日本語版 デジタルシネマ名前付け規則 V9.6.1 公開

デジタルシネマの運用にいくつか新しい技術が加わったことにより名前付け規則もISDCF での議論を通じて改訂されてきましたが、そろそろ一旦落ち着いたようなので、日本語版も更新しました。

デジタルシネマの運用にいくつか新しい技術が加わったことにより名前付け規則もISDCF での議論を通じて改訂されてきましたが、そろそろ一旦落ち着いたようなので、日本語版も更新しました。

『日本語版 デジタルシネマ名前付け規則』が初めての方はこちらのリンクからお読みください。すでにご利用中の方はこちらのリンクからご利用ください。

V9.5 からの主な変更点

V9.5 からの主な変更点は、

  • 作品の分類に EPS を追加、並びに CPL メタデータとの対応関係を追加(付録 3
  • 没入型音響形式に関する記述方法の整理(付録 4
  • CPL メタデータの拡張(付録 12

です。

作品の分類に EPS を追加(付録 3

EPS というのは「エピソード」を短縮したものですが、昨今のネットストリーミング系のスタジオの台頭とも相まって、連続テレビドラマのシリーズを上映するという例が出てきています。

主タイトルは同じでも第何シーズンの第何話という形で区別したい場合にこの属性を使用することを想定しています。

ここで注意したいのは、「スター・ウォーズ」や「ワイルド・スピード」の第何作目のような場合にはこの属性を使うのではなく、従来の FTR を使います。

CPL メタデータとの対応関係を追加(付録 3

SMPTE DCP の CPL 中に記述される CPL メタデータとの対応関係がより細かく記載されるようになりました。

但し、マイナーな項目の中には名前付け規則と完全に対応していない項目もあり、SMPTE DCP と Interop DCP が混在する状況では、現場での注意が必要かも知れません。

没入型音響形式に関する記述方法の整理(付録 4

没入型音響方式の SMPTE 技術標準が固まり、市場導入の準備が整いつつありますので、名前付け規則でもその記述方法について、若干の整理が行われました。

日本ではまだ導入劇場も限られていますが、従来の Atmos、DTS-X、Auro の各方式の記述に加えて、新たに標準規格として定めされた SMPTE の IAB (Immersive Audio Bitstream) を表す記述が導入されました。

CPL メタデータの拡張(付録 12

新たに追加された付録ですが、『デジタルシネマ名前付け規則』の表面的には影響を与えるものではありません。

但し、SMPTE DCP を作成しようとする制作者は注意が必要ですし、上映システムを設計するメーカーも対応が必要です。

以上が V9.5 からの主な変更点になります。

ご不明な点などありましたら、お気軽にお問い合わせください。

最後に余談ですが、この日本語訳はオリジナル版の HTML のソースを書き換えているため、オリジナルのウェブ作成ツールに依存したレイアウトを保持しきれず、細かい調整を入れております。読み辛い箇所などありましたら、併せてお問い合わせよりお知らせください。

ドルビーシネマ、MOVIXさいたまにオープン、国内首都圏初

当初、2018年中に日本初導入を目指していた松竹マルチプレックスシアターズでしたが、T-JOY博多に遅れること5ヶ月、首都圏初となるドルビーシネマがついにMOVIXさいたまにオープンしました。

早速体験してきましたので、先行する劇場との比較も交えながらレポートします。

当初、2018年中に日本初導入を目指していた松竹マルチプレックスシアターズでしたが、T-JOY博多に遅れること5ヶ月、首都圏初となるドルビーシネマがついにMOVIXさいたまにオープンしました。

早速体験してきましたので、先行する劇場との比較も交えながらレポートします。

劇場の仕上がり

ドルビーシネマが設置されたのはMOVIXさいたまの元々は11番スクリーンだった場所のようですが、劇場に入る際にまず最初に気付くことがあります。

入り口通路壁面のプロジェクションがない!?

通常ドルビーシネマへの入り口から客席に向かう通路に設けられている壁面へのプロジェクションが、手前の共用通路に設けられており、ドルビーシネマに入る際のワクワク感が殺がれてしまっているのが少し残念です。(非常に細かい点ですが、ドルビーシネマの設計上、極めて珍しい作りです。)

心配しながらも一旦劇場内に入ると、内部は概ね一般的なドルビーシネマの作りになっているようです。

必要十分にゆったりした座席

座席の配置は一階席のみのスタジアム形式で、IMAX よりも緩やかな傾斜に配置されています。

場内に特別席はありませんが、全席簡易リクライニングながら、人工皮革のような素材で、個別に左右の肘掛けが付いているので、隣の人の肘を気にすることなく、程々にゆったりと映画に集中することができるシートだと感じました。

スクリーン、スピーカー、その他、概ね標準的なドルビーシネマの仕様通りか

スクリーンは樹脂コーティングをしたシートを湾曲に設置するドルビーシネマ共通の仕様のようです。

スクリーン横の非常口灯は上映が始まると消灯するので気になりません。国、地域によっては、消防法上、上映中も非常口灯を消せないドルビーシネマもありますので、この点においては、日本では映像に集中することができそうです。

Dolby Atmos 用のスピーカーは特に照明で浮かび上がらせるような細工はなく、目立たないように設置されていました。(照明を点灯していなかっただけなのかも知れません。)

本編上映体験

今回体験したのは正式オープン前日のお披露目上映で、昨年公開された “Avengers: Infinity War” (2D字幕版) を特別料金 1,000 円で観賞しました。

おそらく自分を含めて観客の殆どはこの作品自体は既に観賞済みで、ドルビーシネマで違いを体験しようとしていたようです。

客層としては、20~30代の映画マニア風の姿が多かったのですが、加えて40~50代の業界関係者風の姿も相当数見受けられたように感じました。(あくまでも印象です。)

映像の印象

作品自体の映像の特徴として、夜間や宇宙にきらめく閃光や色とりどりの鮮やかな発色など、Dolby Vision 本来の実力を効果的に駆使した画作りが行われた作品で、ほぼ制作時に意図された通りの映像が再現できていたのだと思います。

一部のドルビーシネマでは感じられる、レーザー光によるスペックル(ギラギラした光のノイズ)は全く感じられませんでした。

また、ラストクレジットなどでは顕著に現れる RGB 映像の色ずれもまったく感じられませんでした。

米国に多数稼働中のドルビーシネマの中には、機材調整や設置状況が悪く、色ずれやレーザースペックルを呈する場所も散見されますが、今回設置直後ということもあり、本来のドルビーシネマの品質が実現されていたと感じました。

今後も定期的なメンテナンスを怠らず、最高の上映品質を提供してもらえることを願っています。

音響の印象

Dolby Atmos の実力はよく承知しており、その効果は発揮されていたのだと思いますが、作品自体のシーンの展開が極めて忙しく、Dolby Atmos 独特の音源の移動を手に取るように感じるようなシーンは殆ど記憶に残りませんでした。

これは良くも悪くも作品と一体化した立体音響が実現されていたのだと解釈したいと思います。

少なくとも上映前の Dolby Atmos デモクリップでは、一般的な Dolby Atmos の効果は再現されていたようです。

字幕の印象

さて、日本でドルビーシネマを楽しむ際に最も気になる点が字幕です。

字幕というのは本来の映像に重ねて表示されるので、使い方を誤ると本来の映像の品質を台無しにすることがあります。

映像の基本品質が高い Dolby Vision を楽しむ際には字幕はないに越したことはありません。

それでも止むを得ず字幕を入れる際には、文字の可読性を確保しながらも、可能な限り本来の映像を損なうことのないように、文字の明るさ、色、大きさなどを適切に調整することが要求されます。

以前に『ファンタスティック・ビースト』 “Fantastic Beasts and Where to Find Them”[IMDb] の日本語字幕版をドルビーシネマで観た際には、暗いシーンでの字幕の所為で本来の美しい映像がぶち壊されていましたが、今回はどうだったのでしょうか。

– 字幕の明るさ

今回の字幕は、ドルビーシネマの最高輝度ではなく、通常の上映と同等レベルの輝度に抑えられているようで、字幕がまぶしいと感じるシーンはさほど多くはありませんでした。

しかし、いくつかのシーンでは、ほぼ真っ暗または完全に真っ暗なシーンでも、他のシーンでの字幕と同じ明るさの字幕がデカデカと表示され、スクリーンからの反射光により館内照明を付けてしまったかと思うほど客席が明るく照らされることもありました。本来真っ暗なシーンであったにも関わらず、です。

– 字幕の大きさ

さらに気になったのが、字幕の不必要なまでの大きさです。

一般に日本語字幕は他言語の字幕と比べて倍程度の大きさの文字が使われますが、文字が大きいということは、その分、光の量も多くなり、本来の映像の品質を更に損なう要因になります。

果たして、現状のような巨大な文字が必要なのか、改めて考え直してもらいたいところです。

– 字幕のギザギザ

一方で、映像の画素サイズによるギザギザが字幕の縁に見られることが多く、マスタリング方法の改善が必要なところです。

まだまだ改善の余地はありそうですが、本来のドルビーシネマの品質を安心して楽しめるように、制作関係者の関心と努力を期待します。

横浜みなとみらい地区にミニシアターオープン

3Dだの、4Dだの、プレミアムスクリーンだの、大掛かりで高価な上映システムが注目されることが多い中、落ち着いて良質な映画を楽しむことができそうな劇場が、4月12日、横浜みなとみらいにオープンしました。

