囲に少しマージンがありますが、左右の視野は十分にカバーされる印象です。

天井と側面には Dolby Atmos 用のスピーカーの配列が見られます。

振り返って投影窓には Dolby Cinema の二台のプロジェクターのレンズが見えますが、映写室からの光が漏れて入らないように配慮されていたようです。

座席は全席プレミアム仕様かと思いきや、全席(少しゆったり目ですが)通常シートとなっていたのは意外でした。その分、料金設定は通常上映の500円増しで、米国の Dolby Cinema の料金と比べてもやや抑え目で、敢えて観客に対する敷居を低く設定したようにも感じられます。

ドルビーシネマ用上映作品の準備

ドルビーシネマの特性をフルに引き出した高品質上映を行うためには、劇場のシステムだけでなく、上映する作品もドルビーシネマに対応したパッケージ (DCP) を製作する必要があります。

勿論通常の方法で製作された作品でも、ドルビーシネマで上映することは可能ですが、その場合通常の上映システムで上映するのと基本的に同じ水準の上映体験しか得られず、折角の高価なシステムの性能を十分に活かすことができません。

ドルビーシネマの性能をフルに体験するには、音声は Dolby Atmos、映像は4K HDR の Dolby Vision のフォーマットで作成されたパッケージ(DCP)が必須だと記憶しておくべきでしょう。

今回上映された「レディ・プレイヤー1」[IMDb] と「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」[IMDb] はいずれも公開時に Dolby Atmos+Visionで製作されており、米国他のドルビーシネマで上映されましたが、今回の上映ではそれらに日本語字幕を焼き込んで作り直されたようです。

映画本編の末尾、ラストクレジットの最後の方に、製作フォーマットに関するロゴが表示されることがあります。今回、「レディ・プレイヤー1」では Dolby Atmos+Vision のロゴが入っていたのに対し、「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」の方には入っていませんでした。しかし、実際の映像と音声を体験したところ、両者とも Dolby Atmos+Vision のフォーマットで上映されていたことは間違いなさそうです。

一点、今回の上映で使用された DCP が 4K 版なのか 2K 版なのか気になったのですが、劇場に来られていたドルビーの方によると、両方の作品とも 4K DCP で、字幕は映像への事前焼き込みで作られたものとのことでした。

作品の向き不向き

とはいえ、上述のような対応をすればどんな作品でも最大限にドルビーシネマの体験を得られるという訳でもありません。当然のことながら、作品自体がダイナミック、パノラミックな音声と奥行きや深みのある映像や超自然的な映像を持ち合わせていて初めてドルビーシネマの効果を活かした上映が可能となります。

その観点からいえば今回の御披露目上映では少しタイプの異なる映像を見比べる上でも良い作品が選ばれたと言えるでしょう。

しかしながら、これまでドルビーシネマ用のフォーマットで製作された作品はまだ大半がハリウッド系の娯楽大作に限られています。

導入を検討する劇場としては、常にドルビーシネマを活用できるような作品を上映し続けて、集客効果につなげることができるのかという点は、事前によく検討しておく必要があるでしょう。

米国でのドルビーシネマ体験との本質的な違い

さて、では単に米国のドルビーシネマで成功した作品に日本語字幕を付けるだけで、日本でも米国での上映と同じような体験が得られるかというと、そう単純なものではなさそうです。

結論を言ってしまうと、今回の上映体験で明らかになったのは、以前から懸念していた課題について、今後真剣に検討、解決しなければ、米国でのドルビーシネマ体験と同等の品質を提供することはできない状況だということです。

この点を含めて、今回の上映体験については後編(要会員登録)にて解説したいと思います。

LED シネマディスプレイ比較

昨年よりLEDシネマディスプレイの実用化が現実化してきましたが、商品化で先を行くSamsungと商品化には慎重なSony、それぞれのLEDディスプレイについて、両者に関する情報が公になってきましたので、現時点での知見をもとに比較したいと思います。

ここでLEDシネマディスプレイというのは従来のスクリーンに映像を投射するのではなく、スクリーン面上に無数に配列した微小半導体LEDを発光させることにより映像を作り出すものを指します。光源を直視することから直視型ディスプレイとも呼ばれます。

