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コラム レポート 事業者向け 初級

CinemaCon 2019 (4/1-4)

今年も恒例のシネマ業界最大のトレードショー CinemaCon に参加してきました。昨年の報告に続いて、今年も気になった話題を並べてみます。

先行き不透明な各種プレミアム上映方式

多種多様な特殊上映方式が乱立する状況は依然として混迷を深めており、導入を検討する劇場主 “theatre-owners” にとっても、一般の映画愛好家 “moviegoers” にとっても、分かりにくい状況が続きそうです。

画面の大きさだけが重要なのか、解像度は要らないのか、明るければ良いのか、暗さは重要ではないのか、画面が三面あると嬉しいのか、本当に 3D が必要なのか、座席が揺れて映像を楽しめるのか、どんな音響が欲しいのか、上映中にどんなものを食べたいのか、映画館なのかアミューズメントパークなのか、そもそも『普通の上映』と比べてどのように価値が高い(或いは低い)のか、改めて問い質したくなることが沢山あります。

新規導入や設備更新を検討中の劇場様には、是非とも上質な映画体験を提供するにはどの方式が適しているのか、慎重に検討して頂けることを願うばかりです。

レーザー化:RGB、蛍光励起、レトロフィット

業界全体としてプロジェクター光源のレーザー化の流れに変わりはありませんが、RGB方式、蛍光励起方式、そしてランププロジェクターの光源変更(レトロフィット)という選択肢が横並びとなっています。

各方式とも一長一短があり、唯一ベストという方式はなく、劇場毎の置かれた状況に応じて適切な選択が求められる状況といえます。

シネマ LED ディスプレイ:Samsung vs. Sony

昨年はメインブースでミニシアターを作ってお披露目をした Samsung Onyx でしたが、既に世界各地で商業上映に使用されていることもあり、今年はメインブースでは専ら個別商談に勤しんでいるようでした。

一方の Sony Crystal LED は昨年 DCI 認証を取得したものの、特に展示も説明もなく、今後の展開について不安を感じさせました。

両者ともそれぞれに技術課題が山積している状況は共通していますが、その取り組み方には大きな隔たりがあることも感じることができました。

スタジオ動向:消えた Fox

一昨年に Disney による映画テレビ部門買収の話が公になって以来、いつかこの日が来ることは予想していましたが、ついにこの3月手続きが完了し、CinemaCon のスポンサーからも名前が消えてしまいました。ハリウッド6大メジャーの一角として長らくその名を連ねてきた Fox でしたが、デジタルシネマの技術要求を取りまとめる DCI (Digital Cinema Initiative) からもその名が消えてしまいました。

例年お楽しみのスタジオ各社の新作紹介のイベントですが、ハリウッドメジャー『5社』の中では唯一 Sony Pictures のイベントが無かった一方で、Lionsgate、NEON、Amazon Studios がそれぞれ新作本編の上映会を催し、意気込みの強さを感じさせてくれました。

劇場向けにも一部作品の提供を始めた Netflix ですが、まだ CinemaCon とは微妙な距離を保ちながら気配をうかがっているようにも見えます。

おまけ:Dolby Cinema による新作上映

今回、ホテル内の劇場に設置した仮設の上映設備であったにも関わらず、Dolby Cinema 相当の上映環境が作り込まれ、実際に数作品の新作本編は贅沢にも Dolby Atmos+Vision でマスターされた DCP で上映されました。

こちらには記載できなかった話題もありますので、ご興味のある方はこちらより個別にお問い合わせください。

作成者: Yoshihisa Gonno

デジタルシネマ黎明期の2005年から国内メーカーで初のデジタルシネマ上映システムの開発をリード。その当初からハリウッド周辺の技術関係者との交流を深め、今日のシネマ技術の枠組みづくりに唯一の日本人技術者として参画。
2007年から5年間、後発メーカーのハンディキャップを覆すべく米国に赴任。シネマ運用に関わるあらゆる技術課題について、関係各社と議論、調整を重ねながら、自社システムの完成度を高め、業界内での確固たる地位を確立。
2015年からは技術コンサルタントとして独立。ハリウッドシネマ業界との交流を続けながら国内のシネマ技術の向上に向けた活動を続けている。
2018年から日本人唯一の ICTA(国際シネマ技術協会)会員。
プライベートでも「シネマ」をこよなく愛し、これまでのシネマ観賞(劇場での映画観賞)回数は1500回を優に超える。

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