関連情報

キノシネマ/横浜みなとみらい

新しく映画館ができたのは、横浜みなとみらいの居住地区と商業地区が混ざり合うみなとみらい大通りに面した高層マンションの2階です。

1階にはスターバックスとTSUTAYAが入るすぐ上のフロアーです。

このフロアー、以前はTSUTAYAのレンタルショップが入っていましたが、ここを丸ごと改装して、3スクリーンからなる映画館に生まれ変わりました。

客席数

劇場の客席数は111席が2館と55席が1館(いずれも車椅子2席分のスペースあり)からなります。

布製のスクリーン

スクリーン幅は5〜6mとこぢんまりとしていますが、適度に視野をカバーできる大きさなので、ドラマのような落ち着いた作品を観るには十分な没入感が得られるでしょう。

何よりも嬉しいのはスクリーンの素材です。昨今の樹脂製の高輝度のスクリーンとは異なり、繊維製(布地)のスクリーンをフレームに張り付けて固定しているので、柔らかい乱反射による目に優しい自然な映像を楽しむことができます。

この点も落ち着いた没入感を与えるのに一役を買っていると言えるでしょう。

天井設置のプロジェクター

既設の建物の1フロアーの空間を有効利用するための工夫といえると思いますが、上映機材(プロジェクター等)は映写室ではなく天井にスッキリと収納されています。

冷却ファンの音も上映を妨げることのない殆ど気にならないレベルに抑えられています。

必要十分な音響

小さな劇場でありながら、7.1chの音響に対応しているようで、落ち着いて良質な作品を楽しむには十分な音響でしょう。

一応 3D 対応も

果たしてこの劇場に必要なのかは疑問ですが、万が一 3D 作品を上映したい場合にも対応できるように、一応上映システムの対応はできているようです。

ただし、通常の 2D 上映の画質を損なう偏光方式ではなく、液晶シャッター方式のXpanD(エクスパンド)社製のシステムが導入されているようです。

上映作品

一番気になる上映作品のラインナップですが、所謂アートシアター系の作品を多数取り揃えているようです。

巷には、大スクリーン、高コントラスト映像、立体音響で楽しみたい作品もありますが、このような場所の方が落ち着いて観賞できる良質な作品も沢山あります。

今後の上映予定をみても、大手シネコンではあまり観る機会のない作品を続々と準備してくれているようなので、個人的にも観客として応援していきたい映画館になりそうです。

CinemaCon 2019 (4/1-4)

今年も恒例のシネマ業界最大のトレードショー CinemaCon に参加してきました。昨年の報告に続いて、今年も気になった話題を並べてみます。

先行き不透明な各種プレミアム上映方式

多種多様な特殊上映方式が乱立する状況は依然として混迷を深めており、導入を検討する劇場主 “theatre-owners” にとっても、一般の映画愛好家 “moviegoers” にとっても、分かりにくい状況が続きそうです。

画面の大きさだけが重要なのか、解像度は要らないのか、明るければ良いのか、暗さは重要ではないのか、画面が三面あると嬉しいのか、本当に 3D が必要なのか、座席が揺れて映像を楽しめるのか、どんな音響が欲しいのか、上映中にどんなものを食べたいのか、映画館なのかアミューズメントパークなのか、そもそも『普通の上映』と比べてどのように価値が高い(或いは低い)のか、改めて問い質したくなることが沢山あります。

新規導入や設備更新を検討中の劇場様には、是非とも上質な映画体験を提供するにはどの方式が適しているのか、慎重に検討して頂けることを願うばかりです。

レーザー化:RGB、蛍光励起、レトロフィット

業界全体としてプロジェクター光源のレーザー化の流れに変わりはありませんが、RGB方式、蛍光励起方式、そしてランププロジェクターの光源変更(レトロフィット)という選択肢が横並びとなっています。

各方式とも一長一短があり、唯一ベストという方式はなく、劇場毎の置かれた状況に応じて適切な選択が求められる状況といえます。

シネマ LED ディスプレイ:Samsung vs. Sony

昨年はメインブースでミニシアターを作ってお披露目をした Samsung Onyx でしたが、既に世界各地で商業上映に使用されていることもあり、今年はメインブースでは専ら個別商談に勤しんでいるようでした。

一方の Sony Crystal LED は昨年 DCI 認証を取得したものの、特に展示も説明もなく、今後の展開について不安を感じさせました。

両者ともそれぞれに技術課題が山積している状況は共通していますが、その取り組み方には大きな隔たりがあることも感じることができました。

スタジオ動向:消えた Fox

一昨年に Disney による映画テレビ部門買収の話が公になって以来、いつかこの日が来ることは予想していましたが、ついにこの3月手続きが完了し、CinemaCon のスポンサーからも名前が消えてしまいました。ハリウッド6大メジャーの一角として長らくその名を連ねてきた Fox でしたが、デジタルシネマの技術要求を取りまとめる DCI (Digital Cinema Initiative) からもその名が消えてしまいました。

例年お楽しみのスタジオ各社の新作紹介のイベントですが、ハリウッドメジャー『5社』の中では唯一 Sony Pictures のイベントが無かった一方で、Lionsgate、NEON、Amazon Studios がそれぞれ新作本編の上映会を催し、意気込みの強さを感じさせてくれました。

劇場向けにも一部作品の提供を始めた Netflix ですが、まだ CinemaCon とは微妙な距離を保ちながら気配をうかがっているようにも見えます。

おまけ:Dolby Cinema による新作上映

今回、ホテル内の劇場に設置した仮設の上映設備であったにも関わらず、Dolby Cinema 相当の上映環境が作り込まれ、実際に数作品の新作本編は贅沢にも Dolby Atmos+Vision でマスターされた DCP で上映されました。

こちらには記載できなかった話題もありますので、ご興味のある方はこちらより個別にお問い合わせください。

ソニーデジタルシネマ・プレミアムラージフォーマット、続報:一号館、ラスベガスにオープン

さて、2月にご報告したように、ソニーデジタルシネマ・プレミアムラージフォーマット “Sony Digital Cinema Premium Large-format” の一号館が4月5日、ラスベガス市内のショッピングモール Boulevard Mall [GoogleMaps] にオープンしました。

劇場オープン初日(CinemaCon 2019 最終日の翌日)、商業上映第一回目の上映(”Shazam!”[IMDb] )を体験することができました。

Galaxy Theatres at Las Vegas Boulevard Mall, Nevada

今回導入先となったのは、米国西部5州に展開する中小規模の劇場チェーン “Galaxy Theatres” がラスベガス市内のショッピングモールに新規にオープンした9スクリーンのシネマコンプレックスです。

以下、写真のスライドショーでご覧ください。

以上の通り、上映システムの構成は概ね前回の分析通りだったので、あまり付け加えることはありません。

様々な可能性を秘めた上映システムであると同時に、多くの課題を抱えた上映システムでもあるので、ソニーが今後シネマ業界に対してどのような動きをみせてくれるのか、大いに気になるところでもあります。

IMAX や Dolby Cinema の対抗馬になる?

残念ながら、現時点では IMAX や Dolby Cinema のように上映システムの特性を引き出すための DCP が提供される訳ではないということです。

すなわち、音響に関しては Dolby Atmos の立体音響を楽しむことができますが、映像に関しては一般上映と同じ DCP が使用されるので、リクライニングシートで大画面を楽しむ。現時点でそれ以上の期待はしない方が良いかも知れません。

そもそもブランド名は?

事前の発表では “Sony Digital Cinema Premium Large-format” という長い呼び名が使われていましたが、結局劇場には “Sony Digital Cinema” というサインしか見当たりませんでした。

これならこれでシンプルで良いと思いますが、そうすると従来のソニー製の上映システムとはどのように区別して呼ぶのか、判然としません。

(”IMAX” がその名のもとに優劣品質の異なる様々な上映システムを展開しているのにも似ています。)

この辺り曖昧にせずに是非とも明確な定義とわかりやすいブランディングを期待したいところです。

上映システムに関するコメントはこのくらいにして、実際の上映を体験した感想を綴ってみます。

Shazam! / 3D の観賞体験

期待のこけら落としの上映品目は “Shazam!”[IMDb] だったのですが、上映スケジュールの関係で、残念なことに 3D 上映を観ることになってしまいました。

折角なので 3D 方式に関して注記しておきましょう。この上映システムでは波長フィルターを使用する Dolby 3D 方式ではなく、円偏光フィルターを使用する RealD 方式が採用されています。

Dolby 方式よりもメガネが軽く、自分のメガネの上にも掛けやすいのは良いですが、それでもやはりレンズと顔の間の散乱光による不快感は禁じ得ないものでした。

折角の 4K 解像度で高コントラストの上映システムですが、2K/3D の品質しか楽しむことができなかったのはとても残念でした。

この上映システムの真価を発揮するには多くの課題が山積していることを実感して劇場を後にすることになってしまいました。

家庭用テレビの映像品質についての議論 – 2019 HPA Tech Retreat

家庭で映像コンテンツを楽しむ環境は年々高品質化していますが、どのようなスペックをどこまで高品質化すべきなのか、業界内でも議論が絶えず、まだまだ収束する気配がないようです。シネマにも共通する課題はある一方で、やはり家庭でシネマを超える体験を実現するのは難しいことを再認識できる議論となっていたようです。

