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映画館休業中の今できること、今だからこそやっておきたいこと

映画館の休業を余儀なくされる中、家庭でのネットストリーミングに流れる動きもあるようですが、今だからこそ映画館の価値を高めるためにできること、やっておきたいことを考えてみます。

ネットストリーミングで良いの?

ここ数年、ネットストリーミングによる新作公開も増え、映画館を不要視するような声を聞くことが増えてきました。

確かに家庭で好きな時に気軽に観たい作品を楽しめるというというという点では映画館に勝りますが、上映品質の点では映画館には遠く及ばないことは記憶しておくべきでしょう。

残念ながら、今日のネットストリーミングのコンテンツ制作基準、家庭での上映(再生)環境では映画館向けに作られたコンテンツと映画館での上映環境には敵わないのです。

但しこう言えるのも、映画館の上映システムが最適な状態に管理維持されている場合と比較した場合です。

上映システムの調整は万全ですか?

言い換えると、適切な状態にメンテナンスされていない上映システムでは必ずしもネットストリーミングよりも高品質な上映を楽しむことができないことになります。

上映システムを導入した時にはしっかり調整されていたとしても、長期に渡って使用するにつれて、システム本来の品質で上映できなくなってしまいます。

フィルム映写機と比べて可動部分も少なくなり、IT機器の仲間のように思われがちなデジタルシネマシステムですが、経年変化は必ず起きます。

特に光学系の変化と映像の劣化は顕著で、輝度の低下、輝度ムラ、色ムラ、フォーカスのズレ、二連プロジェクターのズレ、RGBパネルのズレ、スクリーンの汚れなど、これらが組み合わさるとストリーミングの映像にも簡単に負けてしまいます。

これらは一見システムとして正常に動作しているように見えても、映像そのものの品質に顕著な劣化を招くので、これを放置して上映を続けるのは映画館としての風評にも影響を及ぼしかねません。

この機会に上映システムの再調整を!

日々の上映が立て込む日常においては、中々システムの点検調整に時間を割くことは難しいものですが、お客様がいない今こそじっくり時間をかけて調整し、システム本来の性能を取り戻した上で、自信を持ってネットストリーミングから観客を取り戻せるように備えておきたいものです。

調整内容によってはメーカーのサービスを呼ばなければ手が出せないこともありますが、先ず自分一人でもできることとして、システムの状態の確認はしておきたいものです。

取り掛かりとしてシステム内蔵の各種テストパターンで基本的なチェックをすることができますが、より複雑なテストクリップ DCP を入手して入念に異常、違和感がないかを調べます。

テストクリップの入手や評価手順に付いては Cinema Test Tools が役に立ちます。(機械翻訳による日本語ページも一応はあります。)

新技術の導入

映画館に新しい技術を導入する際には通常の上映の妨げにならないように最終上映終了後の深夜から翌朝初回上映開始までの作業が勝負です。

しかし、全館休館の今なら日中の時間を使って存分にテストできるでしょう。今このタイミングを逃す手はありません。

視聴覚に障害のある方への上映補助システムなど、日本の劇場では殆ど導入されていないシステムの導入を試みるなど、できることは色々ありそうです。

SMPTE DCP への準備確認

新技術への対応として誰もが避けて通れないのがデジタルシネマパッケージの標準フォーマットである SMPTE DCP への準備です。

現在日本の映画館では没入型音響システムを採用した一部の上映を除き、デジタルシネマの初期から使われている暫定フォーマット Interop DCP が使用され続けています。

北米では10年ほど前から SMPTE DCP の市場導入テストが始まり、5年ほど前には9割程度の映画館が SMPTE DCP への対応を完了しました。

世界的にも SMPTE DCP への移行が着実に進む中、日本では未だ本格的な移行に向けた筋道が見えない状況にあります。

DCI 準拠の上映システムであれば基本的には SMPTE DCP への対応は可能な筈ですが、システム上の設定変更が必要な場合もあり、最悪の場合、機材の変更が必要になることもあり得るため、可能な限り早期の対応確認をしておきたいところです。

一言で SMPTE DCP と言っても様々な設定やオプションなど自由度が高いため、すべての規格に対応できている上映システムはありません。

市場に導入されているのは特定のプロファイルに則ったパッケージですが、これは DCI の基準と同等ではないため、DCI 準拠の上映システムというだけでは安心することはできないのです。

市場導入されている SMPTE DCP のプロファイルは ISDCF において管理されており、https://www.isdcf.com/site/test-content/ からテストクリップを入手することができます。

こちらは英語版しかありませんが、この休館中の時間を将来への備えとして有効活用して頂ければ幸いです。

ご質問などありましたら、ご遠慮なくお問い合わせください。

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新型コロナウイルスによる影響、長期休業後のシステム再稼働への備え

漸く首都圏他、大都市圏を対象とした緊急事態宣言が発効し、対象地域の映画館はほぼ全館長期休業を余儀なくされることになりそうです。

シネマ業界に与える影響は各国と同様に甚大なものになることが懸念されますが、業界団体が先導する欧米諸国とは異なり、国内のシネマ業界に対する具体的な救済措置が見えないままでの全面休業になりそうなのは心苦しい限りです。