LEDディスプレイといえばこのところ家庭用のテレビにOLED(有機EL)が普及してきましたが、画素をLEDで発光させるというコンセプトは同じでも、発光素子の性質として発光波長など細かく異なる点があることは記憶しておくべきでしょう。

実体験

Samsung

昨年のCinemaConのタイミングでプレス発表が行われた後、なかなか実際の映像を体験する機会がなかったのですが、今回のCinemaConでは既にDCI規格の認証も取得し、満を持しての公開でした。
DCI規格を取得したのは4Kシステムですが、CinemaConのブースには2Kシステムの仮設のデモルームが作られ、いくつかのデモクリップを観せてもらいました。その一つが以下のものです。
YouTube: Samsung Onyx: Cinema LED Technology
これ以外に実際の商業作品のクリップも見ることができたのですが、CinemaConの翌週には、ロサンゼルス近郊のPacific Theatres Winnetkaに米国内で初めて劇場導入された4Kシステムで実際の映画上映を体験することができました。

CinemaCon 2018 Samsung Booth

Pacific Theatres Winnetka

Sony

「公の場でのデモ」としては2017年のCinemaConで初めて体験し、今年のCinemaConでも再び4Kのデモを体験しました。さらに今年は先に開催されたNAB Showで8Kのデモを体験しました。CinemaConでは劇場環境を想定した暗い部屋でのデモ、一方のNAB Showではオープンブースに設置されて周囲が明るい環境でのデモをそれぞれ体験しました。

Sony Crystal LED Display System at NAB Show 2018

Sony Crystal LED Display System at NAB Show 2018

Sony Crystal LED Display System at NAB Show 2018

今回の比較ではこれらの実体験とその後の業界関係者との情報交換を通して得た知見をもとに記していきたいと思います。

映像

Samsung

CinemaConでは仮設のデモルームで2Kのデモ映像を見ることができました。漆黒の黒と高輝度の映像は期待通りのものでしたが、デモルームという狭い空間で2Kの映像を見るとやはり解像度の限界が感じられ、このシステムの実力を評価するには物足りない環境でした。

Pacific Theatres Winnetka lobby

しかし、その翌週には実際の映画館で「アベンジャーズ:インフィニティウォー」全編を観ることができました。色も画も、プロジェクター投射による映像にありがちな「にじみ」や「なまり」はまったく感じられず、輝度もコントラストも忠実に「規格通り」の映像が再現されている印象で、まるでスタジオのスクリーニングルームで試写を観ているような質感があり、素直にこのシステムの基本性能の高さを感じることができました。

Pacific Theatres Winnetka Screen 20

一方、この劇場には4Kのシステムが設置されていたにも関わらず、配給されているDCPは通常の劇場で上映するものと同じ条件で作成された2KのDCPであったこともあり、折角の4Kの解像度を体感することができなかったのは残念でした。劇場側としてもまだ試験導入というスタンスのようで、敢えてLEDディスプレイであることも掲示ておらず、チケット料金も普通のスクリーンと同じ設定でした。

Sony

デモ映像を見た限り、画素が点発光である所為か、Cystal LEDという名前に相応しく、クッキリとした鮮やかな映像を表現するのに適しているように感じました。デモ用に作られた映像では明らかに通常の劇場上映の規格を超えるコントラストとダイナミックレンジが表現されており、従来の映画映像の規格を大きく変える可能性のあるデバイスとして期待を抱かせるものでした。

現時点で両者の商品化のフェーズは全く異なっているのと、用意された映像ソースが必ずしもそれぞれのデバイスの能力を最大限に発揮できるように作られたものとはいえないので、ここで両者の優劣を語るのは避けたいと思いますが、共通していえる課題として、これらの性能を活かすことができる映画作品は誰がどのように作ってくれるのか、現時点では両者ともまったくの未知数だといえます。このプロセスを上手く確立できなければ、デバイスの性能も充分に活かされず、それに見合った興行収入に結び付けるのも難しいでしょう。

発光素子、色、色域

個々の発光画素は自由に色を変えて発光するように見えますが、赤(R)緑(G)青(B)それぞれ単色のLED発光素子を組み合わせて構成されており、個々の出力を調整することで様々な色を発光します。