この記事では HPA Tech Retreat から気になる議論を取り上げて紹介します。今年は参加できなかったのですが、メデイア記事から予想通りとも言える現状を垣間見ることができるようです。

議論に参加したのは、国際映画撮影監督協会、UHDアライアンス、ネットフリックス、ソニーの面々で、映像を作る立場、記録する立場、配信する立場、表示する立場の各組織、各会社の考えが述べられたようです。

昨今の製作環境の技術の進歩により、リーズナブルなコストや時間で製作者の意図を反映できるレベルに到達しましたが、家庭に配信する際にはどのようなスペックを実現すべきなのか、まだまだ迷いがあるようです。

画の再現性 〜 色合い、コントラスト、輝度

課題のひとつは画の再現性をどのように実現できるのか。家庭用のテレビではメーカー毎に色合い、コントラスト、輝度設定がバラバラで、画を『作る側のこだわり』と『観る側の好みと環境』をどのようにマッチさせることができるのか、現実的な解決策はまだなさそうです。

フレームレートの不整合

もう一つの課題はフレームレート不整合の問題。一般的に映画は毎秒24フレームで製作されます。文字通り1フレーム毎にこだわりを持って作られています。

しかし、家庭用のテレビでは多くの場合、何らかの形でフレームレートの変換が行われ、実際には存在しない製作者が意図しない画像が表示され、多くの場合、製作者には受け入れ難い違和感のある映像が表示されてしまいます。

家庭とシネマ

家庭での再生機器と視聴環境を揃えることは現実的に非常に困難なので、これらの課題はまだまだ先に持ち越されることになるでしょう。

シネマでは DCI の規定に従うすべての映画館で、一定品質の映像が再現できることになっています。

その一方で、昨今の PLF ブームにより特殊な上映方式が広まることにより、『一定品質』の考え方が成り立たなくなり、再び市場に混乱を呼び込む危険性もはらんでいることを警戒すべきかも知れません。

ソニーデジタルシネマ・プレミアムラージフォーマット、発表

ここ数年、シネマ事業のビジネス展開については息を潜めていたソニーから、ついに独自ブランドとしてのプレミアムラージフォーマット (PLF) を今春投入するという発表がありました。技術内容についてはこれまでの製品で明らかにされている以上のものはなさそうですが、今週公開された情報をもとに既存の PLF と比較してみましょう。

参考情報
『プレミアムラージフォーマット』/ Premium Large-format (PLF)、とは?

数年前からよく耳にする呼び方ですが、技術的に明確な定義がある訳ではありません。馴染みのない方のために、簡単に説明します。

その名前から、一般的な上映と比べて大きなスクリーンで上映されることは容易に想像できると思いますが、単に大人数を収容できる劇場を指すだけではなく、通常の上映システムよりも高水準(広視野、高解像度、高コントラストなど)の映像体験を可能にすることを目指した上映方式、スクリーンを指します。

このように説明すると、まず最初に IMAX を思い浮かべるかも知れません。実際、数年前までは IMAX が PLF の代名詞でしたが、Dolby Cinema の登場や、それ以外にも各種競合する方式が登場したため、これらを総称して『プレミアムラージフォーマット』 “Premium Large-format (PLF)” と呼ばれるようになりました。

以下では、IMAX (with laser)と Dolby Cinema を比較の対象として念頭に置きながら、Sony Digital Cinema の Premium Large-format の特徴をまとめてみたいと思います。

『ソニーデジタルシネマ』の『プレミアムラージフォーマット』とは?

当初、IMAX with laser(レーザーIMAX)や Dolby Cinema に対抗すべく、新たな上映システムが秘密裏に開発されてきたのかと思ったのですが、ちょっと違ったようです。

ソニーから発表されたセールス記事を読む限りは、あくまでもこれまでに発表された製品とそこに導入されてきた機能、特徴を組み合わせて、 “Sony Digital Cinema Premium Large-format” というブランド(最終的な正式ブランド名は不明)にまとめ上げて、改めてマーケティングの俎上に載せるべく再定義した、というのが実際のところのようです。(繰り返しますが、少なくとも現時点のセールス発表を読む限りでは “秘密兵器のサプライズ” はないようです。)

では、その理解の基に、この春どんな劇場がオープンするのか、IMAX with laser、Dolby Cinema との比較表の形でまとめてみます。(以下、Sony Digital Cinema に関するデータは現時点の発表、報道から判断したものなので、最終的に大幅に異なる結果になり得ることをご了承ください。)

IMAX with laserDolby CinemaSony Digital Cinema
解像度拡張 4K(2台の4K投影の独自処理により擬似的に高解像化)4K (DCP次第)4K (DCP次第)
画角
4096 x 2180 の映像領域を製作者の意図によりシーン毎に自由に使い分けて作成される
主にシネスコサイズ(4Kの場合4096 x 1716, 2Kの場合2048 x 858, DCP次第)—(DCP次第)
最高輝度 (2D上映時)
データ非公開。(IMAX Digitalと同等(22 FtL)以上と思われる)
31 FtL(通常上映の約2.2倍)データ非公開。(通常上映の2倍は目指している筈)
コントラスト(参考値)
データ非公開。(2500:1以上)公称 1000000:1 データ非公開。(公称8000:1のシステムと思われる)
光源6 波長 RGB レーザー6 波長 RGB レーザー青色レーザー+蛍光励起
色域DCI P3 / WCG(Rec.2020) にも対応DCI P3 / WCG(Rec.2020) にも対応DCI P3
プロジェクター数
2台2台おそらく2台
音響IMAX 12chDolby Atmos
Dolby Atmos
DCP独自拡張版 Interop DCP(IMAX 独自規格に基づく高輝度/高解像度マスタリング)

SMPTE DCP(Dolby Vision 独自規格に基づくHDRマスタリング)

通常 DCP(将来的にHDR DCPへの対応も模索中)
劇場デザインIMAX ブランド独自の基準でスクリーンだけでなく、壁/床/天井などの色、材質の基準に従って施工しなければならない。(例外あり)Dolby Cinemaブランド独自の基準でスクリーンだけでなく、壁/床/天井などの色、材質の基準に従って施工しなければならない。(例外あり)Sony Digital Cinema ブランドとしての規定が定められると予想される。(詳細不明)

ソニーからの発表記事メディア報道を併せて読み解くと、概ねソニーの現行最新のプロジェクションシステム SRX-R815-DS をベースに、音響方式としては既に対応済みの Dolby Atmos を組み合わせた上映システムとなる模様です。

これにより、Dolby Cinema に迫る高品質な上映体験を、おそらく Dolby Cinema よりもかなりリーズナブルな予算で実現できるようになるものと思われます。

この構成であれば昨年の時点で既に製品として完成されていたことになりますが、PLF の新ブランドとして打ち出すことで、販売の活性化を狙ったということなのかも知れません。

とはいえ、現時点ではまだ不明確な点も多いので、引き続き注視し、追加情報、修正情報があれば、随時更新していきたいと思います。

いつどこで?

世界初の “Sony Digital Cinema Premium Large-format” の劇場は、この春、ラスベガスのブルバードモール[GoogleMaps]にオープンする予定です。

導入先のギャラクシーシアターズ “Galaxy Theatres” は米国西部5州に展開する中小規模の劇場チェーンのようです。

4月1日からシネマ業界最大のトレードショーであるシネマコン (CinemaCon) がラスベガスで開催されますが、このタイミングに合わせてこけら落としができるように鋭意準備を進めているようで、非常に楽しみですね。

アクシデントに見舞われなければ、実際に体験して来ることができる筈なので、改めてレポートできればと思います。

ただ、当面は米国を中心に展開するようで、日本で楽しめるようになるにはまだしばらくかかりそうです。

シネマテクノロジー、ゆく年くる年 (2018)

2018年に起きたシネマ技術を取り巻く記憶に残る出来事を振り返りながら、2019年に予想される出来事を占ってみたいと思います。思い付くまま順不同で列挙してみましょう。

LED シネマディスプレイの登場

2017年から予告されていた Samsung の LED シネマディスプレイがついに今年正式な製品として登場しました。

大型の LED ディスプレイといえば、かねてから街頭ディスプレイで目にするような製品は出回っていましたが、劇場での映画上映の使用に耐えるような品質、機能、性能を備えたものはありませんでした。

Samsung Onyx Cinema LED は現時点で映画館で一般興行を行うために必要な品質、機能、性能を規定する DCI 認証 (CTP1.2) を取得し、まだ試験的ではあるものの、世界各地の映画館で一般興行を行いながら、上映機器として必要な実績を積み重ねてきました。

併せて、画面サイズの異なる二つのモデル(幅約10mと14m)を発売することで、対応可能な劇場サイズも広げました。

さらに昨今話題の音響方式 Immersive Audio の一方式である DTS-X にも対応したことで、来年は劇場上映システムとして、映像、音声を含めた総合的な市場評価が進むことになるでしょう。