経営面での懸念もさることながら、前回触れた上映システムの再稼働に対する備えも真面目に取り組んでおく必要がありそうです。

通常の使用下では問題なく連携して動作していても、長期間電源から切断された状態から再起動する際には、設置時と同じような注意や作業を要することもあります。

デジタル家電の電源を入れるのとは訳が違うのです。

感染騒動が治り映画館を再オープンできることになっても、最悪の場合、上映システムが正常に動作しないという事態が懸念されます。

起きてしまうとかなり厄介なのはセキュリティーモジュールの電池切れで、この内蔵時計が初期化されてしまうと、顧客自身の手で正常動作に復帰させることはできなくなってしまいます。

新型コロナウイルスによる影響、続報」から抜粋

これまでに各地の業界コミュニティ、メーカー各社から公開されている注意事項へのリンクが ISDCF の関連ページにまとめられていますので、以下に転記しておきます。(残念ながらすべて英語での資料となります。)

業界コミュニティーがまとめたリンク集
メーカー各社から提供された資料

以上は各社から自発的に提供された情報ですが、これらに含まれていないメーカーに関しては個別に事前に問い合わせおく必要がありそうです。

特に中小の劇場様方が一日も早く無事再稼働されることを願ってやみません。

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新型コロナウイルスによる影響、続報

都内での経路不明の感染拡大に伴い、この週末は首都圏の多くの劇場で上映が休止されることになりそうです。一方、海外でも様々な動きが続いているようなので、順次取り上げたいと思います。

米国上院の高速対応

先週 NATO から提出された救済措置の要望に応えて、満額回答ではないかと思われる内容が米国上院の超党派の合意として発表されました。詳細は今後詰めるとしながらも、

  • 休館中の固定費支払いのために劇場や関連事業者に 4540億ドル(約50兆円)の融資を保証する。
  • 大多数の劇場所有者が該当することになる中小企業支援プログラムを拡張し、一部項目に関しては返済免除の融資を行う。
  • 給与税の繰り延べ、事業損失の繰り越しを認める条文追加、優良資産に関する条文修正。
  • 休業中の雇用継続や売り上げ喪失を配慮した税額控除。
  • 最大4ヶ月までの労働者の雇用保険の延長と拡大(支給額の増額、パートタイム従業員への適用も含む)。
  • 労働者に対する税額控除の拡大。

というかなり具体的な内容となっています。

たった1週間でここまでの回答が得られるのは、政治家からもシネマ業界が重要視されていることの証でしょうか。

長期休業後の上映システム再稼働

長期間上映システムを停止させた後の再稼働に関して、業界内では休館騒ぎが始まった当初から懸念が挙げられていました。

デジタルシネマの上映システムは多くの場合、様々なメーカーの機材が様々なインターフェースで接続された組込みコンピュータの複合体で構成されています。

通常の使用下では問題なく連携して動作していても、長期間電源から切断された状態から再起動する際には、設置時と同じような注意や作業を要することもあります。

デジタル家電の電源を入れるのとは訳が違うのです。

感染騒動が治り映画館を再オープンできることになっても、最悪の場合、上映システムが正常に動作しないという事態が懸念されます。

起きてしまうとかなり厄介なのはセキュリティーモジュールの電池切れで、この内蔵時計が初期化されてしまうと、顧客自身の手で正常動作に復帰させることはできなくなってしまいます。

このような状況に陥らなくても、少しでも問題を回避できるように、欧米市場のいくつかの業界団体(UNIC、ISDCF など)やメーカー各社からは注意書や手順書のようなものが提供され、中小の劇場でも最低限の対応ができるように配慮が進められています。

しかし、このような資料を公開していないメーカーもあり、さらに日本市場向けにはまとまった情報が公開されていないという状況です。

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新型コロナウイルスによる影響

新型コロナウイルスの感染拡大により既に世界中の経済に影響が出ていますが、シネマ業界も例外ではありません。業界内での動きについて記しておきたいと思います。

世界各地で閉鎖される映画館

当初感染が確認された中国では早くからすべての映画館が閉鎖されましたが、ここに来て感染拡大に歯止めが掛かったことから、一部の劇場で営業が再開されてきたようです。

感染拡大が緩やかな日本では注意喚起や一部での入場制限は行われているものの、現在でも完全閉鎖されている劇場はないようですが、爆発的な感染拡大に対する警戒が叫ばれている中で、安心できる状況にはなさそうです。

感染拡大が治まらない欧米諸国の状況は深刻で、殆どの映画館が閉鎖されています。

米国では NATO(読み:“ネイトー”、全米劇場所有者協会)が米国議会と政府に対して、劇場経営と15万人の劇場従業員の生活を支援するための施策(固定費軽減のための融資保証、従業員に対する税制優遇、閉鎖に関わる費用の軽減、劇場再稼働時に損失回収するための税制優遇)を要求し、また NATO 自身も積立金100万ドルを職を失った劇場従業員のために支出するとのことです。

一方、欧州では UNIC(読み:“ユーニック”、欧州シネマ業界連合)が各国の政府に対して、欧州は『シネマ』誕生の地であり、その文化的な価値を守り続けるべきという信念のもと、このシネマ業界がこれまでに経験したことのない困難を乗り越えるために、今後数ヶ月に渡り可能な限りの支援を行うように要請しました。

ドライブインシアターの復権?