各発光素子の材料系など細かな情報は公開されていませんが、すべて半導体LEDを使用しているため、表示可能な色域は両社とも概ね同じであると推測されます。特に半導体LEDの弱点である緑の発色については共通の特徴として留意しておくべきです。すなわち、このところ次世代の映画フォーマットの基準として関心を集めている広色域化の要求を満たすのは困難なデバイスであることは記憶しておくべきでしょう。この点については業界関係者の間でも概ね認識されていますが、これ以外の魅力も多いデバイスでもあり、現時点でこれを問題視する声もあまり上がらないというのが現状のようです。

発光画素

発光素子として半導体LEDを使っていても、発光画素の形態には両者の間に大きな違いがあります。

Samsung

表面から見た個々の発光画素は正方形かそれに近い矩形の突起となっており、散光板(diffuser)のような材質の表面から均質に光が出力されるように見えます。RGBそれぞれの発光素子を目視することはできませんが、表面の散光板のお陰か、出力される光は綺麗に混ざり合って見えます。画面すれすれの角度から見ると若干色のズレが認められますが、そのような角度から映画を観ることはないので、実用上は問題ないでしょう。

個々の発光画素はつや消しの黒の素材の基板上に配列されているのと、発光素子の表面は散光板状の素材で作られているため、周囲からの光が反射することはなく、また乱反射も極めて低レベルに抑えられているのが分かります。通常の映画のスクリーンも外光の反射はありませんが、スクリーンに当たる光は効率的に乱反射するように作られているので、劇場内の無駄な光も散乱させ、黒のレベルを引き上げる要因になっています。その点において、SamsungのLEDディスプレイはこの問題を意識できないレベルまで低減できていると感じられます。

Sony

表面が透明なガラスで覆われた下に黒色の基板がありそこに発光画素が配列されていますが、電源オフの状態では一見何もないガラス板にしか見えません。じっくり目を凝らしてみると点状の素子が配列されているのが分かりますが、肉眼ではRGBそれぞれの発光素子を区別するのは不可能で、実際に発光させてみても「点」光源から画素毎の色の光が出力されており、RGBの三原色で色が作られていることを肉眼で確認することはできません。見る角度による色のズレも感じられません。

発光した時の色の鮮明さは極めて高く感じられますが、表面が透明なガラスで覆われているため、低反射コーティングが施されているとはいえ、見る状況、周囲の光の状況によっては反射光が気になることもあります。可能性は低そうですが、映画館のような暗い環境でも、条件次第で画面のLED光で照らされた客席からの照り返しが再度画面で反射して見えてしまうことはないのか確認したいところです。

コントラスト、ダイナミックレンジ

プロジェクション(投射)方式では、小さな画像素子から反射された光を、多くの光学素子を複雑に組み合わせた光学系を通して遠方のスクリーンに投射、結像させなければならないため、画像素子で作られた筈の高品質の画像がスクリーンに映し出されるまでに様々な形で「なまって」しまいます。

LED方式では画素一つ一つの出力を直接デジタル制御して、DCPの中に作り込まれた画像データがそのまま実際の画像として表示されるので、原理的には制作時に意図された微妙な濃淡や明暗を極限まで忠実に再現することが可能です。

解像度と画面サイズ

画面解像度は縦横に配列された発光画素の数で表されます。

プロジェクターからの投射映像のようにレンズでズームすることはできないので、作り込まれた画面の大きさとその表面に配置された発光画素の数で、解像度と表示可能な画面の大きさが固定値として決まってしまいます。この点が、LEDディスプレイを劇場で使用する際に、最大の制約となってしまうと言っても良いでしょう。

発光画素は精密な半導体素子により構成されているため、現在の製造技術では素子の間隔を自由に拡大縮小するのは難しく、製造メーカーとしてもいくつもの異なるサイズで製造するのは採算性を考えると非現実的だといえます。

LEDディスプレイの商品性として、現行のプロジェクター投射の劇場をすべて置き換えることを目指すのか、それともプレミアムスクリーンに限定した置き換えを目指すのか、さらにその場合、どのような大きさのスクリーンを対象にするのか、これらを冷静に分析して商品戦略を立てることが重要だといえます。

