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Samsung Onyx LED Cinema、その後の動向

サムスンの LED シネマの最新のデモを見る機会を得ましたので、その後の動向をまとめてみます。

今回のデモはシネマ業界の恒例のイベントのひとつである ICTA Seminar Series LA 2019 の参加者に対して行われたもので、Samsung Onyx LED Cinema に関する各種技術検討の状況が紹介されました。

Samsung Onyx LED Cinema の現状

Samsung Onyx は上映システムとして DCI の認証を取得後、これまで世界各地の映画館に導入され、一般の商業上映に使用されてきました。日本の映画館への導入はまだありませんが、劇場での上映システムとして日常的な運用に耐えるものであることは実証されたと考えても良いかも知れません。

ただこれらは LED シネマ本来の性能を活かした上映ではなく、従来の上映システムと同等の性能を実証してきただけなので、従来の上映システムとの差別化を図るには、LED シネマならではの特徴を発揮できることを示す必要があるでしょう。

デモ設備

今回デモが行われたのはロサンゼルス郊外のシネコン Pacific Theatres Winnetka の20番スクリーンで、4K 解像度の Samsung Onyx が常設されています。

ここでは普段、通常作品が通常価格で上映されており、これまでに2作品を楽しませてもらっていますが、今回はこの上映システムを使用して、技術検討中の特殊なコンテンツが上映されました。

技術検討:HDR映像

LED シネマならではの特徴の最たるものはハイダイナミックレンジ (HDR: High Dynamic Range) を活かした映像表現といえるでしょう。

今回用意されたデモ映像は、Dolby Cinema と同等の最高輝度で制作されたもので、通常条件で制作された映像と交互に上映されました。

結果は予想通りでしたが、きらめくようなピーク輝度と漆黒の黒のコントラストは Dolby Cinema と同等以上の品質で映像を表現できると言って良いでしょう。

これは、適切に DCP を制作すれば、すぐにでも Dolby Cinema と同じ条件の映像で上映することができることを意味します。

最高輝度の適正値を検討するために、さらに最高輝度を高めた映像も上映されましたが、こちらの方は、映画館という暗い環境で楽しむ映像としては、眩しすぎるという印象を受けました。

この印象は映像の性質、特徴によっても大きく異なると思われるので、ここで結論付けることは避けますが、映画館向けの HDR としては、通常上映の2倍程度、すなわち、現状の Dolby Cinema の最高輝度がちょうど良い明るさなのではないかと感じています。

では、現状の Dolby Cinema 用の作品をそのまま Samsung Onyx で上映できるかというと、技術的にもビジネス的にも不可ということになります。

現状の Dolby Cinema 用の DCP は技術的には標準的なデジタルシネマの規則に則って作成されていますが、上映時の信号処理は Dolby Cinema 独自の方法で行う必要があり、Dolby Cinema 以外の上映システムで上映しても、同じ品質を再現することはできないためです。

技術検討:音響

LED シネマの重要課題である音響への取り組みについても紹介されました。

現状、一般的な上映作品の音声は基本 5.1ch で制作されており、正面中央、正面右、正面左、右サラウンド、左サラウンドの 5 チャンネルに加えて、無指向の重低音の 1 チャンネルで構成されています。

さらに上位の方式として、後方左右のサラウンドを加えた 7.1ch の音声も一般的に流通しています。

これらを上映する映画館でも、それぞれのチャンネルを適切なスピーカーに出力することで、作品本来の音場を再現することが求められます。

映画館で劇場内の周囲の壁を見渡すと多数のスピーカーが設置されていますが、その殆どはサラウンド用のスピーカーで、正面左右のスピーカーは通常客席から見えないところに設置されています。

プロジェクターからスクリーンに投影する従来の映画館では、一般的にスクリーンの背後に正面左右と重低音用のスピーカーが設置されています。

一般的な樹脂加工されたスクリーンの表面には無数の穴が開けられており、前方チャンネル(正面中央左右)の音はこの穴から漏れ出てくることにより、劇場内に響き渡るように設計されています。

ここで LED シネマで大きな懸念材料となるのがこの前方チャンネルの音を如何にして劇場内に響き渡らせるかという点です。

現状の LED ディスプレイの構造では背面に置かれたスピーカーから前方に音を響かせることはできないので、苦肉の策ともいえる工夫で対処しようとしています。

LED ディスプレイは剛性の高い大きな平面の壁のようなものなので、背面から音が通らないのであれば、これを反響板として使ってみようというものです。

前方チャンネルを出力するスピーカーを劇場の天井と側面に前方に向けて設置し、LED ディスプレイから反射する音で前方チャンネルによる音場を再現することを試みています。

その際、反射の特性を解析し、各スピーカーに対する出力バランスと遅延を調整することで、前面にスピーカーが設置されているのと変わらない効果を得ようとしているようです。

実際に体感した感想ですが、確かに劇場中央部から後方にかけては概ね自然な音場が得られているのに対し、劇場前方の中心から左右に外れた座席では明らかに不自然な方向から音が届いていることに気付かされました。

折角の高品質な映像なので、視野を覆い尽くすような大画面(広視野角)で楽しみたいですが、その場合、劇場内の座席をかなり注意深く選ぶ必要がありそうです。

映像、音響ともまだまだ解決すべき課題が残る LED シネマですが、今後のさらなる技術革新を期待したいところです。

作成者: Yoshihisa Gonno

デジタルシネマ黎明期の2005年から国内メーカーで初のデジタルシネマ上映システムの開発をリード。その当初からハリウッド周辺の技術関係者との交流を深め、今日のシネマ技術の枠組みづくりに唯一の日本人技術者として参画。
2007年から5年間、後発メーカーのハンディキャップを覆すべく米国に赴任。シネマ運用に関わるあらゆる技術課題について、関係各社と議論、調整を重ねながら、自社システムの完成度を高め、業界内での確固たる地位を確立。
2015年からは技術コンサルタントとして独立。ハリウッドシネマ業界との交流を続けながら国内のシネマ技術の向上に向けた活動を続けている。
2018年から日本人唯一の ICTA(国際シネマ技術協会)会員。
プライベートでも「シネマ」をこよなく愛し、これまでのシネマ観賞(劇場での映画観賞)回数は1500回を優に超える。

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