映画館のように閉鎖された空間に不特定多数が密集することで感染拡大のリスクが高くなるのであれば、特定少数毎に隔離された自動車内で映画鑑賞を楽しめるドライブインシアターなら安全だろうということで、一部のドライブインシアターを見直す動きもあるようです。

ただ、現在使用可能な設備は品質・スクリーン数ともに限られており、現行の映画館の収益を置き換えるには程遠いと言わざるを得ません。

新たに設備を作るのであれば、昨今注目を集めている LED シネマディスプレイを使うのが良いのでは?と冗談半分に言う人もいます。

確かにドライブインシアターなら音響はカーオーディオを使用することになるので、LED シネマディスプレイの課題である音響問題を回避することは可能ですが、屋外に恒久的に設置するとなると映像品質、耐久性など解決しなければならない別の課題が噴出しそうです。

ストリーミングサービスによる家庭での映画鑑賞?

より現実的な代替方法として語られているのが、Netflix や Amazon Prime Video などのストリーミングサービスやケーブルテレビ、衛星放送を利用した家庭での映画鑑賞です。

今回の感染騒動よりかなり前からストリーミングサービス専用の公開作品も数多く作られており、将来的には映画館は要らなくなるという極論を唱える人もいます。

ただ、家庭用のテレビ画面やホームシアターシステムで楽しむことができる映像と音声はスペック上は映画館向けのものと比べると多くの点で劣っているため、高品質の映像と音声を重視するマニア層には受け入れられないでしょう。

但し、上映システムが適切に管理されていない映画館の上映品質は家庭用の上映品質に劣る場合もありますので、一概に優劣を付けるのは難しそうです。

何れにせよ、現時点で映画館での上映を置き換えるには数多くの課題がありそうです。

上映作品がなくなる?

日本ではまだ深刻には受け止められていないかも知れませんが、世界的な上映機会の消失に伴い、新作大型作品の公開を半年程度延期する計画が伝えられています。

一部作品は家庭へのストリーミング配信での公開も予定されているようですが、この流れは劇場経営にとって何の助けにもならないのは明らかです。

さらに深刻な懸念として、現在製作中の作品やこれから製作が予定されている多くの作品で公開予定の見直しが迫られており、長期的に大型の娯楽作品など上映作品が不足することを懸念する声もあるようです。

業界慣習的に日本国内で海外作品が公開されるのは世界的にみて遅いのが通常で、多くの国々でほぼ同時に公開される作品でも日本で公開されるのは3ヶ月遅れというのが珍しくありません。(勿論一部の作品は除きます。)

現在公開されているハリウッド系の作品の多くは米国では昨年に公開されたもので、まだ日本での新作公開予定に影響が出ていないように見えます。

しかし、現在の状況が長引くと、欧米の新作映画が届かないという状況になりかねないことも頭の片隅に記憶しておくべきかも知れません。

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CinemaCon 2020 中止決定

先週まで開催努力の継続が報じられていたのですが、とうとう今年のシネマコンの中止が決定したようです。

色々と新しい話題に関する予報も出ていただけに大変残念ですが、引き続き業界内の動きをフォローしていきたいと思います。

CinemaCon
To: CinemaCon Attendees and Industry Partners
From: John Fithian (NATO)
Mitch Neuhauser (CinemaCon)
Re: CinemaCon 2020 – Canceled
Date: March 11, 2020
It is with great regret we are announcing the cancellation of CinemaCon 2020. Each spring, motion picture exhibitors, distributors and industry partners from around the world meet in Las Vegas to share information and celebrate the moviegoing experience. This year, due to the travel ban from the European Union, the unique travel difficulties in many other areas of the world and other challenges presented by the Coronavirus pandemic, a significant portion of the worldwide motion picture community is not able to attend CinemaCon. While local outbreaks vary widely in severity, the global circumstances make it impossible for us to mount the show that our attendees have come to expect. After consultation with our attendees, trade show exhibitors, sponsors, and studio presenters, NATO has decided therefore to cancel CinemaCon 2020. We look forward to continuing the 10-year tradition of presenting the largest movie theater convention in the world and joining our attendees in future celebrations of the moviegoing experience.

All the very best,


John Fithian

Mitch Neuhauser
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『ジェミニマン』のハイフレームレート上映

アン・リー監督の新作『ジェミニマン』が公開されましたが、注目の『ハイフレームレート上映』に付いてはあまり関心が寄せられていないようです。通常の上映と比べて何が違うのか少し解説してみたいと思います。