一方で LED ディスプレイの本来の特性である HDR 性能を活かした映像制作とブランディングについては、業界内での働き掛けはみられるものの、更なる努力と工夫が必要な段階といえるでしょう。2019年中には、現状唯一の HDR シネマとして先行する Dolby Cinema に対抗できるような、具体的な展開がみられることを期待したいところです。

Samsung に遅れを取っている Sony も、今年後半に入って Samsung と同じ DCI 認証の取得を達成しましたが、まだ市場の動向を探っているのか、一般興行に使用される段階には至っていないようです。

Sony 製 LED シネマディスプレイ (Crystal LED) は Samsung Onyx と比べて画素間隔が狭いのが特徴で、4K 解像度でも幅約 5m で、より小さな画面に高精細の映像を表示したいという劇場に対象が絞られるので、同じ程度の大きさの劇場においては Samsung 製品との競合は避けられるでしょう。

Sony Crystal LED も製品性能としては現状の上映規格をはるかに上回るものを持っているのは事実なので、後はこの性能を活かした映像制作のプロセスを確立し、高品位上映方式のブランドとして、どのように業界内に浸透させられるかに掛かってくるでしょう。

ドルビーシネマ日本上陸

11月に待望の日本(九州)上陸を果たしてくれたドルビーシネマですが、2019年のゴールデンウィーク頃には当初の計画から遅れながらも首都圏(埼玉)への進出が予定されており、その後年内には都心でのオープンも実現する見通しです。

現時点で唯一世界規模で HDR 上映による映画興行が行われているドルビーシネマですが、 これまで随所で指摘してきたように、残念ながら字幕を必要とする日本での上映においては、本来の高品位な HDR の映像体験を楽しむことができるとはいえない状況です。

その要因として、1.ドルビーシネマ対応作品の製作者に日本での上映品質があまり注視されていない、2.日本国内でドルビーシネマの上映品質を管理する体制が整っていない、3.日本国内の観客にとって本来のドルビーシネマの品質がよく理解されていない、などが考えられます。

2019年、首都圏に登場する頃にはこれらの状況が改善されることを願うばかりです。

プレミアムスクリーンの乱立

今年に始まったことではありませんが、所謂プレミアムスクリーンが乱立される状況に、一映画ファンとして懸念を持ち続けています。

臨場感あふれる立体音響を楽しみたい、視界を覆い尽くす大画面の映像を観たい、より高品位な映像音声を楽しみたい、映像音声に合わせて振動や風や水飛沫も体験したい、後ろから蹴られる心配のない大きい座席に座りたい、映画を観ながらゆったり食事を楽しみたい、なんとなくプレミアムな優越感を味わいたい、などなど、プレミアム上映として追加料金のもとに提供される内容には様々なものがあります。

映画館でどのような体験を期待するのか、観客一人ひとりによって様々なので、一概にどの方式、どのブランドが良いか悪いかをランク付けする意図はありませんが、通常スクリーンと比べてどのような付加価値を提供してくれるのか、もう少しわかり易い表示、説明をお願いしたいと感じています。

個々の方式が実際の映画製作者の制作意図 (Artistic Intent) に沿ったものなのかという点についても気になるところでもあり、この辺り機会を改めて解説できればと思います。

Netflixの台頭

日本ではあまり大きく報じられることはありませんが、映画製作会社としての Netflix の躍進はここ数年めざましいものがあります。独自スタジオの設立や業界各社からの人材獲得なども凄まじい勢いで行われてきたようです。

これまで Netflix は自社のネット配信に特化した映画製作を行い、公式には劇場への映画配給に関心を示してきませんでしたが、そんな中でも昨年は中堅劇場チェーンの取得に興味を示すなど、業界内であらゆる可能性を模索しながら動き続けているようです。

ネット配信で競合する Amazon は既にネット配信と劇場配信の両方にまたがってビジネスを展開していますが、両者の力関係や旧来の映画会社との関係も目が離せない状況が続きそうです。

DCP 配信の電子化

デジタルシネマの時代に入り、上映作品の劇場への配送はフィルム缶からハードディスク (HDD) の形に変わりました。日本ではまだこの時代が続いていますが、世界では既に次の段階に進んでいる地域もあります。

最も進んでいるのは北米地域で、既に2010年頃から衛星データ配信のテストが始まり、現在主流は HDD 配送から衛星によるデータ配信に切り替わっており、HDD を配送するのは衛星受信設備のない小規模の劇場や非常時のみという運用になっています。

一方、一部の新興地域では、宅配事情よりも高速インターネットの普及の方が進んでいる地域もあり、そのような地域ではデジタルシネマ化と同時に劇場へのネット配信が導入されるケースも増えているようです。

日本では高速インターネットが先進国の中でも普及している筈ですが、同時に安全安価な宅配環境も整っているため、旧来の HDD 配送のまま変化が進まない様子です。

地球環境への負荷の側面から考えても、物理配送よりも電子配送の方が地球に優しい方法であることは疑う余地はありませんので、是非ともこの方向への動きが進むことを期待しています。

SMPTE DCP への移行

現在日本国内で流通している DCP は一部の特殊上映を除き、Interop DCP というフォーマットでパッケージされています。このフォーマットはデジタルシネマ黎明期の 2005年頃に業界有志によって作られ、3D 対応など機能拡張が行われながら今日まで使われています。

一方、2007年には標準規格である SMPTE DCP というフォーマットが規格化され、米国において直ちに市場導入の検討が始まりましたが、劇場機材の対応など現実とのギャップを埋めるのに年月を要し、実際に商業上映で導入されたのは 2015年のことでした。

その後、北米地域では着実に実績と改良を重ねながら導入作品を増やしており、2017年頃からは欧州一部地域でも導入が進んでいます。

日本市場に対しても導入の検討が行われましたが、日本独自の特殊事情(日本語字幕対応)により、現在のところ導入計画は未定となっています。

上映機材の新規導入や更新を検討する劇場様は、将来の SMPTE DCP への対応保証など、機材メーカーとの十分な確認をとっておくのが安心でしょう。

SMPTE DCP と Interop DCP にまつわる背景については、2019年に改めて記事をまとめたいと思います。

番外:アバター続編

2009年の『アバター』 “Avatar” 公開の後、毎年話題の陰に出ては消える『続編』ですが、残念ながら(?) 2019年も観れないようです。

主な原因は、制作技術にあるのではなく、現状の上映技術が製作者の要求に満たないというところにあるようです。

前作では初の本格的 3D 超大作として話題になりましたが、新技術にこだわりを持つジェームズ・キャメロンの要望により、続編では 3D に加えて『ある技術』を掛け合わせて上映したいということです。しかし残念ながら現状の上映機材ではその要望を満たすことができないので、その上映が可能になるまで公開しないという方針のようです。

現在のところ公開予定は2020年となっています。

幸いその要素技術はあるメーカーによって開発され、製品化は進んでいるようですが、実際に2020年にその機材を導入できる映画館は何スクリーンできるでしょうか?

大半の劇場では、特殊上映対応ではなく、通常の 2D または 3D 上映として上映されることになりそうです。

以上、年の瀬、思いつくままに記しましたが、2019年がより良い『シネマ』体験をできる年になることを願いながら、まとめとさせて頂きます。

IMAX vs. ドルビーシネマ

日本でもプレミアムスクリーンの選択肢が出てきましたので、その両雄として挙げられる IMAX とドルビーシネマを比較してみましょう。

IMAX

IMAX について語る際には少しその歴史を振り返る必要があるでしょう。

フィルム IMAX

『IMAX』 というブランドの歴史はフィルム上映時代にさかのぼります。35mm フィルム(画像領域 21.95mm×18.6mm)による映画上映が一般的だった 1970 年代に、画像領域 70mm×48.5mm という大判フィルムを使用して、視野を殆ど覆いつくす程の巨大スクリーンに、圧倒的な臨場感の映像を一台のプロジェクターで映し出すことに成功し、博物館などに大自然パノラマ映像を提供し話題になりました。

巨大スクリーンの上映方式としては、複数のプロジェクターで映像を映し出す『シネラマ方式』が当時既に商業映画の興行に使用されており、日本にも数カ所導入されていました。この方式は今から振り返っても、現在のデジタルシネマとは比べ物にならないくらい圧倒的な映像体験を与えてくれるものでした。しかし、制作、上映ともに大掛かりなシステムと作業が必要だったため、商業映画の興行を継続することが難しく、上映館が爆発的に増えることなく消え去ってしまいました。

このような背景の中で、シネラマ方式と比べると幾分洗練された上映システムであった IMAX も、商業映画の上映館に広く普及することはありませんでしたが、フィルム IMAX の誕生から時を隔てること30年以上、デジタルシネマの登場でこのような状況が一転することになりました。

デジタル IMAX – “Digital IMAX”

普及がはじまったばかりのデジタルシネマシステムに独自の改良を加えて、フィルムの IMAX とはまったく異なる品質の『デジタル IMAX』を作り出しました。一般的なデジタルシネマよりも高輝度、高解像度、大スクリーンの上映をアピールすることで、2008年頃から急速に人気を拡大することに成功しました。