音響

現在普及している映画館の音響方式の代表的なものとして5.1または7.1チャンネルサランド方式がありますが、家庭用で一般的な(2チャンネル)ステレオ方式とは異なり、劇場内の周囲から包み込むように独立したチャンネルが配置されています。ステレオ方式との大きな違いのひとつに正面中央に配置されたチャンネルがあります。現在通常の映画館ではスクリーンの正面方向から音を出すために、布製のスクリーン全面に細かい穴が開けられており、スクリーンの背後に設置されたスピーカーからの音が客席に向かって出るようになっています。

LEDディスプレイを採用した場合、現状ディスプレイ前面から音を出力することができず、スクリーンと同様の方式で音を出すことができません。このことはLEDディスプレイの共通の課題として認識されています。

Samsung

LEDディスプレイ本体前面から音を出すことができないので、擬似的に前面から音が出ているように感じさせる仕組みを劇場音響メーカーと共同で開発しています。その仕組みを簡単に説明すると、ディスプレイ上端に客席に向けた反響板を設置し、ディスプレイとは別に設置された音源から出る音を反響させて、間接的に客席に響かせるようにしています。この方法は苦肉の策としては、ある程度の効果はあるようですが、劇場内の座席の位置や聴く人の感じ方次第では、さらなる改善が求められるレベルだといわざるを得ないでしょう。実際、私が着席したのは劇場内の中央部の座席でしたが、前面からの音声は明らかに上方から出ているのが感じられ、シーンによっては違和感を感じることもありました。一方、劇場後方の座席では恐らくこのような影響は軽減されると思われますが、通常プレミアム席が設置される中央部で制約が出てしまうのは残念なところです。

Sony

LEDディスプレイ前面から音を出すことができないのはSamsungと同じで、まだ実際の劇場への導入も未計画の現時点では明確な対策は打ち出されていません。ただ家庭用のOLEDテレビではディスプレイ前面から音を出す製品も出されているので、画面全面がガラスで覆われているという構造を活かして、このような技術との組み合わせによりこの問題を解決するような製品が出てくることを期待したいところです。

CinemaCon 2018 (4/23-26)

恒例のシネマ業界最大のトレードショーがラスベガスで開催されました。
世界各地から業界関係者が集うイベントですが、NATO(米国劇場オーナー協会)主催ということもあり、シネマ業界を支える劇場オーナーさんに対する感謝と激励を主旨とする様々な催しが目白押しのイベントとなっています。

イベントの構成は大きく分けて、スタジオ各社の新作映画紹介、シネマビジネスに関する各種セミナー、劇場運営に関連する各種製品紹介、上映機器メーカー各社の製品紹介、そしてここに集まる各社の個別の商談や打ち合わせが行われます。
(一番書きたいのはスタジオ各社の新作映画の話題ですが、このページの主旨にはそぐわないので別の機会にすることにして、)ここでは主に上映機器メーカー各社の動向を中心に、気になった話題を列挙してみます。

 

BarcoからCinionicへ

デジタルシネマの普及の波が概ね落ち着いた数年前から、スタジオ、劇場だけでなく、機器メーカー各社の間でも業界再編の動きが活発に続いており、今回はBarcoがシネマ関連の総合的なシステム、サービスの提供を目指したCinionicというブランドをアピールしていました。ただ内容自体は前年からの流れに沿ったもので、特に驚くようなものもありませんでしたが、プロジェクター各社の中では最大の展示エリアを展開する力の入れようでした。目立った点としては、プロジェクター光源のレーザー化の準備を推進、ロビーサイネージやモバイルアプリを含む各種アプリケーションビジネスの推進、辺りでしょうか。

 

シネマLEDディスプレイ

本格的なシネマ(劇場上映)用の直視型ディスプレイとしてSamsungとSonyがそれぞれ開発フェーズが異なるものの、着実に努力を続けているようです。Samsungは既に4K上映システムとしてDCIコンプライアンスも取得し、世界各地で実際の映画館への導入を試みている段階であるのに対して、Sonyは解決しなければならない課題にじっくり取り組んで、足元をしっかり固めてから実際の製品化にこぎ着けたい様子が見受けられます。両者の比較は別途まとめたいと思いますが、今後数年はシネマ技術の話題の中心となることは間違いないでしょう。