映画のフレームレート

現在、通常の映画はフィルム時代からの慣習に従い、1秒間に24フレームという割合で制作、上映されています。

今時テレビでも毎秒60フレームで映るのに何でそんなに遅いのかと感じるかも知れません。

その一方で、フィルム映画の資産をそのままデジタル上映に変換、流用しやすいというメリットもあります。

それよりも、デジタルシネマの規格の策定時に多くの映画制作者がこだわったのが、1/24秒毎に込められた画像の質感でした。

実際、動きの大きいシーンで1/24秒の画像を観るとぼやけて見えることもありますが、そのぼやけ加減も映画の質感の一部と捉えられた訳です。

その結果、デジタルシネマでも毎秒24フレームというプロセスが踏襲されることになりました。

しかし、技術の進歩に伴い様々な映像表現の可能性が拡がるようになり、映画制作者の間でも色々な試みをすることが増えてきました。

ここで鍵になるのが最近よく耳にする『没入感』という概念です。

映画鑑賞における没入感

人が映画を観る際、何かしら自分自身が映画の中に入り込んだ感覚に浸ろうとしますが、現実の感覚とのズレが小さくなる程、より深い没入感が得られると考えられています。

没入感に寄与するものとして、視覚効果だけでなく、音響効果や(座席の)振動などが挙げられますが、ここでは特に視覚効果に絞って分類します。

分類効果没入感
解像度スクリーンの大きさとスクリーンからの距離にも依存しますが、多くの場合、2Kと4Kの違いは知覚可能です。++
色/色域白黒からカラーになり格段に現実感が高まりましたが、色の使い方はむしろ作品毎の芸術性に関連するところが大きく、没入感とは直接結び付かない要因と考えるべきでしょう。+ / –
明るさ/暗さ/階調暗部での繊細な表現や明暗の大きなシーンの描写により、より現実の光景に近い感覚を得ることができます。
ドルビーシネマではこの効果が強調される映像が作られています。ハイダイナミックレンジ (HDR) と呼ばれる手法もこれに分類されます。しかし、映画館という環境に最適な条件については業界内で議論、検討が続いており、明確な指針は得られていない状況です。
+
視野を覆う割合視野を覆う割合が高い程、映像との一体感が増し、没入感は高まります。
フィルム時代のシネラマ上映ではこの効果を最大限に活かした上映が行われていました。最近ではIMAXやドルビーシネマなどのプレミアムラージフォーマット(PLF)上映がこの効果を期待するものだといえます。
+ + +
立体視 (3D)右眼と左眼の映像の視差により擬似的な立体感覚を得るものですが、効果には個人差があり、没入感を得られる人もいれば、まったく受け入れられない人も一定数いることは無視できないところです。+ / – –
フレームレートフレーム更新速度と共に現実の世界を見ている感覚に近付きますが、毎秒120フレーム以上では人間の目には実効的に大きな改善は感じられないと言われています。+ + +
周囲の光劇場内の誘導灯、壁や客席からの散乱光、3Dメガネの散乱光、不用意な明るさの字幕、スマホの光など、すべて没入感を損ねる要因となります。– –

これらの効果はすべての作品の上映に共通するものではなく、映画制作者の意図により適宜組み合わせて使用されます。例えば、白黒作品のように意図的に色を使わずに映像表現をするのは今日でもよく見掛けられます。

アン・リー監督は前作『ビリー・リンの永遠の一日』を初めて4K/3D/120フレームで制作しました。当時、特殊上映設備によるサンプル映像を観る機会に併せて、アン・リー監督の話を聞く機会があったのですが、戦場での銃撃戦のシーンでは手元に着弾したかのような感覚が異常に生々しく、地面から舞い上がる砂埃を吸い込みそうな感覚を覚えたのを記憶しています。

アン・リー監督はこの上映条件で公開したかったのですが、当時4K/3D/120フレームの映像を上映できる設備は殆ど導入されておらず、プレミア上映の際と中国の一部の劇場を除いて、監督の意図しない品質(2K/3D/60フレーム若しくは2K/2D/24フレーム)で上映されることになってしまいました。

今回再び4K/3D/120フレームで制作された『ジェミニマン』でしたが、Dolby Cinema の普及により 2K/3D/120フレームで上映できる劇場が増えたものの、それ以外は『ビリー・リン』の際と同様の状況で、2K/3D/60フレームと2K/2D/24フレーム(通常上映)となりました。

とはいえ、日本では今回初めて 2K/3D/120フレームという上映を体験できる機会が提供されることになったのはよろこばしい状況といえるでしょう。

※一部メディアにおいてドルビーシネマでは4K/3D/120フレーム上映が行われているという記述があるようですが、これは誤りですのでご注意ください。4K/3D/120フレームと2K/3D/120フレームには体感できる違いがあります。4K/3D/120フレームでの上映が行われたのは、特殊上映機器を導入している中国の一部の劇場だけで、これらはドルビーシネマではありません。

実際の上映フォーマットへの変換

実際の上映フォーマットに合わせてオリジナルの映像を変換する必要がある訳ですが、フレームレートの変換は容易ではなく、上映設備の特性に合わせて異なる調整が必要になります。これを誤ると観るに堪えない不自然な動きの映像になってしまいます。

(120fpsから60fpsや24fpsだと、整数倍なので合成する割合を変えるだけで簡単にできるじゃないかと思われるかも知れませんが、そう単純には行かないのです。)

これを支える技術: ShowscanからMagiへ

ハイフレームレートに対する挑戦は実はフィルム時代から行われてきました。そして技術と経験の積み重ねを経て4K/3D/120フレームの制作が可能になりました。ここで忘れてはならないのが近代映画制作における視覚特殊効果のレジェンドともいえるダグラス・トランブルの功績です。

ダグラス・トランブルがハイフレームレートに目を付けたのは70年代後半のことでした。70mmフィルムを使い毎秒60フレームで、撮影から上映に至るシステムを完成させ、多くのテスト映像を制作しました。しかし、これを広く普及させるには至らず、一旦はお蔵入りしてしまうことになりました。

新たな挑戦の切っ掛けになったのはデジタルシネマの登場でした。カメラもプロジェクターもデジタル化され、Showscan Digitalとして3D/120フレームでの撮影と上映が可能となり、フレームレート変換に関わる様々な技術検証が行われました。

これらの検証をもとに Magi(マジャイ)という制作プロセスを確立し、今回の『ジェミニマン』の制作でも活用されました。このプロセスにより、4K/3D/120フレームで制作された映像から、上映機器に合わせた様々なフォーマットの映像に変換できるようになった訳です。

ハイフレームレート上映は何故流行らない?