フィルム IMAX と比べると制作、上映とも手軽にできるようになったのは良かったのですが、フィルム IMAX の圧倒的な体験を記憶している身としては、デジタル IMAX の映像はその品質において子供騙しの安っぽいものになってしまったことは決して無視できるものではなく、甚だ残念でなりません。

一般的にデジタル技術は生活のいろいろな場面を一変させてくれますが、必ずしも洗練されたアナログ技術の品質・性能を凌駕するとは限りません。デジタル IMAX もその一例だといって良いでしょう。

現在、日本で広く普及している IMAX はこの世代のシステムですが、レーザープロジェクターの登場により、また新たな展開がありました。

レーザー IMAX – “IMAX with Laser”

4K 解像度のレーザープロジェクターを使用して開発されたのが『レーザー IMAX』です。

4K 解像度の RGB レーザープロジェクター 2 台で構成されるレーザー IMAX による映像は、現行のデジタル IMAX と比べると繊細な映像表現か可能になっていますが、それでもかつてのフィルム IMAX を超える映像を実現しているとはいえません。

加えてこのシステムは日本にはまだ数館しか導入されておらず、この最新システムによる上映を体験する機会はなかなか得られない状況です。

独自規格に対する苦言

新技術の登場に伴い新しい製品を作ってくれること自体は利用者にとって大変嬉しいことですが、『IMAX』というブランド名の下にまったく異なる品質の製品が利用者に明快な説明もなく乱立するのはとても不親切という印象を受けます。利用者がどんな品質に対して追加料金を払っているのかがもう少し分かりやすくなるような宣伝、広告、説明を期待したいものです。

ここで紹介した3種類の IMAX の総合的な品質をランク付けすると、『フィルムIMAX』>>『レーザーIMAX』>『デジタルIMAX』ということになります。

ドルビーシネマ

Dolby Atmos

一方のドルビーは、デジタルシネマの時代に入ってもしばらくは映像による差別化には手を出さず、ドルビー本来のお家芸とも言える独自音響システムの構築を先行させました。これが Dolby Atmos ですが、2012年頃から特殊音響システムを取り入れたプレミアムスクリーンに導入がはじまり、日本でも既に全国各地で体験できるようになりました。

Dolby Vision

その後、RGB レーザープロジェクターの出現に合わせて、通常のデジタルシネマシステムやデジタル IMAX とは一線を画し、高輝度、高解像度、高コントラスト、広色域を有する新次元の映写システムを Dolby Vision として作り上げました。

これを Dolby Atmos と組み合わせて、Dolby Cinema という名の下に、新しいプレミアムスクリーンのブランドを作りました。現状唯一の本格的 HDR シネマシステムのブランドとして、2015年頃から米国を皮切りに少しずつ導入館を増やし、現在全世界で数百館、そして今月日本にも最初の一館に導入されました。

Ultra HD Blu-ray との違い

Dolby Vision といえば家庭用の Blu-ray にもこのフォーマットをサポートする作品が現れてきましたが、映画館用と家庭用では制作時の条件は共通化されていても、最終的なパッケージに記録されているフォーマットは異なっており、また家庭用では再生時の機器、環境もまったく異なるため、ドルビーシネマでの体験とはまったく別物と考えるべきです。

デジタル IMAX とドルビーシネマの比較表

以上を踏まえて両者の様子を比較表の形にまとめてみました。

レーザー IMAX とデジタル IMAX は一般の劇場利用者にとって区別しにくいので、上位方式のレーザー IMAX ではなく、普及タイプのデジタル IMAX との比較としました。

観客として利用する際、また劇場に導入を検討する際、ブランドロゴの格好良さだけでなく、上映体験にどんな違いがあるのかを理解し、追加料金を支払う際の参考になればと思います。

デジタル IMAXドルビーシネマ通常(DCI 規格)のデジタルシネマ
解像度拡張 2K(2台の2K投影を独自処理でずらして重ねることで実効的な解像度を高めている)4K または 2K(作品の制作次第)2K (一部システム/作品では 4K)
視界カバー度◎(床から天井まで、左右の壁から壁まで)○(IMAX をひと回り小さくした程度)△(家庭でのテレビ程度)
単位視野角当たりの解像度
△(2K画像を視野一杯に拡大するので画素のギザギザが見えることもある)
○(4K画像の場合は◎)
○(4K画像の場合は◎)
最高輝度 (2D上映時)22 FtL(通常上映の約1.5倍)31 FtL(通常上映の約2.2倍)14 FtL
コントラスト2500:1 以下1000000:1 (最高輝度に対する黒の深さが特徴)通常作品の上映でも 7500:12000:1以下
光源キセノンランプ6 波長 RGB レーザー各種
色域DCI P3DCI P3 (システムとしては WCG(Rec.2020) にも対応)DCI P3
プロジェクター数2 台基本的に 2 台(2D専用であれば 1 台でも可)基本的に 1 台
3D 方式左右直角の直線偏光の左右分離(頭の角度次第でクロストーク発生)Dolby 3D 方式 (薄膜干渉フィルターによる左右 RGB 6 波長の分離:クロストーク殆どなし)各種
スクリーン表面加工偏光保存高輝度樹脂加工スクリーン(座席位置やスクリーン位置による輝度ムラあり)高輝度樹脂加工スクリーン(座席位置による違いが少ない)各種
音響IMAX 12ch 他各種Dolby Atmos5.1 / 7.1、他各種
DCP独自拡張版 Interop DCP(IMAX 独自規格に基づく高輝度/高解像度マスタリング)SMPTE DCP(Dolby Vision 独自規格に基づくHDRマスタリング)Interop DCP / SMPTE DCP(デジタルシネマ標準のマスタリング)
字幕方式CineCanvas 方式 または 焼き込み
焼き込み または SMPTE 方式各種
字幕の見え方×××(文字の輪郭がギザギザになって目立つことが頻繁にある / 明るく巨大な文字が映像の階調を損なう)××(文字の輪郭がギザギザに見えることがにある / 明るく大きな文字が高品位映像の階調を損なう)×(文字の輪郭がギザギザに見えることがにある / 明るく大きな文字が映像の階調を損なう)

実際の体験をどう感じるか、視覚と聴覚それぞれが上映体験に及ぼす影響には大きな個人差があり、また上映作品の仕上がり具合いによっても大きく異なりますので、ここでどちらが良いかを判定するのは避けますが、システム性能上明白な違い(優劣)があることは何となくはお分り頂けるでしょうか。

共通の課題:字幕

これまで各所で問題を指摘してきたように、プレミアムスクリーンほど高輝度で巨大な字幕が本編映像に及ぼす悪影響の程度が大きくなります。

IMAX とドルビーシネマに共通するのは、通常のデジタルシネマと比べて高輝度、高コントラスト、高解像度の映像体験を提供する点です。

それとも高輝度、巨大文字の字幕体験を期待して追加料金を支払うという観客がいるのでしょうか?

本来の映像に重ねて描画される字幕には、文字としての可読性を提供することと併せて、極力本来の映像品質を汚さない工夫と努力が期待されますが、今日の日本語字幕を見る限り、そのような工夫や努力は感じられず、折角の高品質な映像体験を台無しにする場面が多いのが残念でなりません。

米国の劇場で字幕のない上映を体験すると、確かにその追加料金に納得できるレベルの品質の高さを感じることができますが、日本国内のプレミアムスクリーンの多くはその価値を満足に提供できていないのが実情といえます。

これは上映システムや配給フォーマットの問題ではなく、字幕制作プロセスを改善することで明日にでも改善できる問題なので、是非とも期待したいところです。

ドルビーシネマ、国内先行初体験 – 後編

米国でのドルビーシネマ体験との本質的な違い:字幕問題

さて、ドルビーシネマを日本で導入するにあたって、以前から懸念していた課題というのは、字幕が本編映像に及ぼす悪影響のことです。

  • 日本語字幕の文字の大きさと明るさ:
    • 日本語の字幕はフィルム時代からの慣習なのか、他国の平均的な字幕と比べると必要以上に巨大な文字が使用されます。(英語字幕の標準的な文字と比べると倍の大きさの文字が使用されています。)
    • さらに悪いことに、本編映像の明るさとは無関係に白が使用されることが多く、最悪のケースでは最高輝度の白が使用されます。(英語字幕では適度に輝度を調整したオフホワイトが使用されるのが一般的です。)
    • ドルビーシネマは本編映像のダイナミックレンジ、明暗の微妙な描写が特徴で、上映中人間の目はこの映像を観るために暗順応しています。そのような状況で、本編映像の輝度とは無関係に重ねられた巨大で眩いばかりの字幕によって、本編映像の繊細な描写を判別することが極めて困難になります。
  • 字幕の品質
    • デジタルシネマにおける字幕はコンピューターで使用される文字と同様にデジタルデータを画面上に点描することで文字を形成します。
    • 文字を形作る繊細な線を有限画素の点で描画するので、たとえ 4K 解像度でも何も工夫をしなければ、文字を構成する線がギザギザに見えてしまうことがあります。
    • 高品質の映像に低品質の文字が重ねられることで、折角の映像の品質が損なわれることにもなります。