 

手話上映機器(ブラジル向け聴覚障害者支援)

日本では障害を持った方を支援するための上映がなかなか普及しませんが、クローズドキャプションや音声ガイドは従来の上映方式で既にサポートされており、北米ではほぼ全ての劇場でクローズドキャプションや音声ガイドの対応機器を誰でも無料で借りることができるようになっています。一方、ここで紹介する手話上映は、昨年ブラジル政府が義務付けたもので、これに伴って急遽開発された製品が(気が付いた限り)2社2様の方式で展示されていました。ひとつめはDolbyの製品で、上映時に現行標準のクローズドキャプションの文字データから手話アニメーションの映像を生成して客席の表示端末で受信再生するというものです。もう一つの方式は、新たな方式として業界内の技術コミュニティーで議論してきた方式で、音声の空きチャンネルに低解像度の手話の実写映像をエンコードしておき、上映時にこれをデコードして客席の表示端末で受信再生するというものです。後者の方式を開発するに至った背景には、アニメーションよりも実写による手話映像が強く望まれたという事情がありました。後者の方が制作の手間が掛かる一方で、前者の方はクローズドキャプションのデータさえあれば実現可能という利便性も見逃せないでしょう。

 

HDR

ここ数年、次なる制作技術、上映技術として注目を集めながらも、この技術に対する業界内での共通理解も形成されないまま、各社ともそれぞれの考えで技術アピールを積み重ねるというキーワード先行の状況が続いています。ユーザーとしては、HDRというキーワードを背景説明もなく軽々しく使うようなセールストークには十分注意したいところです。このような状況にありながら、現時点で立ち位置をそれなりに明確にしながらHDRを指向する方式として、DolbyVisionとEclairColorの2方式が運用されていますが、残念ながら日本国内ではいずれも劇場鑑賞することができません。ところが、今回Dolbyからの発表によると松竹マルチプレックスシアターズに導入されることが決まったそうで、日本固有の問題にどのように対処するのかも含めて、1日も早く実際に体験してみたいところです。

 

レーザー化

プロジェクターの光源としてランプからレーザーに切り替えようという流れは最早誰も疑う余地のないところですが、蛍光型とRGB型に関しては各社各様の立場の違いが鮮明になっています。
Barco – SmartLaser(蛍光型)とFlagshipLaser(RGB型)の2段構えで顧客の要望に応じてどちらにも対応。両者の差別化に付いては説明不足?
Christie – レーザーの優位性を活かすことができるのはRGB型のみという立場と取りつつも、独自方式の蛍光型もラインナップに加えて対応。
NEC – とりあえず蛍光型でコストメリットを訴求?
Sony – とりあえず蛍光型でコストメリットを訴求しながら、RGBに付いてはまだしばらくは様子見?

 

モバイルアプリ

劇場チェーン毎のモバイルアプリは観客の囲い込みのためには有効な手段かも知れませんが、これは観客に多くのアプリの使い分けを強いるもので、観客の利便性を損なうことも指摘されます。劇場への観客動員が伸び悩む状況においては、劇場チェーンをまたがって統合された一つのアプリ、一つのサービスを提供し、観客の利便性を高めることで観客の足を劇場に呼び戻そうという考え方も広がりつつあります。今回紹介されたAtomもそんなサービスの一つですが、既存の劇場チェーンのアカウントとそのまま連携して使用することができ、加えて売店での注文も事前にアプリから出しておけば、劇場では行列なしに受け取るだけというサービスも提供するようです。

 

スタジオ動向

スタジオ関連で特筆すべき点として挙げるとすると、Amazon Studiosの存在感でしょうか。スタジオからのプレゼンテーションとしてはハリウッドメジャー6社に加えて、Lionsgate、Focusなど、旧来の映画会社がそれぞれに発表を行いましたが、これに加えて今回で3度目となるAmazon Studiosが着実に映画会社としてのステータスを高めていました。ネットストリーミング系ではNetflixも自社オリジナルの作品を積極的に手掛けていますが、シネマ(=劇場上映)を軽視するNetflixの立場とは好対照で、今後の両者の動向は引き続き注視していきたいところです。