このように視覚的に圧倒的な没入感を与える方式として、技術的には成熟しつつあるハイフレームレートですが、中々普及が進まない理由を考えてみたいと思います。

作品数が少ない

ハイフレームレートでの制作に関心を示している映画監督といえば、『ホビット』を48フレームで制作したピーター・ジャクソン監督がいますが、新作での採用の予定はなく、『アバター(続編4作)』の60フレームでの制作を表明しているジェームズ・キャメロン監督ですが、他の作品での採用予定は無さそうです。

いずれも人気監督ですが、最も積極的なアン・リー監督を合わせても、今の状況だと数年に1作品しか新作として公開される作品が出てこない見通しなので、これでは知名度を上げるのも中々難しそうです。

作品数が少ないとこの特殊上映に対応した上映機材の導入もなかなか進まず、上映機会が増やせないということは配給会社としても積極的な導入に踏み切るのはむずかしいということにもなります。

違いが分かりにくい

もう一つの問題はこの方式自体のブランディングの拙さということになるでしょうか?

今回新たに『ハイ・フレーム・レート/3D+ in HFR』といったロゴのようなものが作られたようですが、このロゴから今回採用された技術の特徴、凄さは残念ながらまったく伝わってきません。

オリジナルの4Kの解像度は消え去り、毎秒120フレームと60フレームのバリエーションの違いも分からず、これまでの3Dの改良版?くらいの印象しか伝わりません。

4K + 3D + HFR 抱き合わせの失敗

アン・リー監督の拘りもわかりますが、その結果またしても HFR 本来の視覚効果を広くアピールする機会を逃してしまったのは残念な限りです。

より多くの観客に、HFR の驚くべき感覚を焼き付けたかったならば、2K/2D/60フレームか120フレームを主たる配給フォーマットとして使用すべきだったでしょう。

メーカー社員でも。。

実は違いを正確に理解できていないのは観客だけではありません。上映機材メーカーの社員でも極一部の専門家しか正しく回答できないという実態もある様です。

業界内での理解、合意が進むには果てしない道のりがありそうですが、表現方法としてとても興味深い技術であることは間違いないと思いますので、今後の進展に注目し続けたいところです。

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日本語版 デジタルシネマ名前付け規則 V9.6.1 公開

デジタルシネマの運用にいくつか新しい技術が加わったことにより名前付け規則もISDCF での議論を通じて改訂されてきましたが、そろそろ一旦落ち着いたようなので、日本語版も更新しました。

『日本語版 デジタルシネマ名前付け規則』が初めての方はこちらのリンクからお読みください。すでにご利用中の方はこちらのリンクからご利用ください。

V9.5 からの主な変更点

V9.5 からの主な変更点は、

  • 作品の分類に EPS を追加、並びに CPL メタデータとの対応関係を追加(付録 3
  • 没入型音響形式に関する記述方法の整理(付録 4
  • CPL メタデータの拡張(付録 12

です。

作品の分類に EPS を追加(付録 3

EPS というのは「エピソード」を短縮したものですが、昨今のネットストリーミング系のスタジオの台頭とも相まって、連続テレビドラマのシリーズを上映するという例が出てきています。

主タイトルは同じでも第何シーズンの第何話という形で区別したい場合にこの属性を使用することを想定しています。

ここで注意したいのは、「スター・ウォーズ」や「ワイルド・スピード」の第何作目のような場合にはこの属性を使うのではなく、従来の FTR を使います。

CPL メタデータとの対応関係を追加(付録 3

SMPTE DCP の CPL 中に記述される CPL メタデータとの対応関係がより細かく記載されるようになりました。

但し、マイナーな項目の中には名前付け規則と完全に対応していない項目もあり、SMPTE DCP と Interop DCP が混在する状況では、現場での注意が必要かも知れません。

没入型音響形式に関する記述方法の整理(付録 4

没入型音響方式の SMPTE 技術標準が固まり、市場導入の準備が整いつつありますので、名前付け規則でもその記述方法について、若干の整理が行われました。

日本ではまだ導入劇場も限られていますが、従来の Atmos、DTS-X、Auro の各方式の記述に加えて、新たに標準規格として定めされた SMPTE の IAB (Immersive Audio Bitstream) を表す記述が導入されました。

CPL メタデータの拡張(付録 12

新たに追加された付録ですが、『デジタルシネマ名前付け規則』の表面的には影響を与えるものではありません。

但し、SMPTE DCP を作成しようとする制作者は注意が必要ですし、上映システムを設計するメーカーも対応が必要です。

以上が V9.5 からの主な変更点になります。

ご不明な点などありましたら、お気軽にお問い合わせください。

最後に余談ですが、この日本語訳はオリジナル版の HTML のソースを書き換えているため、オリジナルのウェブ作成ツールに依存したレイアウトを保持しきれず、細かい調整を入れております。読み辛い箇所などありましたら、併せてお問い合わせよりお知らせください。

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シネマテクノロジー、ゆく年くる年 (2018)