本件、米国のドルビーシネマ担当者にも忠告していたのですが、やはり日本の製作現場にはうまく伝わっていなかったようです。

本来、字幕の問題はユニバーサルなものの筈ですが、米国中心の映画業界では字幕そのものに関する関心が低く、字幕が本編映像に及ぼす悪影響も実感として関心が持たれていないというところに問題の根幹があるようです。

以下実際の体験と結び付けて、今回のドルビーシネマ体験の所感を記します。

国内でのドルビーシネマ体験の所感

まず音声に関してですが、両作品とも Dolby Atmos による上映は素晴らしい臨場感を与えてくれたように感じました。Dolby Atmos 単体での導入劇場も増え、安心して楽しむことができるようになったという印象です。

一方の映像ですが、作品のタイプも異なるのと、字幕の出来具合に大きな差が見られたので、個別に評することにします。

「レディ・プレイヤー1」[IMDb

一本目に観たのがこの作品です。刺激的な原色、強烈な明暗、人工的な特殊映像が多用された作品なので、まさに Dolby Vision のデモ映像としても使えそうな期待通り、予想通りの出来映えの本編映像でした。

巨大な字幕が折角の映像を遮るのは非常に興ざめですが、不幸中の幸いは字幕の色と輝度が純白の最高輝度ではなく、若干輝度が調整されていたようで、何とか映画本編に集中することができました。

2K 相当で 72 ポイントのフォントが使用されていた印象ですが、半分のサイズでも十分と思われます。

フォントには黒のアウトラインが施されていましたが、輪郭の調整が十分ではなく、文字によってはギザギザが見えてしまうものもあり、目障りに感じることもありました。

「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」[IMDb

30分の休憩を挟んで二本目に観たのがこちらの作品です。

文字通り魔法の世界の超現実的な特殊映像が多用されている一方で、夜間に幻想的な街灯り、月明り、魔法の光も多用されており、こちらも Dolby Vision の実力を感じさせる本編映像でした。但し、台詞のないシーンに限ります。

本作も巨大な字幕が折角の映像を遮り、興醒め甚だしかったですが、耐え難いことにこちらの作品では純白で最高輝度の文字が使われていました。

薄暗い幻想的な映像が多用されている作品なので、本編映像の集中していると目は適度に暗順応し、細部にわたり微妙な陰影や光を効果的に感じることができたのですが、ひとつ台詞が発せられる度に眩いばかりの字幕の所為で、暗順応はりせっとされ、美しい映像が台無しにされてしまいました。

正直、返金騒ぎになっても不思議ではなかった状況だと感じています。

実際、この上映の終了後に周囲の観客の声に耳をすませていたところ、「字幕が眩しくなかった?」という声も聞こえてきました。

考えられる要因

このような状態であるにも関わらず、事前の試写で誰も問題を指摘しなかったのか、誰も気付かなかったのか、気付くことができなかったのか、疑わずにはいられませんでした。

このような状態のまま公開に至ってしまうことになった要因を列挙してみたいと思います。

  • 米国では通常字幕上映が行われていないため、製作関係者の中で字幕が本編に及ぼす悪影響が実感として認識されていない。
  • 特に日本語字幕の極端な状況は全く認識されていない。
  • 日本の字幕制作関係者の中で実際の上映時の状況が認識されていない。
  • 日本の興行関係者の中でドルビーシネマの本来の品質が理解されていない。
  • 日本の配給関係者が日本公開時の適切な品質管理をしていない。

実際にはこれらの要因の複数が絡み合いながら悲惨な状況を作り出しているのだと理解すべきでしょう。

これはドルビーシネマの技術的な問題ではなく、上映パッケージ(DCP)の製作、確認プロセスに問題があるということになります。

松竹マルチプレックスシアターズMOVIXさいたまでのオープンも迫っている筈ですが、今後の国内でのドルビーシネマの興行に大きな不安を残す状況だと言えるでしょう。

ドルビーシネマ、国内先行初体験 – 前編

11月23日より本格営業を予定しているT-JOY博多のドルビーシネマを先行体験してきました。はたして以前から懸念していた課題は杞憂に終わったのでしょうか?米国でのドルビーシネマの体験と比べて、何処まで上映品質が完成されたものになっているのか、他ではあまり語られない技術的な視点を交えてまとめてみたいと思います。

11月23日より本格営業を予定しているT-JOY博多のドルビーシネマを先行体験してきました。はたして以前から懸念していた課題は杞憂に終わったのでしょうか?

米国でのドルビーシネマの体験と比べて、何処まで上映品質が完成されたものになっているのか、他ではあまり語られない技術的な視点を交えてまとめてみたいと思います。

先行オープン

ドルビーシネマスクリーンの本格営業に先立つ二日間(11/21-22)、関係各社への御披露目上映も兼ねて、以前公開された2作品(「レディ・プレイヤー1」と「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」)が1本1500円という特別価格で上映されました。どちらも標準上映で鑑賞済みだったので、標準上映との違いを感じることに集中して鑑賞してきました。

11月23日からは「ファンタスティックス・ビースト」の新作続編「ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生」がこのドルビーシネマで公開されるので、前作を観ていない観客を呼び込む上でもちょうど良いタイミングだったのかも知れません。

劇場の作り込み

劇場入り口のロゴ表示から、客席に向かう通路の壁画への作品イメージ映像の投影など、概ねドルビーシネマの標準的な作りでした。

スクリーンは湾曲タイプで、劇場前面の壁がほぼ覆われており、IMAX のスクリーンと比べるとスクリーンの周囲に少しマージンがありますが、左右の視野は十分にカバーされる印象です。

天井と側面には Dolby Atmos 用のスピーカーの配列が見られます。

振り返って投影窓には Dolby Cinema の二台のプロジェクターのレンズが見えますが、映写室からの光が漏れて入らないように配慮されていたようです。

座席は全席プレミアム仕様かと思いきや、全席(少しゆったり目ですが)通常シートとなっていたのは意外でした。その分、料金設定は通常上映の500円増しで、米国の Dolby Cinema の料金と比べてもやや抑え目で、敢えて観客に対する敷居を低く設定したようにも感じられます。

ドルビーシネマ用上映作品の準備

ドルビーシネマの特性をフルに引き出した高品質上映を行うためには、劇場のシステムだけでなく、上映する作品もドルビーシネマに対応したパッケージ (DCP) を製作する必要があります。

勿論通常の方法で製作された作品でも、ドルビーシネマで上映することは可能ですが、その場合通常の上映システムで上映するのと基本的に同じ水準の上映体験しか得られず、折角の高価なシステムの性能を十分に活かすことができません。

ドルビーシネマの性能をフルに体験するには、音声は Dolby Atmos、映像は4K HDR の Dolby Vision のフォーマットで作成されたパッケージ(DCP)が必須だと記憶しておくべきでしょう。

今回上映された「レディ・プレイヤー1」[IMDb] と「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」[IMDb] はいずれも公開時に Dolby Atmos+Visionで製作されており、米国他のドルビーシネマで上映されましたが、今回の上映ではそれらに日本語字幕を焼き込んで作り直されたようです。

映画本編の末尾、ラストクレジットの最後の方に、製作フォーマットに関するロゴが表示されることがあります。今回、「レディ・プレイヤー1」では Dolby Atmos+Vision のロゴが入っていたのに対し、「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」の方には入っていませんでした。しかし、実際の映像と音声を体験したところ、両者とも Dolby Atmos+Vision のフォーマットで上映されていたことは間違いなさそうです。

一点、今回の上映で使用された DCP が 4K 版なのか 2K 版なのか気になったのですが、劇場に来られていたドルビーの方によると、両方の作品とも 4K DCP で、字幕は映像への事前焼き込みで作られたものとのことでした。

作品の向き不向き

とはいえ、上述のような対応をすればどんな作品でも最大限にドルビーシネマの体験を得られるという訳でもありません。当然のことながら、作品自体がダイナミック、パノラミックな音声と奥行きや深みのある映像や超自然的な映像を持ち合わせていて初めてドルビーシネマの効果を活かした上映が可能となります。

その観点からいえば今回の御披露目上映では少しタイプの異なる映像を見比べる上でも良い作品が選ばれたと言えるでしょう。

しかしながら、これまでドルビーシネマ用のフォーマットで製作された作品はまだ大半がハリウッド系の娯楽大作に限られています。

導入を検討する劇場としては、常にドルビーシネマを活用できるような作品を上映し続けて、集客効果につなげることができるのかという点は、事前によく検討しておく必要があるでしょう。

米国でのドルビーシネマ体験との本質的な違い

さて、では単に米国のドルビーシネマで成功した作品に日本語字幕を付けるだけで、日本でも米国での上映と同じような体験が得られるかというと、そう単純なものではなさそうです。

結論を言ってしまうと、今回の上映体験で明らかになったのは、以前から懸念していた課題について、今後真剣に検討、解決しなければ、米国でのドルビーシネマ体験と同等の品質を提供することはできない状況だということです。

この点を含めて、今回の上映体験については後編(要会員登録)にて解説したいと思います。

クリスティー “一体型” RGB レーザー シネマプロジェクター DCI 認証取得

RGB レーザー方式によるシネマプロジェクターで業界をリードしてきたクリスティーですが、初の一体型となるモデル (CP2315-RGB) で DCI 認証を取得しました。