2018年に起きたシネマ技術を取り巻く記憶に残る出来事を振り返りながら、2019年に予想される出来事を占ってみたいと思います。思い付くまま順不同で列挙してみましょう。

LED シネマディスプレイの登場

2017年から予告されていた Samsung の LED シネマディスプレイがついに今年正式な製品として登場しました。

大型の LED ディスプレイといえば、かねてから街頭ディスプレイで目にするような製品は出回っていましたが、劇場での映画上映の使用に耐えるような品質、機能、性能を備えたものはありませんでした。

Samsung Onyx Cinema LED は現時点で映画館で一般興行を行うために必要な品質、機能、性能を規定する DCI 認証 (CTP1.2) を取得し、まだ試験的ではあるものの、世界各地の映画館で一般興行を行いながら、上映機器として必要な実績を積み重ねてきました。

併せて、画面サイズの異なる二つのモデル(幅約10mと14m)を発売することで、対応可能な劇場サイズも広げました。

さらに昨今話題の音響方式 Immersive Audio の一方式である DTS-X にも対応したことで、来年は劇場上映システムとして、映像、音声を含めた総合的な市場評価が進むことになるでしょう。

一方で LED ディスプレイの本来の特性である HDR 性能を活かした映像制作とブランディングについては、業界内での働き掛けはみられるものの、更なる努力と工夫が必要な段階といえるでしょう。2019年中には、現状唯一の HDR シネマとして先行する Dolby Cinema に対抗できるような、具体的な展開がみられることを期待したいところです。

Samsung に遅れを取っている Sony も、今年後半に入って Samsung と同じ DCI 認証の取得を達成しましたが、まだ市場の動向を探っているのか、一般興行に使用される段階には至っていないようです。

Sony 製 LED シネマディスプレイ (Crystal LED) は Samsung Onyx と比べて画素間隔が狭いのが特徴で、4K 解像度でも幅約 5m で、より小さな画面に高精細の映像を表示したいという劇場に対象が絞られるので、同じ程度の大きさの劇場においては Samsung 製品との競合は避けられるでしょう。

Sony Crystal LED も製品性能としては現状の上映規格をはるかに上回るものを持っているのは事実なので、後はこの性能を活かした映像制作のプロセスを確立し、高品位上映方式のブランドとして、どのように業界内に浸透させられるかに掛かってくるでしょう。

ドルビーシネマ日本上陸

11月に待望の日本(九州)上陸を果たしてくれたドルビーシネマですが、2019年のゴールデンウィーク頃には当初の計画から遅れながらも首都圏(埼玉)への進出が予定されており、その後年内には都心でのオープンも実現する見通しです。

現時点で唯一世界規模で HDR 上映による映画興行が行われているドルビーシネマですが、 これまで随所で指摘してきたように、残念ながら字幕を必要とする日本での上映においては、本来の高品位な HDR の映像体験を楽しむことができるとはいえない状況です。

その要因として、1.ドルビーシネマ対応作品の製作者に日本での上映品質があまり注視されていない、2.日本国内でドルビーシネマの上映品質を管理する体制が整っていない、3.日本国内の観客にとって本来のドルビーシネマの品質がよく理解されていない、などが考えられます。

2019年、首都圏に登場する頃にはこれらの状況が改善されることを願うばかりです。

プレミアムスクリーンの乱立

今年に始まったことではありませんが、所謂プレミアムスクリーンが乱立される状況に、一映画ファンとして懸念を持ち続けています。

臨場感あふれる立体音響を楽しみたい、視界を覆い尽くす大画面の映像を観たい、より高品位な映像音声を楽しみたい、映像音声に合わせて振動や風や水飛沫も体験したい、後ろから蹴られる心配のない大きい座席に座りたい、映画を観ながらゆったり食事を楽しみたい、なんとなくプレミアムな優越感を味わいたい、などなど、プレミアム上映として追加料金のもとに提供される内容には様々なものがあります。

映画館でどのような体験を期待するのか、観客一人ひとりによって様々なので、一概にどの方式、どのブランドが良いか悪いかをランク付けする意図はありませんが、通常スクリーンと比べてどのような付加価値を提供してくれるのか、もう少しわかり易い表示、説明をお願いしたいと感じています。

個々の方式が実際の映画製作者の制作意図 (Artistic Intent) に沿ったものなのかという点についても気になるところでもあり、この辺り機会を改めて解説できればと思います。

Netflixの台頭

日本ではあまり大きく報じられることはありませんが、映画製作会社としての Netflix の躍進はここ数年めざましいものがあります。独自スタジオの設立や業界各社からの人材獲得なども凄まじい勢いで行われてきたようです。

これまで Netflix は自社のネット配信に特化した映画製作を行い、公式には劇場への映画配給に関心を示してきませんでしたが、そんな中でも昨年は中堅劇場チェーンの取得に興味を示すなど、業界内であらゆる可能性を模索しながら動き続けているようです。

ネット配信で競合する Amazon は既にネット配信と劇場配信の両方にまたがってビジネスを展開していますが、両者の力関係や旧来の映画会社との関係も目が離せない状況が続きそうです。

DCP 配信の電子化

デジタルシネマの時代に入り、上映作品の劇場への配送はフィルム缶からハードディスク (HDD) の形に変わりました。日本ではまだこの時代が続いていますが、世界では既に次の段階に進んでいる地域もあります。