RGB レーザー方式によるシネマプロジェクターで業界をリードしてきたクリスティーですが、初の一体型となるモデル (CP2315-RGB) で DCI 認証を取得しました。

DCI の発表によると、何を勘違いしたのか “CP2315-RGB Digital Cinema Display with Media Block” と書かれているのですが、この機種は昨今話題の直視型シネマディスプレイではなく、RGB レーザー光源による投影型のシネマプロジェクターです。

投影用の光源として半導体レーザーを使用したシネマプロジェクターが本格的に市場に出回りはじめて三年余りが経ちました。

これまでの製品ではプロジェクター本体の周りに巨大な冷却装置がまとわり付いてくるのが悩みのタネでしたが、この製品ではプロジェクター本体の筐体にスッキリ収めるという画期的な設計を実現したそうです。これで導入を検討する劇場にとっては大きな懸念材料がひとつ払拭されることになるでしょう。

今回 DCI 認証を受けたのは 2K 解像度、13,500 ルーメンという比較的小さいモデルですが、近日中には高輝度 20,000 ルーメンのモデルと 4K 解像度、25,000 ルーメンのモデルの認証も控えているようで、劇場の用途に応じた選択肢もできそうです。

この一連のシリーズでは映像処理の心臓部であるメディアブロックも更新し、これまでの Christie® Solaria™ から Christie® CineLife に改めて、新たなシリーズとして市場に投入するそうです。

競合各社が蛍光方式を併用した廉価版レーザープロジェクターを売り出す中でも RGB レーザー方式にこだわり続けてきたクリスティーとして面目躍如のシリーズとなるでしょうか。

ソニーデジタルシネマディスプレイ DCI 認証取得

DCI 規定の直視型シネマディスプレイへの対応の見通しが立たない中、Samsung Onyx に続いて、Sony Digital Cinema Display がついに DCI 認証 (CTP1.2) を取得しました。

ソニーの LED シネマディスプレイに関するこれまでの展示では、DCP を使用した一般的な上映は行われず、展示用に作られた素材を使用したデモが行われてきましたが、今回初めて DCP を使用した通常の商業上映を行うことができる機材として認証されたことになります。

DCI の認証報告 (DCI認証機材: SONY: CLDC-11) によると、認証に使われた機材はこれまで汎用的な LED ディスプレイとして商品化されていた映像表示部 (ZRD-2) と表示制御部 (ZRCT-100) に加えて、一般的な DCP を上映するために必要なデータ処理装置 (Media Block / Screen Management Systemなど) が新たに組み合わされて、デジタルシネマの上映システムとして構成された模様です。

これにより理屈の上では Samsung Onyx と同様、実際の映画館に設置して商業上映に使用することができる上映機材として選択肢が増えたことになり、業界全体としては新たな希望として期待されるところです。

LED シネマディスプレイの DCI 認証と関連機材の今後の見通しについては、様々な角度から比較、分析すべきなので、これについては会員限定記事にて論じます。

ドルビーシネマ、日本上陸予定のアップデート

今年4月に松竹マルチプレックスシアターズMOVIXさいたまにドルビーシネマが年内に導入予定であるとの発表があり、正式日程の発表が心待ちにされていましたが、何とこの先を越して、ティ・ジョイ博多に今秋日本初上陸との発表(ティ・ジョイ:ニュースリリース)がありました。

ドルビーシネマ(Dolby Cinema)とは特殊映像表現方式であるドルビービジョン(Dolby Vision)と特殊音響表現方式であるドルビーアトモス(Dolby Atmos)により構成されるドルビーが推進するプレミアム上映方式です。(ドルビービジョンとドルビーアトモスという名称は家庭用の特殊映像/音響表現方式にも使用されていますが、技術的には全く別物と考えるべきです。)

ドルビーシネマの映像表現方式であるドルビービジョンは、通常のデジタルシネマの最高輝度とコントラストを大きく上回る上映を可能とする独自規格の上映方式で、米国では2015年に「トゥモローランド」(IMDb) で一般上映が始まり、既に100館を超えるプレミアムスクリーンで楽しまれています。

最高輝度だけで比較すると類似のプレミアムスクリーンを提供するIMAXもありますが、ドルビーシネマの大きな特徴は薄暗いシーンでも細部の映像表現を失わずにスクリーンに再現できるという点にあります。この点において、現時点で商業利用可能な上映方式として対抗できる技術はないでしょう。

唯一対抗できる可能性のある上映方式としてSamsung Onyxがありますが、現時点ではドルビーシネマに対抗する規格で商業上映は行われていません。

ドルビーシネマ日本上陸に関する懸念

さて、米国での導入から遅れること三年、念願のドルビーシネマが日本にも導入されることになったのは喜ばしい限りですが、表向きには語られない技術的な懸念もあります。

ドルビーシネマの大きな特徴として『薄暗いシーンでも細部の映像表現を失わずにスクリーンに再現できる』と書きましたが、日本で上映する際に懸念されるのは字幕との干渉です。

日本語の字幕は、多くの国の字幕と比べて、歴史的な習慣で極めて大きなフォント(字体)が使用されています。明るいシーンではそんなに気になりませんが、薄暗いシーンでは字幕の明るさが邪魔をしてドルビーシネマの最大の特徴である『薄暗いシーンでの細部の映像表現』が完全に失われてしまうことになります。

勿論、これを回避する方法もありますが、果たして日本で公開される際に、どのような形で公開されるのか、大変気になるところでもあります。

当然プレミアムスクリーンとしてプレミアム料金が課されることになると思いますが、観客としてはプレミアム料金に見合った体験が得られるように、注視しておきたいところです。

直視型上映機器の規格化に向けたDCIの覚書

LEDシネマディスプレイのような直視型上映機器の出現に伴い、これまでプロジェクターのような投射型上映機器を前提としてまとめられていた現行のDCIシステム規格(v1.2)を補完すべく、DCIシステム規格の改訂に向けた覚書が発行されました。

DCI Memorandum Regarding Direct View Displays

既に現行のDCIシステム規格のもとでDCI準拠の認定を受けているSamsung Onyxへの将来的な影響が気になるところですが、これに伴い直視型上映機器に関する業界内の動きが加速されるのは必至でしょう。

最終的に正式なDCIシステム規格として発行されるまで、まだしばらく時間が掛かりそうですが、要件として挙げられた項目は、対応を検討中のメーカー、スタジオ、ポスプロにとって重要なチェックリストとして見逃せません。

直視型上映機器の定義

まず最初に直視型上映機器(“Direct View Display”)とはどのように構成されるのかが定義されています。

  • スクリーン:直視型上映機器として機能するために必要なすべての機構を含むシステム全体を指します。
  • キャビネット:映像を表示する機能を構成するすべての機構を指し、通常複数のモジュールにより構成されます。
  • モジュール:キャビネットの映像表示部分を構成する要素で、通常劇場での修理交換などを行う際の最小単位となり、画素(発光要素)であるピクセルの配列により構成されます。
  • ピクセル:画素として必要な色域の光を発光できる最小の発光要素で、通常、赤、緑、青の3色のLEDにより構成されます。
システム要件草稿

19項目の検討項目がリストされており、まだ草稿ではあるものの、対応を検討する機器メーカーにとっては、製品設計に際して必要な施策を準備する上で、必要最小限の留意すべき項目のリストとなっています。

特に気になる項目としては、HDRへの対応、3Dへの対応、音響要件、セキュリティ要件などが挙げられます。特に音響、セキュリティに関しては従来の投射型上映機器とは基本的な前提が異なるため、機器メーカーは柔軟な発想を持って対応する必要がありそうです。

 

LED シネマディスプレイ比較

昨年よりLEDシネマディスプレイの実用化が現実化してきましたが、商品化で先を行くSamsungと商品化には慎重なSony、それぞれのLEDディスプレイについて、両者に関する情報が公になってきましたので、現時点での知見をもとに比較したいと思います。

ここでLEDシネマディスプレイというのは従来のスクリーンに映像を投射するのではなく、スクリーン面上に無数に配列した微小半導体LEDを発光させることにより映像を作り出すものを指します。光源を直視することから直視型ディスプレイとも呼ばれます。

LEDディスプレイといえばこのところ家庭用のテレビにOLED(有機EL)が普及してきましたが、画素をLEDで発光させるというコンセプトは同じでも、発光素子の性質として発光波長など細かく異なる点があることは記憶しておくべきでしょう。

実体験

Samsung

昨年のCinemaConのタイミングでプレス発表が行われた後、なかなか実際の映像を体験する機会がなかったのですが、今回のCinemaConでは既にDCI規格の認証も取得し、満を持しての公開でした。
DCI規格を取得したのは4Kシステムですが、CinemaConのブースには2Kシステムの仮設のデモルームが作られ、いくつかのデモクリップを観せてもらいました。その一つが以下のものです。
YouTube: Samsung Onyx: Cinema LED Technology
これ以外に実際の商業作品のクリップも見ることができたのですが、CinemaConの翌週には、ロサンゼルス近郊のPacific Theatres Winnetkaに米国内で初めて劇場導入された4Kシステムで実際の映画上映を体験することができました。

CinemaCon 2018 Samsung Booth

Pacific Theatres Winnetka

Sony

「公の場でのデモ」としては2017年のCinemaConで初めて体験し、今年のCinemaConでも再び4Kのデモを体験しました。さらに今年は先に開催されたNAB Showで8Kのデモを体験しました。CinemaConでは劇場環境を想定した暗い部屋でのデモ、一方のNAB Showではオープンブースに設置されて周囲が明るい環境でのデモをそれぞれ体験しました。

Sony Crystal LED Display System at NAB Show 2018

Sony Crystal LED Display System at NAB Show 2018

Sony Crystal LED Display System at NAB Show 2018

今回の比較ではこれらの実体験とその後の業界関係者との情報交換を通して得た知見をもとに記していきたいと思います。

映像

Samsung

CinemaConでは仮設のデモルームで2Kのデモ映像を見ることができました。漆黒の黒と高輝度の映像は期待通りのものでしたが、デモルームという狭い空間で2Kの映像を見るとやはり解像度の限界が感じられ、このシステムの実力を評価するには物足りない環境でした。

Pacific Theatres Winnetka lobby

しかし、その翌週には実際の映画館で「アベンジャーズ:インフィニティウォー」全編を観ることができました。色も画も、プロジェクター投射による映像にありがちな「にじみ」や「なまり」はまったく感じられず、輝度もコントラストも忠実に「規格通り」の映像が再現されている印象で、まるでスタジオのスクリーニングルームで試写を観ているような質感があり、素直にこのシステムの基本性能の高さを感じることができました。

Pacific Theatres Winnetka Screen 20

一方、この劇場には4Kのシステムが設置されていたにも関わらず、配給されているDCPは通常の劇場で上映するものと同じ条件で作成された2KのDCPであったこともあり、折角の4Kの解像度を体感することができなかったのは残念でした。劇場側としてもまだ試験導入というスタンスのようで、敢えてLEDディスプレイであることも掲示ておらず、チケット料金も普通のスクリーンと同じ設定でした。

Sony

デモ映像を見た限り、画素が点発光である所為か、Cystal LEDという名前に相応しく、クッキリとした鮮やかな映像を表現するのに適しているように感じました。デモ用に作られた映像では明らかに通常の劇場上映の規格を超えるコントラストとダイナミックレンジが表現されており、従来の映画映像の規格を大きく変える可能性のあるデバイスとして期待を抱かせるものでした。

現時点で両者の商品化のフェーズは全く異なっているのと、用意された映像ソースが必ずしもそれぞれのデバイスの能力を最大限に発揮できるように作られたものとはいえないので、ここで両者の優劣を語るのは避けたいと思いますが、共通していえる課題として、これらの性能を活かすことができる映画作品は誰がどのように作ってくれるのか、現時点では両者ともまったくの未知数だといえます。このプロセスを上手く確立できなければ、デバイスの性能も充分に活かされず、それに見合った興行収入に結び付けるのも難しいでしょう。

発光素子、色、色域

個々の発光画素は自由に色を変えて発光するように見えますが、赤(R)緑(G)青(B)それぞれ単色のLED発光素子を組み合わせて構成されており、個々の出力を調整することで様々な色を発光します。

各発光素子の材料系など細かな情報は公開されていませんが、すべて半導体LEDを使用しているため、表示可能な色域は両社とも概ね同じであると推測されます。特に半導体LEDの弱点である緑の発色については共通の特徴として留意しておくべきです。すなわち、このところ次世代の映画フォーマットの基準として関心を集めている広色域化の要求を満たすのは困難なデバイスであることは記憶しておくべきでしょう。この点については業界関係者の間でも概ね認識されていますが、これ以外の魅力も多いデバイスでもあり、現時点でこれを問題視する声もあまり上がらないというのが現状のようです。

発光画素

発光素子として半導体LEDを使っていても、発光画素の形態には両者の間に大きな違いがあります。

Samsung

表面から見た個々の発光画素は正方形かそれに近い矩形の突起となっており、散光板(diffuser)のような材質の表面から均質に光が出力されるように見えます。RGBそれぞれの発光素子を目視することはできませんが、表面の散光板のお陰か、出力される光は綺麗に混ざり合って見えます。画面すれすれの角度から見ると若干色のズレが認められますが、そのような角度から映画を観ることはないので、実用上は問題ないでしょう。

個々の発光画素はつや消しの黒の素材の基板上に配列されているのと、発光素子の表面は散光板状の素材で作られているため、周囲からの光が反射することはなく、また乱反射も極めて低レベルに抑えられているのが分かります。通常の映画のスクリーンも外光の反射はありませんが、スクリーンに当たる光は効率的に乱反射するように作られているので、劇場内の無駄な光も散乱させ、黒のレベルを引き上げる要因になっています。その点において、SamsungのLEDディスプレイはこの問題を意識できないレベルまで低減できていると感じられます。

Sony

表面が透明なガラスで覆われた下に黒色の基板がありそこに発光画素が配列されていますが、電源オフの状態では一見何もないガラス板にしか見えません。じっくり目を凝らしてみると点状の素子が配列されているのが分かりますが、肉眼ではRGBそれぞれの発光素子を区別するのは不可能で、実際に発光させてみても「点」光源から画素毎の色の光が出力されており、RGBの三原色で色が作られていることを肉眼で確認することはできません。見る角度による色のズレも感じられません。

発光した時の色の鮮明さは極めて高く感じられますが、表面が透明なガラスで覆われているため、低反射コーティングが施されているとはいえ、見る状況、周囲の光の状況によっては反射光が気になることもあります。可能性は低そうですが、映画館のような暗い環境でも、条件次第で画面のLED光で照らされた客席からの照り返しが再度画面で反射して見えてしまうことはないのか確認したいところです。

コントラスト、ダイナミックレンジ

プロジェクション(投射)方式では、小さな画像素子から反射された光を、多くの光学素子を複雑に組み合わせた光学系を通して遠方のスクリーンに投射、結像させなければならないため、画像素子で作られた筈の高品質の画像がスクリーンに映し出されるまでに様々な形で「なまって」しまいます。

LED方式では画素一つ一つの出力を直接デジタル制御して、DCPの中に作り込まれた画像データがそのまま実際の画像として表示されるので、原理的には制作時に意図された微妙な濃淡や明暗を極限まで忠実に再現することが可能です。

解像度と画面サイズ

画面解像度は縦横に配列された発光画素の数で表されます。

プロジェクターからの投射映像のようにレンズでズームすることはできないので、作り込まれた画面の大きさとその表面に配置された発光画素の数で、解像度と表示可能な画面の大きさが固定値として決まってしまいます。この点が、LEDディスプレイを劇場で使用する際に、最大の制約となってしまうと言っても良いでしょう。

発光画素は精密な半導体素子により構成されているため、現在の製造技術では素子の間隔を自由に拡大縮小するのは難しく、製造メーカーとしてもいくつもの異なるサイズで製造するのは採算性を考えると非現実的だといえます。

LEDディスプレイの商品性として、現行のプロジェクター投射の劇場をすべて置き換えることを目指すのか、それともプレミアムスクリーンに限定した置き換えを目指すのか、さらにその場合、どのような大きさのスクリーンを対象にするのか、これらを冷静に分析して商品戦略を立てることが重要だといえます。

音響

現在普及している映画館の音響方式の代表的なものとして5.1または7.1チャンネルサランド方式がありますが、家庭用で一般的な(2チャンネル)ステレオ方式とは異なり、劇場内の周囲から包み込むように独立したチャンネルが配置されています。ステレオ方式との大きな違いのひとつに正面中央に配置されたチャンネルがあります。現在通常の映画館ではスクリーンの正面方向から音を出すために、布製のスクリーン全面に細かい穴が開けられており、スクリーンの背後に設置されたスピーカーからの音が客席に向かって出るようになっています。

LEDディスプレイを採用した場合、現状ディスプレイ前面から音を出力することができず、スクリーンと同様の方式で音を出すことができません。このことはLEDディスプレイの共通の課題として認識されています。

Samsung

LEDディスプレイ本体前面から音を出すことができないので、擬似的に前面から音が出ているように感じさせる仕組みを劇場音響メーカーと共同で開発しています。その仕組みを簡単に説明すると、ディスプレイ上端に客席に向けた反響板を設置し、ディスプレイとは別に設置された音源から出る音を反響させて、間接的に客席に響かせるようにしています。この方法は苦肉の策としては、ある程度の効果はあるようですが、劇場内の座席の位置や聴く人の感じ方次第では、さらなる改善が求められるレベルだといわざるを得ないでしょう。実際、私が着席したのは劇場内の中央部の座席でしたが、前面からの音声は明らかに上方から出ているのが感じられ、シーンによっては違和感を感じることもありました。一方、劇場後方の座席では恐らくこのような影響は軽減されると思われますが、通常プレミアム席が設置される中央部で制約が出てしまうのは残念なところです。

Sony

LEDディスプレイ前面から音を出すことができないのはSamsungと同じで、まだ実際の劇場への導入も未計画の現時点では明確な対策は打ち出されていません。ただ家庭用のOLEDテレビではディスプレイ前面から音を出す製品も出されているので、画面全面がガラスで覆われているという構造を活かして、このような技術との組み合わせによりこの問題を解決するような製品が出てくることを期待したいところです。