最も進んでいるのは北米地域で、既に2010年頃から衛星データ配信のテストが始まり、現在主流は HDD 配送から衛星によるデータ配信に切り替わっており、HDD を配送するのは衛星受信設備のない小規模の劇場や非常時のみという運用になっています。

一方、一部の新興地域では、宅配事情よりも高速インターネットの普及の方が進んでいる地域もあり、そのような地域ではデジタルシネマ化と同時に劇場へのネット配信が導入されるケースも増えているようです。

日本では高速インターネットが先進国の中でも普及している筈ですが、同時に安全安価な宅配環境も整っているため、旧来の HDD 配送のまま変化が進まない様子です。

地球環境への負荷の側面から考えても、物理配送よりも電子配送の方が地球に優しい方法であることは疑う余地はありませんので、是非ともこの方向への動きが進むことを期待しています。

SMPTE DCP への移行

現在日本国内で流通している DCP は一部の特殊上映を除き、Interop DCP というフォーマットでパッケージされています。このフォーマットはデジタルシネマ黎明期の 2005年頃に業界有志によって作られ、3D 対応など機能拡張が行われながら今日まで使われています。

一方、2007年には標準規格である SMPTE DCP というフォーマットが規格化され、米国において直ちに市場導入の検討が始まりましたが、劇場機材の対応など現実とのギャップを埋めるのに年月を要し、実際に商業上映で導入されたのは 2015年のことでした。

その後、北米地域では着実に実績と改良を重ねながら導入作品を増やしており、2017年頃からは欧州一部地域でも導入が進んでいます。

日本市場に対しても導入の検討が行われましたが、日本独自の特殊事情(日本語字幕対応)により、現在のところ導入計画は未定となっています。

上映機材の新規導入や更新を検討する劇場様は、将来の SMPTE DCP への対応保証など、機材メーカーとの十分な確認をとっておくのが安心でしょう。

SMPTE DCP と Interop DCP にまつわる背景については、2019年に改めて記事をまとめたいと思います。

番外:アバター続編

2009年の『アバター』 “Avatar” 公開の後、毎年話題の陰に出ては消える『続編』ですが、残念ながら(?) 2019年も観れないようです。

主な原因は、制作技術にあるのではなく、現状の上映技術が製作者の要求に満たないというところにあるようです。

前作では初の本格的 3D 超大作として話題になりましたが、新技術にこだわりを持つジェームズ・キャメロンの要望により、続編では 3D に加えて『ある技術』を掛け合わせて上映したいということです。しかし残念ながら現状の上映機材ではその要望を満たすことができないので、その上映が可能になるまで公開しないという方針のようです。

現在のところ公開予定は2020年となっています。

幸いその要素技術はあるメーカーによって開発され、製品化は進んでいるようですが、実際に2020年にその機材を導入できる映画館は何スクリーンできるでしょうか?

大半の劇場では、特殊上映対応ではなく、通常の 2D または 3D 上映として上映されることになりそうです。

以上、年の瀬、思いつくままに記しましたが、2019年がより良い『シネマ』体験をできる年になることを願いながら、まとめとさせて頂きます。

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ドルビーシネマ、国内先行初体験 – 後編

米国でのドルビーシネマ体験との本質的な違い:字幕問題

さて、ドルビーシネマを日本で導入するにあたって、以前から懸念していた課題というのは、字幕が本編映像に及ぼす悪影響のことです。

  • 日本語字幕の文字の大きさと明るさ:
    • 日本語の字幕はフィルム時代からの慣習なのか、他国の平均的な字幕と比べると必要以上に巨大な文字が使用されます。(英語字幕の標準的な文字と比べると倍の大きさの文字が使用されています。)
    • さらに悪いことに、本編映像の明るさとは無関係に白が使用されることが多く、最悪のケースでは最高輝度の白が使用されます。(英語字幕では適度に輝度を調整したオフホワイトが使用されるのが一般的です。)
    • ドルビーシネマは本編映像のダイナミックレンジ、明暗の微妙な描写が特徴で、上映中人間の目はこの映像を観るために暗順応しています。そのような状況で、本編映像の輝度とは無関係に重ねられた巨大で眩いばかりの字幕によって、本編映像の繊細な描写を判別することが極めて困難になります。
  • 字幕の品質
    • デジタルシネマにおける字幕はコンピューターで使用される文字と同様にデジタルデータを画面上に点描することで文字を形成します。
    • 文字を形作る繊細な線を有限画素の点で描画するので、たとえ 4K 解像度でも何も工夫をしなければ、文字を構成する線がギザギザに見えてしまうことがあります。
    • 高品質の映像に低品質の文字が重ねられることで、折角の映像の品質が損なわれることにもなります。

本件、米国のドルビーシネマ担当者にも忠告していたのですが、やはり日本の製作現場にはうまく伝わっていなかったようです。

本来、字幕の問題はユニバーサルなものの筈ですが、米国中心の映画業界では字幕そのものに関する関心が低く、字幕が本編映像に及ぼす悪影響も実感として関心が持たれていないというところに問題の根幹があるようです。

以下実際の体験と結び付けて、今回のドルビーシネマ体験の所感を記します。

国内でのドルビーシネマ体験の所感

まず音声に関してですが、両作品とも Dolby Atmos による上映は素晴らしい臨場感を与えてくれたように感じました。Dolby Atmos 単体での導入劇場も増え、安心して楽しむことができるようになったという印象です。

一方の映像ですが、作品のタイプも異なるのと、字幕の出来具合に大きな差が見られたので、個別に評することにします。

「レディ・プレイヤー1」[IMDb

一本目に観たのがこの作品です。刺激的な原色、強烈な明暗、人工的な特殊映像が多用された作品なので、まさに Dolby Vision のデモ映像としても使えそうな期待通り、予想通りの出来映えの本編映像でした。

巨大な字幕が折角の映像を遮るのは非常に興ざめですが、不幸中の幸いは字幕の色と輝度が純白の最高輝度ではなく、若干輝度が調整されていたようで、何とか映画本編に集中することができました。

2K 相当で 72 ポイントのフォントが使用されていた印象ですが、半分のサイズでも十分と思われます。

フォントには黒のアウトラインが施されていましたが、輪郭の調整が十分ではなく、文字によってはギザギザが見えてしまうものもあり、目障りに感じることもありました。

「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」[IMDb

30分の休憩を挟んで二本目に観たのがこちらの作品です。

文字通り魔法の世界の超現実的な特殊映像が多用されている一方で、夜間に幻想的な街灯り、月明り、魔法の光も多用されており、こちらも Dolby Vision の実力を感じさせる本編映像でした。但し、台詞のないシーンに限ります。

本作も巨大な字幕が折角の映像を遮り、興醒め甚だしかったですが、耐え難いことにこちらの作品では純白で最高輝度の文字が使われていました。

薄暗い幻想的な映像が多用されている作品なので、本編映像の集中していると目は適度に暗順応し、細部にわたり微妙な陰影や光を効果的に感じることができたのですが、ひとつ台詞が発せられる度に眩いばかりの字幕の所為で、暗順応はりせっとされ、美しい映像が台無しにされてしまいました。

正直、返金騒ぎになっても不思議ではなかった状況だと感じています。

実際、この上映の終了後に周囲の観客の声に耳をすませていたところ、「字幕が眩しくなかった?」という声も聞こえてきました。

考えられる要因

このような状態であるにも関わらず、事前の試写で誰も問題を指摘しなかったのか、誰も気付かなかったのか、気付くことができなかったのか、疑わずにはいられませんでした。

このような状態のまま公開に至ってしまうことになった要因を列挙してみたいと思います。

  • 米国では通常字幕上映が行われていないため、製作関係者の中で字幕が本編に及ぼす悪影響が実感として認識されていない。
  • 特に日本語字幕の極端な状況は全く認識されていない。
  • 日本の字幕制作関係者の中で実際の上映時の状況が認識されていない。
  • 日本の興行関係者の中でドルビーシネマの本来の品質が理解されていない。
  • 日本の配給関係者が日本公開時の適切な品質管理をしていない。

実際にはこれらの要因の複数が絡み合いながら悲惨な状況を作り出しているのだと理解すべきでしょう。

これはドルビーシネマの技術的な問題ではなく、上映パッケージ(DCP)の製作、確認プロセスに問題があるということになります。

松竹マルチプレックスシアターズMOVIXさいたまでのオープンも迫っている筈ですが、今後の国内でのドルビーシネマの興行に大きな不安を残す状況だと言えるでしょう。

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直視型上映機器の規格化に向けたDCIの覚書

LEDシネマディスプレイのような直視型上映機器の出現に伴い、これまでプロジェクターのような投射型上映機器を前提としてまとめられていた現行のDCIシステム規格(v1.2)を補完すべく、DCIシステム規格の改訂に向けた覚書が発行されました。

DCI Memorandum Regarding Direct View Displays

既に現行のDCIシステム規格のもとでDCI準拠の認定を受けているSamsung Onyxへの将来的な影響が気になるところですが、これに伴い直視型上映機器に関する業界内の動きが加速されるのは必至でしょう。

最終的に正式なDCIシステム規格として発行されるまで、まだしばらく時間が掛かりそうですが、要件として挙げられた項目は、対応を検討中のメーカー、スタジオ、ポスプロにとって重要なチェックリストとして見逃せません。

直視型上映機器の定義

まず最初に直視型上映機器(“Direct View Display”)とはどのように構成されるのかが定義されています。

  • スクリーン:直視型上映機器として機能するために必要なすべての機構を含むシステム全体を指します。
  • キャビネット:映像を表示する機能を構成するすべての機構を指し、通常複数のモジュールにより構成されます。
  • モジュール:キャビネットの映像表示部分を構成する要素で、通常劇場での修理交換などを行う際の最小単位となり、画素(発光要素)であるピクセルの配列により構成されます。
  • ピクセル:画素として必要な色域の光を発光できる最小の発光要素で、通常、赤、緑、青の3色のLEDにより構成されます。
システム要件草稿

19項目の検討項目がリストされており、まだ草稿ではあるものの、対応を検討する機器メーカーにとっては、製品設計に際して必要な施策を準備する上で、必要最小限の留意すべき項目のリストとなっています。

特に気になる項目としては、HDRへの対応、3Dへの対応、音響要件、セキュリティ要件などが挙げられます。特に音響、セキュリティに関しては従来の投射型上映機器とは基本的な前提が異なるため、機器メーカーは柔軟な発想を持って対応する必要がありそうです。